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「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年12月2日日曜日

アメを買いに来る娘

「はぁ~、今日もあんまり売れなかったなぁ」

むかしむかし、アメを売っているお店がありました。

アメ屋さんの若い主人は、売れ残ったアメを眺め
「は~ぁ」と、大きく溜息を吐きました。

アメ好きが高じて、アメ屋を始めたのはいいですが、
開店してから、殆ど売れず、毎日、店じまいのときに、
売れ残ったアメを見ては、肩を落としてガッカリしていました。

今日も、アメは売れ残っていましたが、辺りは暗くなり、
もう、店を開けていても誰もきません。

「しょうがない、店を閉めるか」

と、片付けを始めました。

表に出て、通りに面して背中を向けてのれんを外していると、

「すみませんが~」

と、背中越しに女性の声がしました。

「へい」

アメ屋さんが振り向くと、そこには髪の毛を降ろした、
女性が立っていました。

顔を見て、アメ屋さんは一瞬“ギョッ!”と声を
上げそうになりました。

乱れた長い髪の間から覗き見える顔が、
生気のない青白い色をしていたからです。

白い着物を着ていて、まさに風貌はお化けそのものでした。

アメ屋さんが驚いて、なにも言えずにいると、

「すみませんが~、これで水アメを売ってくれませんか~」

と、女性が、一文銭(いちもんせん)を出しながら言いました。

「あ、あ、あ~、まいどあり~」

アメ屋さんはなんとかそう言うと、店に入り、一文銭で
買える分の水アメを容器に入れ、女性に手渡しました。

手渡した時、一瞬触れた女性に手のあまりの冷たさに、
アメ屋さんの体を、つま先から頭の先まで“ゾゾゾゾゾゾ”と、
寒気が一気に通り抜けていきました。

「ありがとうございました」

と、女性は深々と頭をさげてから、帰って行きました。

アメ屋さんは、暗闇に消えていく女性の後ろ姿を見ながら、

「こりゃぁ、場合によっちゃ、偉いもんに出会っちまった
 かもしれんなぁ」

と、呟きました。

そして次の日。

アメ屋さんは、今日も売れ残っているアメを眺め、
溜息を吐いてから、店を閉めようとのれんをしまいに、
店の外に出ました。

(昨日は、通りに背を向けたとき、
 あの女に声を掛けられたんだよなぁ……)

と、後ろを気にしながら、おっかなびっくり、
のれんを片づけようとしました。

「すみませんが~」

「うわぁっ!」

気にはしていたのに、声を掛けられて、想像以上に驚いて、
つい、声を上げてしまいました。

「すみませんが~、これでアメを売ってくれませんか~」

昨日と同じ女性が、同じように一文銭を差し出して言いました。

「へ、へイ、昨日のと同じでよろしいかい?」

女性が頷くと、長い髪が青白い顔に少しかかりました。

アメ屋さんは水アメを容器に入れ、渡しました。

渡すとき、今日は手に触れないように慎重に渡しました。

女性は、昨日と同じように、深々と頭を下げてから、
帰っていきました。

「またのお越しをー」

アメ屋さんは女性の背中に、そう声をかけました。

こうして、女性は、次の日も、そしてその次の日も、
のれんを片づけようとすると背中越しに声をかけて来て、
一文銭を出して、水アメを買っていきました。

そして、少し経ったある日のこと、アメ屋さんが
例のごとくのれんを片づけようとしていると、

「すみませんが~」

と、声が聞こえてきました。

「ヘイ、いらっしゃい!」

アメ屋さんは元気よくこたえました。

この頃になると女性にすっかり慣れ、何度か触れた手の
冷たさも気にならなくなり、普通に対応できるように
なっていました。

「あの~ぉ、すみませんが~」

と、女性が言うので、いつものように一文銭を差し出すのかと
思いましたが、その日は違いました。

「お金が無くなってしまったので、この着物で~、
 どうか、水アメを分けていただけないでしょうか~」

「え! お金が無いってあんた……」

(今日は、確か、アメを買いに来るようになってから、
 七日目だったよなぁ)

さすがは商売人、日にちをしっかりと把握していました。

「この着物ではダメでしょうかぁ……」

「ダメもなにも、オレじゃぁ、着物の価値なんて、
 分からないからなぁ……」

と、アメ屋さんが困っていると、

「どうか、お願いします」

と、女性が頭を下げるので、

「しょうがねぇなぁ」

アメ屋さんは頭をかきながら、着物を受け取りました。

受け取ってはみたものの、着物にどのくらいの価値があるか
さっぱり見当もつかなかったので、とりあえず、店にある、
ありったけの水アメを全部容器に入れ。女性に渡しました。

「こんなにいっぱい」

と、珍しく女性は驚いた口調で言ってから、

「ありがとうございます」

と、深々と頭を下げて、帰っていきました。

頭を上げたとき、女性がうっすら微笑んでいたように、
アメ屋さんには見えました。

女性を見送ったあと、着物を見ながら、
「やれやれ」とアメ屋さんは頭をかきました。

次の日から、女性は姿を見せなくなりました。

女性が来なくなってから最初の頃は、

(まぁ、あれだけ水アメを持っていったんだから、
 すぐには無くならないだろう)

と、軽く思っていましたが、日が経つにつれ、
不思議な気持になりました。

お化けが来なくなって安堵が湧いて来てもイイところですが、
それとは違う、なにか良く分からない寂しさのようなものを
感じていました。

相変わらず、毎日、アメは売れ残っていました。

背に腹は代えられぬ、と、アメ屋さんは、
女性が置いていった着物を、質屋に売りにいきました。

質屋に入ると、先客がいました。

「これは失礼」

と、アメ屋さんが立ち去ろうとすると、

「あ、どうぞ、私は質屋さんと雑談していただけですから」

と、先客が言うので、それならばと中に入り、
着物を出して、質屋の旦那に見せました。

「おや、その着物は!」

驚いた声を上げたのは先客でした。

「ちょっと、良く見せてくれるかい」

先客は、アメ屋さんの返事も待たずに、着物をつかみ、
じっくりと観察していました。

「間違いない! これは、去年亡くなったうちの娘の着物だ!
 おまえ! さては墓荒しだな!」

と言いながら、いきなりアメ屋さんに飛びついてきました。

「ちょっと、待て、待ってくれ、なんのことだかさっぱり」

「しらばっくれるな! 確かにこれは娘と一緒に、
 墓に埋めた着物だ!」

「ちょっと待て、話を聞いてくれ」

二人がもみ合っていると、質屋さんが出て来て、
二人の間に入り、とりあえず落ち着いて話を聞いてみよう、
と先客をなだめてくれました。

アメ屋さんは、今まであったことを話しました。

「なに、七日目に、着物を……」

質屋さんは、不思議そうな表情を浮かべながら、
深々と息を吐き出しました。

先客は、信用ならない、という態度でしたが、質屋さんが、

「とにかく、娘さんのお墓にいってみよう、荒らされているか
 確かめれば、この人の話がウソかどうか分かる」

そうして、三人で、娘さんのお墓に向かいました。

お墓はとなりの町の外れにありました。

そこは、お寺の敷地内でしたが、普段は
お墓に来る人しか立ち寄らないような場所でした。

お墓に近づくと、うっすらとなにかが聞えてきます。

「ん、ネコでもいるのかなぁ?」

と、なんとはなしに、聞いていましたが、
やがてそれが、ハッキリ聞えるとようになると、

「赤ん坊の声では?」

三人とも気づきました。

歩けば歩くほど、赤ん坊の泣き声が、大きく
聞えるようになりました。

そして、遂に、赤ん坊らしき姿を見つけました。

三人が近づいていくと、白い布に包まれて、
赤ん坊が、顔はやせ細っているのに、元気な声をあげて
泣いていました。

泣いている赤ん坊を見ながら、アメ屋さんは気付き、
ギョッとしました。

「うちの、水アメではないか」

赤ん坊の頭のすぐわきに、アメ屋さんが売った
水アメの容器が置いてありました。

「おや、おや」

質屋が言うと、質屋の先客が目を丸くした驚いた表情で、
ボソリと呟きました。

「ここが、娘の墓だ」

アメ屋さんは示された方を見ました。

墓は荒らされているどころか、一度掘り返したとは
到底思えないほど、キレイによく管理された状態でした。

「もしかしたら、娘さんが、誰かが置いていった赤ん坊に、
 水アメをあげていたのかも、しれませんね……」

質屋さんはそう言ってから、

「三途の川の渡し賃の六文銭で水アメを買ってたが、
 無くなってしまったのでしょう……」

質屋さんがそう言うと、先客は驚いた表情で、

「七日目……、それで着物を……」

アメ屋さんは、元気よく泣く赤ん坊を抱きあげました。

そして、娘さんの墓を向いて言いました。

「うちのアメで育ったんなら、オレの子だ。
 あとはオレがしっかり育ててやる」

アメ屋さんは、しっかりと赤ん坊を抱きしめました。

気付くと、赤ん坊はいつの間にかに泣き止んでいました。


こうして、若いアメ屋の主人は、意図せず子を授かりました。

子どもを育てるために、それまで以上に商売に
打ち込み、なんとかアメ屋は続けることができました。

そして、あっという間に時が経ち、

「おいしいアメだよー、おいしいアメはいらんかーい」

アメ屋の店さきから、甲高い、
若い娘の元気な声が聞えてきました。

あのとき授かった赤ん坊は立派に成長して、
今やこの店の看板娘になりました。

看板娘ができたことで、アメ屋さんは大忙し、
この町で一番繁盛しているアメ屋になりましたとさ。


おしまい。



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福娘童話集
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━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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