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「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年11月24日土曜日

あの世がご縁をくださった【前編】

ついにわしも死んじまったんだなぁ~。

山へ柴刈りに行こうと道を歩いていたところまでは覚えてるが、
その後の記憶がない。

気付くと、こうして、知らない草っぱらを歩いている。

周りを見れば、生気を失った者ばかりが、同じ方向を向いて
力ない足取りで歩いている。

誰もが、自分の行きたい場所に向かって歩いている訳でなく
ただ、そちらに足が向くから進んでいるだけという感じじゃ。

わしも同じじゃ、なんでこちっに向って歩いているのか分からん。

なんだか知らんが、足がかってに動きよる。

かと言って、止まろうとも思わぬ。

おかしいことだとも思ったが、あ、わしは死んだんだ、と
思えば納得がいく。

きっと三途の川の船着き場にでも、吸い寄せられておるのじゃろう。

まぁ、ある程度生きたし、死ぬには、ちと若い歳じゃが、
後悔が募るほどでもない。

ただ、心残りがあるとしたら、婆さんと別れの挨拶ができなかった
ことじゃなぁ。

あいつは、これからちゃんとやって行けるのじゃろうか、
まぁ、心配したところで、死んじまったんだから、どうにも
ならんがな。

お、あれが三途の川の船着き場だな。だいぶ賑わっとるなぁ。

乗りたい奴がこんなにおるのに、船は1艘で1人乗り、
あの世も人手不足なのか?

いつ乗れるのかのぉ。

座って待つとするかぁ……。

───それから、だいぶ待たされた。

3日くらいの時間が経ったような気もするが、それ程経ってない
ような気もする。

あの世の時間経過にまだなれていないようじゃ。

さて、やっとわしの番のようじゃ、船に乗って向こう岸に渡ろう。

「おい、ちょっと待った」

「はい?」

船着き場にいる何者かが声をかけてきたんで、
良く見るとお地蔵さんだった。

どこかでお会いした顔だなぁ、と思ったが、
お地蔵さんなんて、みんな同じような顔か。

「おまえ、ハチベエじゃないか?」

お地蔵さんがわしの名前を知っていた。

「へい、いかにもハチベエです」

「なんでこんなところにいるんだ?」

「なんでって、たぶん、死んだからでございましょ」

「死んだって! おまえがか! なんでまた」

「さて、わしにも皆目見当が……」

「いゃ、おまえが死ぬのはおかしい、ちょっと待ってろ」

そう言って、台帳をパラパラめくっている。

なにか問題でもあるのかの? それよりもなんで
このお地蔵さんはわしのことを知っているんかのぉ。

「あぁ、まったく、またあいつら間違ってる、
 私があれほど言ったのに、忘れたのだな」

お地蔵さんはそう言ってから、わしの方を向いた。

「ハチベエ、おまえは私のことを覚えてなかろうな」

「はい、覚えて居りませぬ」

と、わしが正直に言うと、お地蔵さんはちょっと前にあった
出来事を話し始めた。

「海で漁師に殺されそうになっていたカメを、
 お前は助けただろう」

あぁ、そんなことがあったなぁ。

「はい、助けたというより、殺されそうになっていたから、
 漁師から買い取って逃がしてやりました」

「そうじゃ、そのとき逃がされたカメが私だ」

「はぁ、」

なぜカメがお地蔵さんなのか、わしには分からん。
化けていたのかのぉ。

「漁師にお金を払ったようだったけど、あれはどうしたんだ」

「あぁ、あのお金は、婆さんが織った反物を売って作った金じゃ、
 カメを助けたって言ったら、婆さん怒ったてなぁ」

「そりゃぁ、怒るだろうなぁ」

「まぁ、でもすぐに許してくれるのが、婆さんの良いところじゃ」

「まったく、出来た女房だな」

「わしにはもったいないくらいです」

「でもまぁ、私は、昔からおまえを見ているが、あの日だけじゃない、
 人を助けたり、動物を助けたり、たくさんの良き行ないを毎日のよ
 うにやっているなぁ」

「そうでしたかのうぉ」

「だから、もう少しだけ、良き行いを続けてもらおうと、
 寿命の延長願いを出しておいたのだよ」

「はぁ……」

驚いた、寿命は願いを出せば延長できるのか?

「当然、良き行いをしていないものには延長願いは通らないが、
 おまえは願いが受理されたから、寿命は延びたはずじゃ。
 たぶん手続きが間に合わなかったのだろうなぁ」

うーん、あの世もいい加減なもんじゃなぁ……。

「とにかく、おまえはまだ死ねん。帰れ」

「か、帰れと申されましても……」

「大丈夫だ、来た道を戻っていけばよい」

来た道を戻る……、何もない草むらを、進めばいいのか?

と思ったのもつかの間、不思議なことに勝手に足が動き始めた。

「これからも、良き行ないをするのだぞ」

と、後ろでお地蔵さんの声がした。

良き行いと言われても、なにをやっていいのかサッパリじゃ。

とりあえず、今はなにも考えずとも足は進む。

何人もの正気の無い表情をした者とすれ違う。

みんなは三途の川の船着き場に向かっていて、
わしは逆戻りしている。

ふと、目に止まった。

若い娘が歩いている。

気立ての良さそうな娘。

ん? あの娘、どこかで見たことがあるような……。

あ、何年か前に、婆さんが足をくじいたとき、
担いで家まで届けてくれた娘じゃないか。

大雨が降っていて歩けなくてずぶ濡れになっているときに、
細い体で背負ってくれて本当に助かったと、命の恩人だと
婆さんが大そう感謝していた。

面識がなく、その時もすぐに帰ってしまったから、
なんのお礼もできずじまいで、気にしとったんじゃ。

まったく、こんなところで会うなんて、しかし、
ここを歩いているってことは、死んでしまっということか。

わしは思わず、娘に近づいて、話かけようとしたんだが、
声が出なくてのぉ。

近くで見ると、鼻の横の特徴的なホクロがあるから、
あのときの娘に間違いない。

とりあえず娘について行くことにした。


[後編]へつづく……

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