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「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年9月9日日曜日

神さまのその奥に

むかしむかし、ある村に、修行中の若いお坊さんが
いました。

若いお坊さんは山にこもり、事故や災害で
亡くなった人の魂を沈める修行をしていました。

事故で誰かが亡くなったとの報せが入ればお経を唱え、
災害が発生したと報せが入ればお経を唱えました。

その年は、痛ましい事故や大きな災害が多くあり、
若いお坊さんは、ずっとお経を唱え続けました。

報せが入れば、食事もとらず、睡眠もとりません。

そんな修行をしていたある日のこと、
若いお坊さんはお経を唱えながら、体がゆらゆらと
ひとりでに揺れている感覚に襲われました。

(いかん、いかん、集中せねば~)

お坊さんは、お経を唱えることに集中しました。

しかし、ほとんど食事も睡眠もとらず、お経を唱え続けて、
早や3日、お坊さんの体は限界にきていました。

(───あ、───力が……)

若いお坊さんはお経を唱えながら、

“バタン!”

と、前のめりに倒れ込んでしまいました。

しかし、倒れ込んだはずなのにお坊さんは、
痛くも痒くもありませんでした。

それどころか、なんだか体が軽くふわふわした
感触に包まれました。

とてもいい気分です。

そのまま、お坊さんはふわふわと空中に浮かぶような
感覚になりました。

(あぁ~、わたしは浮いている~)

ふわふわとただよっていると、遠くの方に、
手を振っている人がいました。

若いお坊さんは、ふわふわとそちらに近づいていきました。

手を振っていたのは、白くて長い眉毛がとても似合う、
お坊さんの姿をした、おじいちゃんでした。

「よく来たなぁ」

と、おじいちゃんは、眉毛と同じくらい目尻を
下げた笑顔で言いました。

若者はこのおじいちゃんをどこかで見たことがありました。

でも、なんだか思い出せませんでした。

おじいちゃんは言います。

「ここは魂がたくさんおるところじゃ、
 案内するからついて来るがいい。
 でもその前に、神々にあいさつじゃ」

「神、さま?」

おじいちゃんは右手の手を胸の辺りの高さで、
手のひらを上に向けて、外に開き、

「こちらじゃ」

と促しました。

若いお坊さんがついて行くと、とてもキラキラした
世界が目の前に広がりました。

くねくねした道が通り、その両側には、
赤や緑や金色をした家のようなものが並んでいます。

家の屋根や柱には、細かい彫刻や絵などの装飾が施され、
それはそれは立派なものでした。

おじいちゃんについて道に足を踏み入れると、
家に見えたのは、立派な屋根の付いたイスで、
誰かがそこに座っていました。

「ここからは自然界の神じゃ」

「自然界の神?」

若いお坊さんが不思議そうな声を出すと、

「こちらが、空の神じゃ」

と、おじいちゃんが言うので、若いお坊さんは深々と
頭を下げました。

青い顔の空の神は、静かに目を閉じて頷きました。

「こちらは、風の神じゃ」

風の神の銀色の髪の毛は、風など吹いていないのに、
ゆらゆらと動いていました。

「こちらは山の神じゃ」

とんがった頭から、もくもくと煙が出ていました。

おじいちゃんは、神さまを1人ずつ紹介し、
若いお坊さんはその度に、深々とお辞儀をしました。

(たくさんの自然の神さまがいるんだなぁ……)

と、お坊さんはありがたい気持ちに包まれました。

自然界の神さまの次は、イヌやウシなどの、
生物の神さまがいて、その次には、
感情の神さまがいました。

「こちらは喜びの神さまじゃ」

喜びの神さまが、無くなるくらい目を細くして、
微笑みを向けてくれました。

「こちらは悲しみの神さまじゃ」

悲しみの神さまは、涙を流し、とても辛そうな
表情でしたが、口元にちょっとした笑みを浮かべ、
軽く頭を下げてくれました。

その後、怒りの神さま、嫉妬の神さまなど、
様々な感情の神さまを紹介された若いお坊さんは、

(こんなに、感情はあるのだなぁ……)

と、人の思いの強さをしみじみと感じました。

「さて、ここで神との挨拶はおしまいじゃ、
 この先には、魂たちがいる、
 しばらく会っていってやってくれぬか」

「かしこまりました」

若いお坊さんは、深々と頭を下げました。

「お坊さん」

と、突然、声を掛けられたので、若いお坊さんは
すぐに頭を上げました。

「わしは、くまの村のたぬ吉と申します」

と、若いお坊さんと同じくらいの年の男の人が
頭を下げました。

若いお坊さんも頭を下げた後で、たぬ吉が言いました。

「こっちで元気にやってるから、心配すんな、と
 家族に伝えてください」

たぬ吉は両ひざに両手をあてて深々とお辞儀をしました。

若いお坊さんも、手を合わせて深々とお辞儀をしました。

「わたくし、のだ村の、おつると申します」

今度は女性が現れました。

若いお坊さんが挨拶をすると、おつるは言いました。

「息子に、お母さんはあなたを愛していますよ、
 と伝えてください」

と、言いました。

「確かに伝えますよ」

と、若いお坊さんが言うと、
おつるは、涙を着物の袖でふいていました。

次に来たのは、

「あとま村のさきちと言います」

若いお坊さんより、少し年上のように感じる、
男の人がきて言いました。

「今年も、おいしいイモが採れたらお供えしてくれ、
 と伝えてください」

「かしこまりました」

若いお坊さんは手を合わせて、お辞儀をしました。

その後も、若いお坊さんの前には何人もの人が現れ、

「ずっと見守っているよ」
「俺の分まで、幸せになってくれよ」
「新米が採れたら、すぐに供えてちょうだい」
「水より、酒をかけてくれ」
「一緒に暮せて楽しかったよ」

と、思い思いの言葉を口にしました。

若いお坊さんは、1人1人の話を丁寧に聴いて、
手を合わせて深々とお辞儀をしました。

いったい、何人と話をしたのでしょう。

何日も時間が経ったように感じましたが、不思議なことに、
若いお坊さんはまったく疲れませんでした。

そして、最後の1人の話を聴いて、深々と頭を下げると、
かたわらに、お坊さんの姿をしたおじいちゃんが立っていて、

「みんなの話を聴いてくれてありがとう」

と、ニコニコ笑顔で言いました。

「いいえ、わたしは当然のことをしたまでです」

若いお坊さんは手を合わせて言いました。

おじいちゃんはニコニコとした笑顔のままで、

「わしはここに残らにゃならん、おまえは、
 1人で帰れるな」

と言いました。

「かしこまりました、1人で帰れます」

と、若いお坊さんが言うと、体が
ふわふわと浮かび上がりました。

「さようなら」

と、手を振ると、おじいちゃんも優しい笑顔で、
手を振ってくれました。

体はどんどんふわふわと浮いて行き、
おじいちゃんの姿が遠くなって行きました。

やがて目の前は、真っ白な世界に包まれ、
その後暗くなりました。


───目を開けてぼんやりとしていました。

そこが、修行していたお寺の一室だと気づくのに、
だいぶ時間が掛かりました。

周りで、「目が覚めた」「よかった」「生き返った」との
声が聞こえました。

「はっ!」

若いお坊さんは目を見開いて飛び起きました。

「こうしちゃいられない」

と、慌ててどこかに行こうとしている若いお坊さんを、
周りにいたお坊さんが慌てて止めました。

「おいおい、13日間も気を失っていたと思ったら、
 今度は慌ててどこへ行くんだい」

心配するお坊さんたちに、若いお坊さんは、
気を失っていた間に魂の世界に行ったことを話しました。

周りのお坊さんたち半信半疑で聞いていましたが、
若いお坊さんは話をしながら、旅仕度をすませました。

そして、すぐに旅立ちました。
魂からの言葉を、この世に生きる者に伝えるために。


おしまい。


今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 あの世で頼まれたことづけ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kaidan/06/12.htm


━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

心の復興は、あなたのペースで、ゆっくりと。


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