※童話の更新は週1回(だいたい土曜日の夜)です(^0^)/

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2018年10月8日月曜日

私の大切なその笑顔[前編]

「あー、もう、また『むすみこぶ』よ!」

と、イライザは糸を引きちぎって、床に捨てました。

「もー、糸紡ぎなんてめんどくさいー!」

イライザは、ブロンドの髪を振り乱しながら叫びました。

「イライザ様、そんなこと言わずに、結婚式までには、
 立派に糸紡ぎができるようにならないと、
 奥様に、また怒鳴られちゃいますよ」

と、同い年のサラは、イライザが捨てた、
むすびこぶがついている糸を拾いながら言いました。

「そんなこと分かってるわよ。あなたは私の世話係の
 分際で、よくそんな脅しのようなこと言えるわね」

「世話係だから言うのです。だって、いっつもいっつも、
 イライザ様は奥様に怒鳴られているんですもの、
 怒鳴られているイライザ様の姿を見ると、
 私は不憫で不憫でなりません」

サラは悲しい顔をしながら言いました。

「もう、そんなこと言って、イヤなこと思い出させない
 でよ」

イライザは不愉快そうに唇を真っすぐに閉じ、
腕を組んでサラを睨みました。

イライザの世話係としてサラが、この家に雇われるように
なって五年が経ちました。

イライザからするとサラは世話係として親がやとっている
召使ですが、歳が同じということもあり、
話しやすい存在でした。

腕を組んでサラを見ていたイライザは、サラが糸を持って
いることに気づきました。

「また私が捨てた糸を拾ってる。そんなの
 捨てちゃいなさいよ」

「なにを仰るのですか! こんな立派な糸、捨てるなんて
 もったいない。キレイに紡ぎ直せば、立派に使えますわ」

「あら、そうなの! まぁ、好きにしなさい」

と、イライザは言ってから、糸を紡ぐ道具の前に坐り直し、
糸を紡ぎ始めました。

そして、糸を紡ぐ道具を回しながら、

「まったくぅ、なんで糸紡ぎができないと
 結婚ができないのよ!」

と、ブツブツ文句を言い出しました。

「それは、花嫁のたしなみというものでございますわ」

と、サラが言ったので、イライザは“キリッ”と、
強い視線を送りました。

サラは後ろに束ねた黒髪が前に来るくらい勢いよく、
お辞儀をして、背を向けて部屋を出て行きました。

一人残されたイライザは、ブツブツと言いながら、
糸紡ぎを回しました。


時はたち、その日はイライザの婚約者がやってきて、
家でパーティを開くことになっていました。

イライザは、一番の豪華でキレイな衣装に身を包み、
婚約者を迎える準備をしていました。

そこへ、サラがニコニコした笑顔でやって来ました。

「イライザ様、見てください」

と言って、くるりと身を翻したサラは、いつもの世話係の
服装ではなく、赤いワンピースを身につけていました。

「あら、オシャレじゃないのサラ」

「ありがとうございます! 今日はパーティですからね、フフフ」

と、サラは嬉しそうに笑ったあと、

「実はコレ、イライザ様が捨てた糸を紡いで
 作ったんですよ」

「え!」

イライザは驚いて、サラに近づき、ワンピースの
スカートの辺りの生地を摘みました。

「なによ、良くできてるじゃない、器用ねぇ……」

「おほめいただき、光栄です、フフフフフ」

ご機嫌のサラを見てイライザは分かりました。

「ははーん、あなた、今日のパーティに、
 例の彼氏を呼んだわね」

「あっ、ばれちゃいました~ぁ」

と、サラは隠し切れず、嬉しさがあふれ出した顔で、
肩をすぼめておどけた仕草をしました。

「あー、あー、お熱いことで」

「イライザ様に負けていられませんわ」

「あんたねぇ」

と、イライザは何か言ってやろうとしましたが、
楽しそうなサラの顔を見ると、なにも言う気になれません
でした。

そして二人はパーティ会場に行きました。

会場には、家族や親戚のほか、街の役人や財界の人など、
たくさんの人が、思い思いに歓談していました、

イライザは婚約者に近づいて行くと、サラは静かに離れ、
どこかへ行ってしまいました。

「今日は、一段とおめかしして、キレイだね」

婚約者は笑顔で言いました。

大好きなステキな笑顔を向けられたイライザは、
少し顔を赤らめながら、

「あら、アナタこそ、ステキな装いで見違えたわ」

「見違えたって、それはいい意味? 悪い意味?」

「もう、いい意味に決まってるでしょ」

二人は笑いました。

やがてパーティの始まりとともに、イライザと婚約者が
会場にいる来客者に紹介されました。

一通り紹介が終わると、来客者は、食べ物や
飲み物を手に取り歓談を再開しました。

イライザと婚約者は、肩を並べて来客者の元へ歩みより、
一人一人と談笑して回りました。

「イライザ様、お疲れではありませんか」

人との会話が途切れて一人になったタイミングで、
いつの間にか近くにいたサラに声をかけられました。

「えぇ、平気……」

と言ってからイライザはサラの耳元に顔を近づけて、
小声で、

「ちょっとだけ、疲れたわ」

と、言いました。

サラはなにも言わず、ニコッと笑っていました。

その笑顔を見てイライザは、

「ハイハイ、言わなくても分かるわよ、
 私のパーティだものね、楽しまないとね」

「ハイ!」

サラは笑顔のまま返事をすると、頭を下げて
離れていきました。

「おや、どなたかな?」

サラを見送っていると婚約者に声をかけられました。

「あぁ、あの子は私の世話役をしてる子よ」

「へぇ、可愛らしい子だね……」

婚約者は食い入るような目で、サラを追いかけていました。

(ちょっと、婚約者を目の前にして、他の女を
 目で追うなんてどういうことよ)

おもしろくないイライザは、思わずこんな嫌味を
言ってしまいました。

「あの子の服を見て、あれね、私が捨てた糸を
 わざわざ拾って作った服なのよ、
 みっともないったらありゃしないわよ」

嫌味を言ったつもりでしたが、婚約者の反応は違いました。

「へぇ、それは立派な人だ……」

婚約者は、うっとりとした目をして言いました。

(なに、なんなのよ!!)

イライザは訳が分からずイライラしました。

その時、パーティの司会者の声がしました。

「では皆さま、今から音楽を流します。
 ダンスを楽しみましょう!」

会場内にゆったりとした音楽が流れてきました。

イライザは気を取り直して、

「踊ってくださる?」

と、婚約者に手を差しだすと、

「わたくしめで良ければ喜んで」

婚約者は優しく手を取ってくれ、
いつものステキな笑顔を向けてくれました。

(良かった~)

と、イライザは、婚約者の胸の辺りに視線を送り、
幸せを感じながら踊り始めました。

しばらくして、チラッと、婚約者の顔を見ました。

婚約者の目は、明らかに何かを探しているようでした。

イライザの視線を感じたのか、婚約者が目を合わせて
きたので、イライザは慌てて目をそらしました。

そんな気まずい思いで静かに踊っていると、
流れていた曲が止まり、今度は速いテンポの曲が流れ
始めました。

すると静かに踊っていた人たちが一斉に、
リズムに合わせて激しく踊り出しました。

少し戸惑っているイライザは、婚約者を見ました。

婚約者の視線が、一点にくぎ付けになっていました。

視線の先には、楽しそうな顔をして踊っている
サラの姿がありました。

彼氏と向き合って赤いワンピースを翻して踊っている
サラは、とても楽しそうで、とてもキラキラしていました。

周りの人たちにもそれが伝わったのか、サラたち二人を
囲むように、少しスペースが空いて、楽しそうに踊る
二人を眺めているようでした。

イライザも楽しそうに踊るサラの姿に見とれていました。

「失礼、」

と、頭の上から声がしたかと思うと、サラを見ていた視線
の中に、婚約者の背中が現れました。

その背中は、自分から離れていきます。

イライザは、離れていく婚約者の背中を、
ただ黙って見つめるしかできませんでした。


[後編]へつづく……


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