≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪
「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年10月8日月曜日

私の大切なその笑顔[後編]

[前編]はコチラから



やがて婚約者は、楽しく踊っているサラの腕を、
おもむろにつかみました。

ビックリした表情でサラが振り向くと、婚約者は、
いきなりひざまずきました。

そしてサラを見つめながら、

「私と踊ってくれませんか?」

「えっ」

と、小さく声を出したサラは、困惑そうな表情を
浮かべながら、イライザに視線を送ってきました。

サラと目が合ったイライザでしたが、
なんの反応もできません。

なにが起こっているかも分からず、
頭の中がぐちゃぐちゃに混乱していました。

周りにいた数人はその異様な光景に気付きましたが、
ほとんどの人は気付かずに踊っていました。

困惑した口調で、サラは言いました。

「な、なんの御冗談でしょうか」

「冗談なんかじゃありません。私と踊って
 くださいませんか?」

「なにを仰いますか、アナタはイライザ様の婚約者です。
 私なんぞがお相手なんてめっそうもございません」

「いえ、私はあなたと踊りたいのです」

婚約者は、顔を上げてしっかりとサラの目を
見ているようでした。

その顔には、きっとあの笑顔が浮かんでいると、
イライザは想像しました。

サラは、なおも困惑した顔で、

「あ、いえ、私には恐れ多いです、それに、
 私には踊る相手がおりますし……」

婚約者は、サラの彼になど目も向けず、ただ一点、
サラの顔を見て、

「そんなのは関係ありません。私と踊りましょう」

困惑していたサラの顔が、キリッと、険しくなったのを、
イライザは見逃しませんでした。

サラは、きっちりとした通る声で言いました。

「あなたは何を仰っているのですか?
 あなたはイライザ様の婚約者ではないのですか」

すると婚約者は耳を疑うような声を口に出しました。

「あなたと踊れるなら、婚約は解消してもいい」

「な、なんですって!」

イライザの前で、サラの顔は、笑ってないときでも、
いつもにこやかで、厳しいことを言ってくるときでも、
とても穏やかな表情でした。

そんなサラの表情に、イライザはずっと癒されてきました。

今、目線の先に写るサラの表情は、今まで、一度だって
見たことがない表情でした。

「あなたね!!」

サラは激しく怒りの叫び声を上げました。

イライザは、いつの間にかに歩き出していました。

あっという間に背中を向けてひざまずいている婚約者に
近づくと、両手を伸ばし、婚約者の肩を思いっきり掴み、
振り返らせました。

婚約者は振り返り、醜いものを見てしまったかのような
ひどい顔をしながら立ち上がりました。

イライザは、かんぱつ入れずに、右手を力いっぱい
握りしめ、思いっきり婚約者の左の頬に打ち込みました。

イライザの放ったパンチで、派手に倒れる婚約者の
姿を見て、踊っていた周りの人も、タダならぬ気配に
気付き、やがて音楽も止まりました。

会場は静寂に包まれました。

床に倒れ、左の頬を押えている婚約者に、
イライザは叫び声を浴びせました。

「私の大切な人を、困らせないで!!」

興奮していたイライザは、その後の記憶は、
あまりありませんでした。

司会者がパーティの終了を宣言したようにうっすらと
覚えている程度です。

婚約者が、「ちょっとした冗談だよ」と、醜い笑顔を
浮かべて言っていたことが、記憶のすみっこに
ありましたが、定かではありませんでした。

気が付くとサラに両肩を抱かれ、自分の部屋の椅子に
座らされていました。

サラが部屋の扉を閉め、厳重にカギをかけたことが
分かりました。

悲痛な表情を浮かべたサラが近寄って来ました。

「申し訳ございません」

黒髪を乱して頭を下げるサラに、

「なんであなたが謝るの」

イライザは冷静な気持で言いました。

「私は身分もかえりみずはしゃぎすぎました」

「なに言ってるのよ、あなたは悪くないわよ」

「でも……」

と、申し訳なさそうに言うサラにイライザは、

「悪くないって、言ってるでしょう!!!」

と、怒鳴ってしまいました。

恐縮するサラにイライザは、

「ごめん、怒鳴るつもりはなかったの」

「謝らないでください」

と、頭を下げるサラに、

「あなたも、もう、謝らないで」

イライザは微笑みながら、サラの腕に優しく手を当て、

「握られて、痛くなかった?」

「ハイ、弱弱しく握られたので、逆にビックリしました」

と、サラが楽しそうに言うので、二人は大笑いしました。

「でも、イライザ様のパンチ、すごかったです!
 スカッとしました!」

「あ、そう言えば右手が痛い」

「あーっ、大丈夫ですか、今、氷と薬もって来ます」

と、慌てて出て行こうとするサラに、
イライザは言いました。

「今度……」

「なんです?」

ふり返るさらに、イライザは目線をそらして、
囁くように言いました。

「今度、糸の紡ぎかた、教えてくれるかな」

恥ずかしくて、顔は見れなかったけど、

「ハイ!」

きっと笑顔なんだろうなぁ、と分かる返事が
返って来ました。

イライザがサラの方を向くと、もう姿はなく、
扉がゆっくりと閉まるところでした。

閉まる扉を見ながら、イライザは一言呟きました。

「ごめんね」

そして、

「ありがとう」


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 むすびこぶ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/world/06/18.htm


━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/

0 件のコメント: