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「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年12月8日土曜日

父ジカの負けられない戦い

シカは、まだ幼い息子と一緒に、
水飲み場で水を飲んでいました。

大自然で生きるシカは、水を飲んでいる時も命がけです。

他の動物が襲ってこないか、常に辺りを伺っていました。

遠くの方にイヌたちがいて、水飲み場に近づいて来るのが
分かりました。

「イヌたちが近くにいる、逃げるぞ!」

シカは息子に言うと、水飲み場に背を向けて
走り出しました。

息子がついて来ているか、チラッと後ろを見ると、
懸命に走っている姿がありました。

しばらく走ったところで、安全を確認したシカは、
走るのをやめて歩きました。

追いついて来た息子は、横に並んで歩いています。

「ねぇ、父さん」

声を掛けられシカは返事をしてから、
息子に顔を向けました。

「なんで父さんは、イヌを見ると逃げるの?」

不意の質問に、シカは答えました。

「なんだ、逃げちゃダメか?」

「だって、父さんはイヌよりも大きいし、
 角だって生えている、イヌなんかにやられない
 と思うケド」

「んー、そうだなぁ」

シカは少し考えてから、確かにイヌにはやられないと思う、
と言うと、

「だったら、戦えばいいのに」

「えっ」

息子に言われて、シカは驚きました。

「戦うって、イヌとか?」

「そうだよ、だってやられないんでしょ」

「やられないケド、父さんは戦いたくないなぁ」

「なんで?」

「なんでって」

と、言ってからシカは考えながら話しました。

「だって戦ったらやられないまでも、ケガするかもしれないし、
 そもそもやられないという保障は無いしな」

「えーっ、どういうこと? よくわかんない」

と、息子に言われ、シカは困りました。

「おまえは、父さんに戦って欲しいのか?」

「うーん、よくわかんな」

と息子は首をかしげて言ってから、住み家の方へ向かって、
走って行ってしまいました。

息子の後ろ姿を見ながら、シカは思いました。

(逃げないで、戦うかぁ、考えもしなかったなぁ……)

複雑な思いをしながら、シカも住み家に帰って行きました。


翌日のことです。

シカが目覚めると、息子がいないことに気づきました。

(どこへ行ったんだ?)

住み家の近くを探しても、どこにも見当たりません。

(どこだ、どこへ行ったんだ)

シカは、ドキドキしました。

(息子の身になにかあったのかも知れない)

そう考えると、居ても立っても居られなくなりました。

仲間のシカに訪ねると、水飲み場の方へ行ったようだったけど
と言われ、水飲み場へ向かいました。

(まったく、1人で水飲み場に向かうなんて
 どういうつもりだ! あれほど言ったのに)

普段から、1人で行動するなと口酸っぱく
言いきかせていました。

シカは、怒りも感じていましたが、それよりも息子への
心配の方が優っていました。

(無事でいてくれよ)

水飲み場に近づいたとき、その光景が目に飛び込んできました。

目の前に何頭かのイヌがたむろしています。

目をこらして見てみると、たむろしているイヌのまん中に、
横たわった、なにものかがありました。

(息子だ! なんてこと!)

息子は横たわったまま、ぐったりとしています。

シカは4本の足に思いっきり力を込め、
地面を力いっぱいけりあげて、
一目散に走り出しました。

「ダダダダダダーーー!!!」

物凄い勢いで角を構えて、
たむろしているイヌに襲い掛かりました。

“グニュッ”

鈍い音とともに角が1頭のイヌにぶつかりました。

そして、シカが大きく首を振ると、

「キャイン~」

という鳴き声とともにイヌの体は、ピョーン、と空中に
舞い上がりました。

シカは飛び跳ねるように翻って、すぐ横にいたイヌの
腹あたりに角を勢いよくぶつけました。

“グニュッ”

という感覚とともに、そのイヌも空中に、ピョーンと、
飛んでいきました。

仲間のおぞましい姿を目の当たりにした他の犬たちは、
驚いた様子で、我先にと一目散に逃げて行きました。

空中に舞い上がったイヌも、着地すると、おぼつかない
足取りで、遠ざかっていきました。

砂ボコリが舞い上がっている中でシカは、
息を切らせながら、倒れている息子に近寄りました。

”ゼェー、ゼェー”

目をこらして見ると、そこに横たわっていたのは
息子ではありませんでした。

小さな動物で、まだ息をしていて死んではいません。

「だ、大丈夫か?」

シカが声をかけると、小さな動物はよろよろ立ち上がり、

「危ないところを助けていただき、ありがとうございました。
 おかげで助かりました」

と言って、ヨタヨタした足取りで立ち去っていきました。

立ち去って行く動物の後姿を眺めながらシカは、

「ふーっ、やれやれ」

と、大きく息を吐きました。

まだ、息は整っていませんでした。

そして、なぜか体が小刻みに震えていました。

「父ーさーん」

住み家の方向から、息子が走って来ました。

シカは、もう一度、大きな息を吐きました。
今度は、安心した、という溜息です。

近寄ってくる息子に、

「おまえ、どこ行ってたんだ?」

「どこって、ちょっとトイレだよ」

「トイレ?」

「それよりも、父さんすごかったよ、
 イヌが舞い上がってた!」

「なんだ、見てたのか?」

「うん、見てた見てた、やっぱり父さん強かったんだ!」

「そ、そうかぁ、父さん、おまえがイヌに襲われている
 と思ってなぁ、無我夢中で戦っちゃよ」

「父さんは、強くてカッコイイ!!」

息子はとてもはしゃいでいました。

シカは息子にほめられて、誇らしい気もしました。

でも誇らしい気持ちはほんの少しで、
心の大部分は違う気持ちに被わられていました。

シカは、はしゃいでいる息子に、
今、思っていることを、率直に伝えました。

「でも、父さんは……、怖かったぞ」

「え?」

息子は、キョトンとした表情をしました。

「お前が死んじゃうじゃないかと思って、
 父さんは怖かった」

「父さん……」

「体がかってに動いて、おまえを助けるために、
 必死に戦ったけど……、でも、考えると怖いよ」

息子は黙って聴いていました。

シカは静かな口調で言いました。

「やっぱり、逃げられるんだったら、戦わないで、
 逃げたほうがいいと、思ったよ……」

イヌに角が当たった時の鈍い感触を、シカは思い出していました。

しばらくの間が空いたあと、黙って聴いていた息子が、

「そっかぁ……」

と、言ってから、明るい表情を浮かべながら言いました。

「そうだよね、怖いのやだよね」

「あぁ、怖いのは嫌だ!」

シカが安堵の表情を息子に向けると、息子は笑顔で応えました。

そして、シカは雰囲気を変えるように言いました。

「さぁ、どうする、ここまで来たんだ、水でも飲みに行くか?」

「うん、いいね、いこ」

シカが水飲み場の方に足を向けると、息子は横に来て、
並んで歩きました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集
『 シカの親子 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/aesop/07/02.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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