2019年1月5日土曜日

スギの木100本

むかしむかし、どんな悩みでも解決してしまう
和尚さんがおりました。

となりの村に住む役人さんは、噂を聴きつけて、
悩みを相談しに、和尚に会いに行きました。

「悩みはなんじゃ」

と、和尚に問われ、板の間に正座していた役人は、
少しバツが悪そうに頭を軽くかしげてから話しました。

「実はお寺を建て直したいと思っておりまして……」

「おう、お主がこの寺を建て直してくれるというのか」

と、笑顔で言う和尚に、

「いえいえ、このお寺ではありません、私の村の寺でございます」

「なんじゃ、そうか。おかしいと思ったんじゃ、
 この寺は、立て直す必要などないからのぉ」

和尚は周りを見まわしながら言ったので、
役人はなんとなく頭を下げました。

和尚は眉をひそめ、不思議そうな顔をして、

「寺を建て直すなんていいことではないか、
 どこに悩みがあるのじゃ」

「はい、それがですねぇ……」

役人はなるべく誤解のないように言葉を選んでから、
慎重な口調で話を始めました。

「実は、役所には寺を建て直すお金も資材もありません。
 それで、寄付を集めようとしているのですが……」

「うまく、集まらんと」

「その通りでございます」

役人は「さすが和尚、全て御見通し」と深々と頭を下げました。

「うむ」

と、和尚は頷いてから、

「その寺の和尚は、何か言ってはおらぬのか?」

「はい」

役人は、相変わらすバツの悪そうな表情をしながら、

「実は、寺の和尚は頑固者でして、
 寺の立て直しに反対でございます」

「なんと!」

驚いたように和尚の眉が動いたのを見てから、
役人は話を続けました。

「寺は今にも倒れそうなくらいボロボロでして、
 この前の大晦日には、ほんの数人が本堂にあがっただけで、
 床が落ちるしまつです」

「それは、大変なボロじゃのう」

「なので、建て直しを提案したのですが、先祖代々続くこの寺を、
 建て直すなんてけしからん、の一点張りで……。
 挙句の果てには、建て直すのなら勝手にしろ、寺は何の協力もせん、
 という始末で……」

話を聴いていた和尚は「う~ん」と言ってから目を瞑り、
何かを考えている様子でした。

役人は、呟くように言いました。

「そこで、寄付で何とか建て直したいと思っているのですが、
 なかなか集まりませんで……、
 そのぉ……他の寺の建て直しの相談で、心苦しいのですが、
 お知恵を拝借できませんかと……」

役人が言い終わるのと同時に、和尚は目を開き、

「寄付金を出せる村人はおらぬのか?」

「はい、みんなお寺が協力しないと言っているのに、
 なぜ我々が、寄付をしなきゃならんのだ、と申しております」

「そりゃそうじゃろうのぉ……」

和尚は再び目を瞑りました。

役人は、床に正座したまま、和尚の話をじっと待ちました。

外で小鳥がエサをつついている音が聞えてきそうな、
静かな時間が流れました。

やがて、和尚は目を開き声を出しました。

「ダメじゃ、なんの良い知恵も浮かばん」

「───へ?」

良い知恵がもらえると思っていた役人は、思わず、
間の抜けた声を出してしまいました。

和尚は続けます。

「なんの知恵も出せないのは申し訳ござらん。
 変わりに、寄付をしましょう」

役人は、寄付をしてもらえるなら、
それでもいいかぁ、と思い直し、

「ありがとうございます」

と、頭を下げてから、「では、いくらほど」

「スギの木を100本、寄付しましょう」

「ス、スギの木、100本も!!」

役人は驚き、声が裏返ってしまいました。

「なんじゃ、不服か?」

という和尚に、

「と、とんでもありません。ありがとうございます」

と深々と頭を下げました。

「うむ、待っていろ、今、一筆書いてやろう」

和尚は立ち上がると、紙と筆を持って来て。
スギの木を100本進呈する、という内容の文章を書きました。

「さぁ、これを持っていけ、必要になった時に、
 取に来るがよろしい、いつでもスギの木100本を寄付しよう」

役人は両手で和尚が出す紙をもらうと、
もう一度深々と頭を下げました。


いいものをいただいた、と思った役人は村に戻ると、
和尚が書いた紙を持って、すぐに寺にいきました。

そして、頑固者の和尚の前に、
隣街の和尚が書いた紙を置き、

「どうです、隣街の和尚は、スギの木を100本、
 寄付してくれると約束してくれましたよ」

と言いました。

紙を手に持ち読んでいた頑固者の和尚の両手が、
プルプルプルと震えてきました。

そして、

「なんと! 隣の街の和尚になぞ負けては、
 ご先祖に会わせる顔が無い、ヒノキを100本お前に託す!
 好きに使え!!」

と、紙と筆を用意して、ヒノキ100本と書きました。

喜んだ役人は、その足で、村一番の大金持ちの
庄屋さんの家に向かいました。

「寺の頑固和尚が、ヒノキ100本を寄付すると言いました」

「なんだと! あの頑固者がヒノキ100本だと!
 なっ、ならばわしは、米を100俵を寄付してやる!」

と、紙に書いて渡してくれました。

「ありがとうございます!」

役人は、隣街の和尚と頑固者の和尚と庄屋さんの紙を持って、
村中を駆けずり回りました。

みんな、お寺と庄屋さんが協力するならと、
量の違いはあれど、進んで寄付をしてくれるようになりました。

そしてあっという間に、寺の建て直しには十分な寄付を
集めることができました。

隣街の和尚のスギの木100本の寄付が無くても
立派な寺が建つことでしょう。

しかし、役人は考えました。

(必要はないけど、この際、せっかくだから、
 スギの木100本もいただいておこう)

役人は寄付が成功した報告と、約束通りスギの木をもらおうと、
再び隣街の和尚を訪ねました。

「この度は、お寺を建て直すのには十分な寄付が集まりました」

と、役人がお辞儀をすると、

「それは良かった」

と、和尚は満足そうな笑顔を浮かべながら何度もうなずきました。

和尚が機嫌が良さそうなのを確認すると、
役人は、懐から紙を出しながら遠慮がちに言いました。

「それでなんですが、今日はお約束のスギの木100本を
 いただきにまいりました」

「おう、そうかそうか」

役人は遠慮がちに言ったのに、和尚は軽い口調でそう答え、

「今、持ってくるからちょっと待っていろ」

と言って、どこかへ行ってしまいました。

和尚が出ていた障子を眺めながら役人は、

(スギの木100本が、あっさりと手に入りそうだな)

と、喜びながらも、

(それにしても、持ってくると言ったが、どういうことだ?)

スギの木100本は、そう簡単に持ってこれまい、と、
小首をかしげていると、サーッ、と障子が開きました。

「悪い悪い、待たせた待たせた」

和尚は入って来るなり、役人の前に、ドカッと座りました。

そして、右の手を前に差し出し、握っているものを見せました。

「これは……」

役人が困っていると、和尚は軽い口調で言いました。

「スギの木でできたお箸だ」

「な、なんと!」

驚いた役人は、両手を広げ、スギの木でできた箸を受け取りました。

慌てた役人が、

「こ、これはなんの冗談でしょう?」

と言うと、

「なんだ、冗談ではない、数えてみろ、ちゃんと100本あるぞ」

「いゃ、いゃ~ぁ、そう意味ではなく~」

「じゃぁ、なんだ」

「いや、和尚さんから、スギの木を100本いただけると
 思いましたので」

「だからあげたであろう、お主が持っているものはなんだ」

「スギの木です」

「何本ある」

「100本以上あるでしょう。でも、これはお箸です」

「うむ、お箸だ、しかしスギの木だ。
 なにか問題でもあるのか?」

「けっ……」

隣村の役人は、だまされた! と思いました。

(まったくなんてヒドイ和尚だ、こんなごまかしをしおって!)

怒りも湧いてきました。しかし、それと同時に、

(まぁ、いいさ、寄付は十分集まっている、こんな意地の汚い
 和尚のスギの木などなくても、寺は建て直せる!)

そう思い、一礼して勢いよく立ち上り、帰ろうとしたとき、
和尚が一言呟きました。

「寄付は十分集まったはずだろ?」

役人は“ハッ”として和尚の顔を見ました。

和尚の目が、しっかりと自分を見据えています。

全てを見透かしているようなその目は、
たじろぐには十分な迫力がありました。

和尚は続けます。

「わしが書いた紙を見せたら、村の頑固者の和尚はわしと同等か、
 それ以上の寄付をすると言ったはずじゃ、ご先祖に顔向きできん
 とかなんとか言ってなぁ」

役人はゴクリと唾を飲み込みました。

和尚は構わず続けます。

「頑固者の和尚が寄付すると言えば、庄屋さんなどが、
 あとに続くであろう。
 庄屋さんが動けば村人だって協力する。
 わしの寄付なんてなくたって、村だけで十分な寄付が
 集まったはずだと思うが───違うのか?」

「い、いや、」

と、反論しようとした役人に、和尚は語気を強めて言いました。

「その上で、寺の建て直しに関係の無い隣街の和尚から、
 寄付を募るとは、イササカ虫が良すぎるのではないか!」

役人は、しばらく棒立ちになってから、すぐにひれ伏しました。

「申し訳ありません。寄付を求めるのではなく、
 お礼だけを言うべきでした」

床にべったりと額をつけて謝る役人の耳に、
和尚の優しい声が聴こえてきました。

「寺を建て直すのに、たくさんの人が拘わるであろう、
 めしを食う時に、その箸を使うがよろしい」

役人は顔を上げ、和尚を見ました。

和尚は、満足そうに満面に笑みを浮かべて、
優しそうな目を向けていました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集
『 杉の木、百本 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/07/03a.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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