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「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年11月3日土曜日

お花の首飾り

昔々、とある森の奥に、クマの親子が住んでいました。

お母さんのクマと、お兄ちゃんのクマ、そして妹のクマです。

クマたちは、お昼前に、運動のために散歩に出かけました。

「さぁ、もう少しよ、がんばって!」

お母さんクマが子どもたちに呼びかけます。

「ボクは大丈夫だよ!」

と、お兄ちゃんのクマは元気に答えました。

「ちょっと、待って!」

体の小さな妹のクマは、お母さんにも、お兄ちゃんにも
追いつけず、いつも置いてきぼりになってしまいます。

しかも、歩き辛い山道です。

「遅い! 置いてくぞ!」

と、お兄ちゃんクマは言いました。

「ちょっと、待ってってば!」

妹クマは追いつこうと、石や木の根っこに、
足を取られながらも、一所懸命、山道を歩きました。

がんばっている妹クマにお母さんクマは言いました。

「がんばれ、がんばれ、家に着いたら、
 美味しいスープが待ってるから!」

その言葉を聞いて妹クマは、お母さんが作ってくれる
温かくておいしいスープを思い浮かべました。

溢れ出てくるヨダレを抑えつつ、足には力が入り、
歩くスピードはどんどん速くなりました。

お兄ちゃんに追いつきそうです。

お兄ちゃんクマも負けじと歩くスピードを上げました。

「がんばれ、がんばれ」

お母さんクマは、兄妹のとなりを歩きながら声をかけました。

抜きつ抜かれつ兄妹で歩いていると、あっという間に
自分たちの家に着きました。

「はい、到着、二人ともがんばったわね」

というお母さんの言葉に、二人は肩を落として、
ヘトヘトになりながら倒れ込むように家に入りました。

家に入ったとたん、いい香りがしてきました。
お母さんの作ったスープの香りです。

妹クマは、思いっきり息を吸い込みました。

「はーぁ、美味しそう」

「おっ先!」

と、お兄さんクマは妹を置いて、キッチンの方へ
走って行きました。

「待って!」

妹クマはお兄ちゃんに慌ててついていきました。

そして、キッチンに入り、自分のイスに座ろとしたときです、

「あっ!」

妹クマは声を上がました。

「どうしたの?」

すぐにお母さんクマが近づいてきました。

「あたしのイスが……」

妹クマがそう答えると、テーブルの反対側にいた
お兄ちゃんクマがかけ寄り、妹クマのイスを見るなり、

「あ、イスが壊れてる!」

と、声を上げました。

妹クマのイスは、足が折れてかたむいていました。

「あら、あら、どうしたことだろうねぇ」

お母さんクマがイスを持ち上げて、不思議そうに見つめました。

妹クマは、いつも使っているイスが壊れてしまって
悲しくて仕方ありません。

「仕方ない、このイスを使いなさい」

と、お母さんクマは、普段は使っていないイスを
妹クマの席に置いてあげました。

妹クマは、しぶしぶイスに座りました。

普段使っていないイスは、座り心地が
とても変に感じました。

テーブルの上には、散歩に出かける前に置いた、
スープを入れるお皿とパンが並んでいました。

スープはこれから温かい物を入れてもらうのですが、
パンは自分の食べる分だけあらかじめ置いておいたのです。

「あっ!」

妹クマはまた声を上げました。

「どうした! あ!」

目の前の席にいたお兄ちゃんクマも声を上げました。

「どうしたの?」

お母さんクマが声をかけました。

テーブルの上にある妹クマのパンが、
半分くらい、欠けてしまっていました。

「まぁ、どうしたことでしょう」

お母さんクマは、すぐにパンを片づけて、
新しいパンを置いてくれました。

イスが壊れていたうえに、パンも欠けていて、
妹クマの目から、涙がひとりでに流れてきました。

「さぁ、さぁ、泣かないで、美味しいスープを食べましょう」

そう言って、お母さんクマはスープをお皿に注いでくれました。

悲しい気分の妹クマでしたが、お母さんクマのスープの美味しさに、
少し気分が紛れました。

「さぁ、食べ終わったら、お昼寝の時間ですよ」

お兄ちゃんクマと妹クマは、お母さんクマに促されて、
寝室へと向かいました。

寝室のドアを開けると、三つのベットがあり、
一番手前がお兄ちゃん、一番奥が妹のベットで、
ベットの横のカベには窓がありました。

お母さんクマのベットの横を通り、
自分のベットに近づいた妹クマは

「あっ!」

と、またまた声を上げました。

すると、今度は、

「きゃーっ!」

という、悲鳴のような別の声も同時に上がりました。

「どうしたの!」

と、声をかけたお母さんクマも、目を丸くして驚いています。

妹クマの目の前には、妹クマのベットから飛び出て来た、
赤いスカートをはいた人間の女の子が立っていました。

女の子は、妹クマと同じような背格好です。

人間の女の子は、ブルブルと震えておびえた表情をしています。

妹クマは何も言わずに見ていると、人間の女の子は横目で、
窓があるのを確認してから、素早く窓に近寄り、開けて、
外に飛び出して行きました。

クマたちは窓に近づき、一目散に走り去っていく人間の女の子の
後ろ姿を見送りました。

お母さんクマが、呟くように言います。

「おやおや、驚かせてしまったかねぇ」

妹クマは、人間の女の子が走って行った方向から
目が離せないでいました。

お母さんクマは続けて言いました。

「きっと遊んでて、この家を見つけたんだろうねぇ」

そして、妹クマの方を見ながら、

「あなたと同じ背格好だから、きっとあなたのイスが
 ちょうど良くて、座ってパンを食べていたら、
 イスの足が折れちゃったんだろうねぇ。 
 そのうちベットを見つけて、あなたのベットが
 ちょうど良くて寝っ転がって遊んでいたら、
 そのまま寝てしまったのかもしれないね」

妹クマはお母さんクマを見つめ、そして言いました。

「人間の女の子、初めて見た」

お母さんクマはニッコリ笑い、
妹クマの頭を、やさしく撫でてやりました。

しかし、お母さんクマの顔は、すぐに寂しそうになりました。

「どうしたの?」

と、妹クマが訪ねると、お母さんクマは静かな声で言いました。

「人間にこの場所を知られてしまったから、
 引っ越さなきゃいけないね」

「え!」

妹クマと一緒に、お兄ちゃんクマも声を上げました。

「また!」

お兄ちゃんクマは、引っ越しを経験しているようでしたが、
妹クマは初めてでした。

「どうして?」

妹クマがたずねるとお母さんクマに変わって
お兄ちゃんクマ言いました。

「人間たちは、ボクたちを殺しに来るからさ」

「えっ!」

妹クマは驚きました。

お母さんクマが慌てたような口調で、

「まぁ、みんながみんな、襲ってくる訳じゃないし、
 子どもだったから大丈夫かもしれないけど、
 人間は、怖いから見つからないようにした方がいいのよ」

「そうなんだ……」

妹クマは、いろいろと驚くことが多くて、
頭がポーッとして来ました。

そして、おもむろに窓の外に目を向け、
人間の女の子が走って行った方を、
ぼんやりと眺めました。


次の日から、知り合いのクマたちが集まり、
家のものが次々と運びだされ、あっという間に、
引っ越しの準備は整ってしまいました。

あとは、クマたち親子が移動するだけです。

妹クマは、寝室の窓から外を眺めていました。

「さぁ、行くよ」

お兄ちゃんクマに声を掛けられた妹クマは、
振り返ってから言いました。

「あの子と、遊びたかったなぁ」

「えっ! 人間の子とかぁ!」

と、お兄ちゃんクマは驚いてから、

「まぁ遊んだら、楽しかったかもしれないな。
 でも、人間とクマじゃ、仲よくは遊べないだろうな」

「そうなの……」

「そうさぁ、人間は怖いって、お母さんも言ってただろ」

「そうねぇ……」

「早く仕度しろよ」と言い残しお兄ちゃんクマは、
寝室から出て行きました。

妹クマは、寝室のドアをなんとなく眺めました。

そして、何もなくなった寝室の床に座り込み、
そのまま後ろに倒れて、仰向けに寝っ転がりました。

目の前には見慣れた寝室の天井が見えました。

(もう、この天井も見られないのね)

そう思うと、少し寂しい気持ちになりました。

涙が出そうになったその時です、

“ガサ、ゴソコソ”

窓の外で、小さな音がしました。

妹クマは起き上がり、窓の方へ向かいました。

すると、人間の女の子が走り去って行く後ろ姿が見えました。

「あー、」

妹クマは声を掛けようとしましたが、
思いは声になりませんでした。

ふと、視線のすみになにかがあることに気づきました。

「はっ」

と、思わず声を出してしまいました。

「き、キレー」

そこには、何本もの黄色や白や赤い色の花が束になって、
まるでお母さんクマが作ってくれるドーナツのように、
丸くなっているものがありました。

静かにそれをとり、まじまじと眺めてしまいました。

そして、首にかけてみました。

お花のいい香りがして、とてもいい気分になりました。

「あら、ステキな首飾りね、どうしたの?」

お母さんクマが、声をかけて来ました。

「今ね、人間の女の子にもらったの」

「えっ!」

と、お母さんクマは一瞬、驚いた顔になりましたが、
すぐにニッコリ笑うと、優しい声で言いました。

「きっと、ごめんね、ってことだと思うよ」

妹クマは、キレイなお花の首飾りを眺めました。

そして、お母さんクマに、ニッコリ笑顔を向けました。

「さあ、行こう」とお母さんクマが手を差し出してきたので、
ギュッと握りしめて、妹クマは寝室を出て行きました。


おしまい。


今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 3匹のクマ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/world/06/22.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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