※童話の更新は週1回(だいたい土曜日の夜)です(^0^)/

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2018年8月12日日曜日

いつも見守ってくれる人[前編]

妹が死んだ。

かけがえのない妹だった。

明るくて、とても優しい妹だった。

やんちゃをやり過ぎて、近所はおろか、
両親や親戚からも煙たがられていたオレを、
ただ一人、かばってくれる妹だった。

突然すぎて、まだ受け入れられない。

でも、もう、妹はいない。

この一週間くらいずっと泣き続けた。

オレには冷たい視線を送る、両親も親戚も、
妹のために、みんな泣いていてた。

みんな、もう一生分の涙を流したと思えるほど、
泣いた。

それほど、妹の死は突然すぎて衝撃だった。

オレは、悲しみから抜けきれない両親を実家に置き去りにし、
逃げるように、1人暮らししているアパートの部屋に
帰ってきた。

悲しさから抜けきれないのは、オレだって同じだ。

抜けれる訳がない、妹は、この世でオレが唯一、
信頼できる人間だった。

そんな妹に、もう、会えないのだから……。

オレは、ソファーの上に倒れるように仰向けに寝そべり、
目を閉じた。

もう一度だけでいい、会いたかった。

会って言いたいことがあった。

「お兄ちゃん」

こうしていても、いるはずのない妹の声が聞こえてくる。

「お兄ちゃん」

まるで、妹が、すぐ近くにいるようだ。

「お兄ちゃん、ってば」

いや、リアルすぎないか?

「もしもし~、お兄さーん、起きてくださ~ぁい」

オレは目を開いた。

そして開いた目を、さらに大きくした。

そこには、ニコッ、と効果音が出そうな笑顔をした、
妹の顔があった。

「うわぁっ!」

驚いて、思わず飛び上ってしまった。

「もう、妹を見て、そんなに驚かないでよ」

と、口を尖らせる妹の仕草は、まぎれもなく
妹そのものだった。

「おまえ、なんで、ここに?」

そう尋ねると、

「お兄ちゃんが、あたしに会いたいって念じてたから、
 会いに来ちゃった」

「会いに来ちゃった、って、そんなに簡単に?」

「うん、実はね、あの世もお盆休みなんだって」

「お盆休み?」

「そう」と頷く妹を見て、確かに世間は今日からお盆休み
だということに気づいた。

オレは先週から休んでいたけど、今日からはお盆休みで、
仕事に行かなくてよかった。

ちょっとした長期休暇だ。

なるほど、死んだ人が一年に一度、この世に帰って来る
ということは、あの世は閑散としてる訳で、それこそ、
本当のお盆休みというところか。

と、みょうに納得してから妹に訪ねた。

「じゃぁ、おまえはお盆中だけいるのか?」

「それがさぁ、自分でも分かんないんだぁ、
 いつまでいられるのか、今すぐ帰るのか、
 明日いなくなっちゃうのか、まったく分かんない」

ヤレヤレ、といった仕草をする妹。

この感じ、本当に、これは妹だ。

妹が帰って来た!

オレは喜んで、妹に抱きつこうとした。

「お帰り!」

「ただいま!」

と、妹は答えてくれたが、オレは妹の体を突き抜けて、
バランスを崩して、前のめりに倒れ込んでしまった。

「大丈夫? お兄ちゃん」

大丈夫だ、と上半身を起こしながら、

「なんだ、おまえには触れられないんだな」

「そうみたいね」

と、軽い口調で他人事のように言うあたりが、
まさに妹だった。

それからオレはソファーに座り、妹と話をした。

妹は、座らなくてもぜんぜん平気! と言って、
ふわふわと浮かびながら、ずっと話をしていた。

いつ会えなくなるか分からないから、
できるだけ長く話をしていたかった。

子どものころの話、最近の出来事など、
たわいのない話から、お通夜や、お葬式の話などもした。

「自分のお葬式の話をされるのも、変な気分だね」

と、妹は笑った後で、

「でも、あたしなんかのために、
 そんなに泣いてくれる人がいたなんてね」

と、ちょっとしんみりとした顔になった。

かなり長い時間話したところで、
オレはトイレに行こうと立ち上がった。

すると、妹がオレに着いて来ようとする。

「え、なに? トイレに行くんだけど」

「え、知らなーい、あたし、ひとりでに動いてた」

オレはそのままトイレに向かうと、妹もついて来た。

「え!」

「えっ!」

結局、トイレの扉を閉めても、ドアをすり抜けて
妹は中まで入って来てしまった。

「ごめん、あたしにもどうもできない」

と、妹が言うので、仕方なく、なるべく見えないように
体を傾けて、用を足した。

ソファーに戻っても、なんだか気まずい雰囲気になった。

妹も、ちょっと視線をそらしてふわふわと浮かんでいた。

それから、また話を始めると、前と変わらず盛り上がった。

気付くと、夜もだいぶ深まって来ていた。

明日も休みだけど、話疲れて眠くなってきた。

「おまえは、ベットで寝るか?」

「ううん、ここまま浮いてる、それに眠くないし」

「そっか、おまえが眠くないんじゃ、
 お兄ちゃんも寝ないでおこうかな」

と言うと、するとすかさず、

「ダメ!」

という妹の声が聞こえてきた。

「いつも言ってたでしょう! 規則正しい生活が
 大事って!」

そうだ、実家で妹と暮らしていたとき、
不規則な生活が多いオレは、いつもそう妹に言われていた。

「不規則な生活が、心の乱れになる、だろ」

「分ってるじゃない、ホラ早く寝る準備しなさい」

「ヘイヘイ」

オレは半分おどけてから、寝る準備を始めた。

洗面所で歯を磨いた。

トイレに行った。

そしてお風呂に入った。

その全てで、妹は、オレのそばでふわふわと浮いていた。

あえてなにも言わなかった。

死んだ妹がそこにいるだけで、良かったから。

「明日、起きたら、いなくなってたら怒るぞ」

「そんなの分かんないよ、でも、まぁ、
 明日の朝は、いるような感じがするよ」

と、妹らしい根拠のない自信を信じて、
その日は寝ることにした。

翌日、妹は変わらずそばに浮いていた。

ずっと、オレの寝顔を見ていたらしい。

その日もずっとしゃべり続けた。

次の日も、次の日も……。

そして1週間がたった。

妹は相変わらず、オレのそばでふわふわと浮いていた。

どこへ行くのも、妹はついて来た。

どうやらオレのそばから離れることはできないらしい。

今までは、オレもお盆休みだったから、ほとんど家の中で
生活することができたが、今日でお盆休みは終わり、
オレは仕事に行かなくてはならなかった。

オレは正直、生活の全てを妹に見られることに、
嫌気を感じていた。

自由に動くことができない、妹も同じ気分のようだ。

あれだけ話をしていたのに、
二人の間には、段々、会話もなくなっていた。


[後編]へつづく……