≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪
「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年11月17日土曜日

いい奴は陽の目を見ない

「なんだ、この家は」

これは昔々のお話です。

昔も今と変わらず、悪い奴はおりまして、

「まったく、盗むもんがなにもねぇじゃねぇか!」

夜な夜な人さまの家に忍び込んでは、ものを盗む、
いわゆる泥棒を生業にしている腐れ外道です。

「こんな家に忍び込むなんて、オレも焼きが回ったぜ」

泥棒は、カベの隙間から入り込む月明りに照らされた、
なにもない部屋を眺めて言いました。

ガラ―ンとしている部屋のまん中には、この家のあるじが、
ゴ~ヒ~、ゴ~ヒ~高いびきを上げて寝ていました。

「けっ、のんきなもんだぜ」

泥棒は舌うちをしてから、軽く首をふって、
天井に向かって、サッ、と飛び上りました。

やれやれ、とんだ骨折り損のくたびれ儲けだ、と思いながら、
天井の梁の上を静かに歩き、この家に入って来た屋根の隙間
から外に出ようと手をかけました。

と、その時です。

下の方からこの家のあるじと思われる声がしました。

「わぁー、大変だ! 泥棒に入られた!
 金も家財道具も何もかも盗られてしまった!
 これでは家賃が払えない!
 よし! すぐに大家さんに連絡しよう!」

「な、なんだと!」

泥棒は腹が立ってきて、思わず今来た道を戻って、
あるじのいる部屋へ、サッ、と飛び降りました。

「うわぁ!」

布団の上であるじが大声を上げて驚いていましたが、
泥棒はかまわず、

「やい! このオレがなにを盗んだって言いやがんだ!
 オマエの家には始めっからなにも無かったじゃねぇか!」

と、怒鳴り声を上げると、あるじは布団の上に膝まづいて、

「あややや、申し訳ございません、家賃を払わないで済む
 口実ができたと思い、つい口が滑っただけでございます!」

と、土下座をして謝りました。

「つい口が滑ったっだって! おい、オマエ!
 嘘つきは泥棒の始まりだぞ」

泥棒は、大見得を切って言いました。

「す、すみません、かんべんして下さい!」

両手をついて必死に謝っているあるじの姿を見て、
泥棒は、あわれに感じました。

寝間着もないのでしょう、ボロボロの汚い着物を着て、
ボサボサの頭を布団に擦り付けるように下げていました。

「まったく、もうイイよ」

と言うと、”ドサッ”と板張りの床に腰を降ろし、
懐からタバコ入れを取り出しました。

そして、火のついていないキセルをくわえながら、

「ったく、それにしたって、おまえは貧乏すぎやしねぇか」

「───へぇーい」

と、気のない返事をするあるじに呆れながら、泥棒は、
タバコ入れの中からお金を取り出して、あるじの前に
投げました。

「ほら、百文あるから、それでなんかまともなもんでも食え」

あるじはお金を飛びつくように両手で掴むと、

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

と、何度も何度も頭を下げました。

その姿が、あまりにも惨めだったので、
泥棒は見ていられずに、

「達者でな」

と、捨て台詞を吐いて、天井へ飛びのり、
そそくさと屋根の隙間から、外へ出ました。

月に照らされた川沿いの何もない道を歩きながら泥棒は、

「まったく、なんてこったい、泥棒に入った家に、
 金を置いて来るなんざ、オレもいよいよ焼きが
 回っちまったな」

と、苦虫をつぶしたようにつばを吐いてから、
道に転がっていた石ころを蹴りました。

「こんな日は、早く帰って寝ちまおう」

泥棒はねぐらに向かって足を進めました。

すると、後ろの方から、

「泥棒! 泥棒ー!」

と声が聞こえてきました。

泥棒は、慌てて振り向くと、

「おーい、泥棒!」

さっきの家のあるじが叫びながら走ってやって来ました。

「あのやろう! 大声上げて追いかけてきやがって、
 恩をあだで返そうってんだな」

頭にきた泥棒は、近づいて来たら斬り捨ててやろうと、
懐の刀に手をかけました。

「泥棒! 泥棒!」

叫びながら近づいて来たあるじは、すぐそばまで来ると、

「ハァー、ハァー、」と、息を切らしながら、

「よかった、追いつけて」

と言って「はい、忘れものです」

と、なにかを差し出しました。

見ると、それは泥棒のタバコ入れでした。

あっけに取られた泥棒は、刀から手を離し、
タバコ入れを受け取り、

「ありがとう」

と、言いました。

あるじは笑顔で、黙って深々とお辞儀をすると、
踵を返して、来た道を走って去っていきました。

泥棒は、遠ざかって行くあるじの後ろ姿を呆然を見送りました。

あるじのボロボロの着物姿が見えなくなると、
泥棒は、聞こえるか聞こえないかの声で呟きました。

「今は、いい奴が、陽の目を見ない世の中なんだなぁ……」

そして、タバコ入れを懐に入れると、体の向きを変え、
ねぐらに向かって歩き出しました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集
『 おたばこ入れ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kobanashi/06/22.htm
『 出来心 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kobanashi/06/23.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


0 件のコメント: