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「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年11月10日土曜日

カメの長老は知っています

あたしはウサギ、この世の中で、
いちばん弱虫な生き物です。

とにかく、なにもかもが怖いのです。

今だってブルブルと小刻みに体が揺れていて、
震えが止まりません。

美味しい葉っぱをポリポリ食べている時も、
陽だまりの中をピョンピョンと跳ねているときも、
いつもなにかにおびえています。

もう、いつもいつも怖くて怖くて仕方がないのです。

あたしは、いつも思うのです。

他の動物さんたちがうらやましい、と。

ライオンさんはいつも勇ましい顔つきで、
ゆったりと寝そべって、暮らしています。

ガォーを声を上げれば、どんな動物だって、
ライオンさんが来たー!
と驚いて一目散にスタコラ逃げ出してしまいます。

それに比べて、あたしなんて、顔は温和なだけで
面白みに欠けるし、ゆったり寝そべってなんて
恐ろしくていられません。

そもそも、あんな大きな声なんて、逆立ちして胃袋から
空気を出しつくしたとて、出てくるどうりがありません。

あたしは、どう頑張ったって、
ライオンさんの足元にも及ばないのです……。

ライオンさんに引けを取らず素晴らしいのが、
ゾウさんです。

大きな体でノッソ、ノッソと堂々と歩く姿は、
動く岩のようで見事なものです。

鼻を器用に使って水浴びをする姿なんて
バシャーっと、豪快そのものです。

それに引き換え、あたしは、歩くとピョンピョンと
飛び跳ねてしまうし、鼻はいつもヒクヒクと忙しなく
動いてしまいます。

とてもゾウさんのような堂々たる豪快さは
醸し出すことができません。

そして何よりも、あたしの体は圧倒的に小さい。

ライオンさんやゾウさんのような体を持っていたら、
さぞステキな生き方ができたのでしょう、と、
最後はいつも妄想の世界に入り込んでしまう有様なのです。

「やぁ、ウサギさん、どうした、浮かない顔だけど」

「あ、あなたはカメの長老さん」

カメの長老さんは、この辺では一番長く生きておられて、
世の中のありとあらゆることをご存知と言っても
過言でない立派なかたです。

そうです、あたしのこの悩み、カメの長老さんなら、
解決の糸口を見つけて下さるかもしれません。
いいえ、必ず見つけてくれるでしょう。

「カメの長老さん、情けないあたしの悩み事を、
 少し聴いていただけませんか?」

「はい、悩み事はを溜めておくのは体に毒です。
 わたくしで良かったら、なんでも聴きますよ」

という優しい言葉に、あたしは胸が熱くなるのを感じました。

そして、恥ずかしげもなく、悩みごとを打ち明けるのでした。

「フムフム」

カメの長老さんは、頭をコクンコクンと上下に何度も
揺らしながら、あたしの拙い話を熱心に聴いてくださいました。

「なるほど、それは大変な悩みですね」

悩みを全て聴いてくださったあとに、カメの長老さんは
そんな言葉をあたしにかけてくださいました。

ありがたいことです。

そしてカメの長老さんは、少し小首を傾げて、
なにか考えてから、こんな話をしてくれました。

「この間、ライオンから、こんなことを相談されたんじゃ」

さすがはカメの長老さん、ライオンさんからも相談を受ける
だなんて、どれだけ頼りがいのあるかたなのでしょう。

他人の悩み事に興味を示すことは、はしたないことですが、
今回だけは、どうしても聴いておかなければなりません。

「で、ライオンさんはなんと?」

申し訳ない気分半分と興味半分でお尋ねすると、
カメの長老さんは続きを話してくださりました。

「ライオンはな、ニワトリが苦手なんじゃと」

「え! ニワトリさん? あ、あのコケッコッコーと鳴く
 あの、ニワトリさんですか?」

といったあたしの声は、きっとスットンキョだった
ことでしょう。そのくらいあたしは驚いてしまいました。

「そうじゃ、あのニワトリじゃ。まさに鳴き声を聞くと、
 いつも、ビックリして落ち着かないのだそうじゃ」

「え!」

あたしはまたスットンキョな声を出して驚きました。

あのライオンさんが、ビックリして落ち着かないことが
あるだなんて! しかもそれが、ニワトリさんの
コケコッコーだなんて、信じられません。

「それからなぁ、この間、
 ゾウからも悩みを聴いたんだゾウ」

今のはもしかしてギャグ? と思いましたが、
そんなはずがありません。

カメの長老さんが真面目に話をしているのに、
腰を折っては失礼なのであたしは続きの話が始まるのを
黙りこくって待ちました。

少しの間を置いてから、カメの長老さんは話を始めました。

「ゾウはな、蚊が苦手なんだそうだ」

「蚊! あのプーンと飛んでいる、蚊、ですか?」

「そうじゃ、あのプーンという音が怖くて怖くて、
 いつも蚊が近寄って来ないように、耳をバタバタと
 させているそうじゃ」

「なるほど、確かにゾウさんはいつもバタバタさ
 せていますね」

感心しているあたしに、カメの長老さんは言いました。

「わしが、なにを言いたいか分かるかな?」

他人の悩み事を聴くことを申し訳ないことだと
思っていた気分も吹っ飛び、すっかり興味深々に
聴いていたあたしは、カメの長老さんの急に質問に
とても慌ててしました。

あたしは、頭をクルクルとフル回転させて考えました。

ライオンさんは、いつもゆったりと寝そべって、ガォーっと、
大きな声を上げているのに、ニワトリさんのコケコッコー
という声を聞くと、ビックリしてしまうそうです。

あたしは、ニワトリさんがコケコッコーと鳴いたら、
朝が来たんだなぁー、ニワトリさんは今日も元気だなー、
と思うだけです。

ゾウさんは、大きな体でノッソノッソと堂々と歩いて、
豪快にバシャーっと、水浴びをしているのに、蚊のプーン
という音が怖くて、大きな耳をバタバタさせているそうです。

あたしは、プーンという音を聞いたら、すぐにピョンピョン
飛び跳ねて音がしないところへサッサと移動しますから、
怖いと感じたことはありません。

つまりです。
そうです!
そうなのです!!

あたしは興奮して、耳をピーンと上げて、
鼻を穴を大きく開けてヒクヒク動かしてしまいました。

あたしが何かに気づいたことが、
カメの長老さんにも伝わったのでしょう。

「あとは、自分で考えみるとよいゾウ」

と、だけ言って「またな」と凛々しく顔を背け、
ゆっくりと甲羅をこちらに向けて、ノソノソと歩き出しました。
文末の「ゾウ」ということばを聴いて、やはり口癖だったのかも、
先程、話を止めなくて良かった、と安堵しました。

そしてあたしは、叫びました。

「カメの長老さん、ありがとうございました!」

あたしは、なんだか体が軽くなってきて、
その場でピョンピョンと、飛び跳ねてしまいました。

そして、とうとう気分は抑えられなくなり、
走り出してしまいました。

生まれ変わったように軽い足取りで走り出したあたしは、
なんと失礼なことに、あっという間にカメの長老さんを
追い越してしまいました。

「おー、元気になったなぁ~」

と、後ろのほうで声が聞えたので、あたしは振り返り、
遠くのほうでノソノソ歩いているカメの長老さんに、
もう一度お礼をして、ピョンピョンと走りました。

さすがは、カメの長老さん、なんでもご存知です。
これからも、悩み事があったら、すぐに相談に行こう、
と、あたしは勝手ながら思いました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 ライオンとプロメテウスとゾウ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/aesop/06/23.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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