※童話の更新は週1回(だいたい土曜日の夜)です(^0^)/

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2018年8月12日日曜日

いつも見守ってくれる人[後編]

【前編はコチラから】


死んだ妹とこうして会っていられるのなんて、
奇跡だし。大切な時間だと思った。

でも、お互いに、だんだん窮屈さを
感じるようになっていた。

「なぁ」

そして僕は提案した。

「姿を消すことってできるの?」

「えっ」

妹は、一瞬、戸惑った表情で答えた。

最近、あまり話しかけていなかったから、
不意を突かれたという感じだ。

いくら仲が良くたって、ずっと一緒にいたら、
話すこともなくなってくる。

「やってみる」

と、妹は言うと、姿が見えなくなった。

オレはなぜか不安になり、すぐに妹の名前を呼んだ。

「あ、ここにいるよ」

という声と共に、妹が姿を現した。

「よかった」

オレは息を吐いてから、

「また会えなくなるんじゃないかと思って、あせった」

「ふふふふふ」

と、楽しそうに妹は笑った。

その日から、妹は、姿を消すことになった。

なにかあったら、お互いが呼びかけて、妹が姿を現す、
そんなルールがなんとなく決まっていった。

姿が見えないだけで、だいぶ気が楽になった。

でも、妹が見ていると思うと、行動が変わった。

今までなら、赤でも渡っていた信号を青になるまで待った。
電車を降りようとしたとき、飛び乗って来た奴に
激しく肩をぶつけられて、キレそうになったときも、
がまんした。

その度に、妹に声をかけ、

「オレ、今、我慢したぜ、すごいだろ!」

などと自慢していた。

妹も、姿を現して、効果音が入りそうな笑顔を
見せてくれていた。

最初のうちは頻繁に、お互い声をかけていた。

しかし、だんだんと声をかける日が少なくなって行った。

朝と夜に声をかけるだけになって……、
やがて、一週間もすると、ほとんど声をかけることが
無くなった。


「ねぇ、今度のお休み、映画のチケットがあるんだけど、
 一緒にいかない?」

お昼休み、コンビニで買ったおにぎりを口に
ほうばっていた時に、声をかけられた。

声をかけてきたのは、同期の女性だった。

入社した時から、オレはずっと彼女に憧れていた。

その彼女が、オレをデートに誘ってる?

オレは二つ返事で、デートの約束を受けた。

「最近、変わったよね」

そう彼女は言った。

「入社したてのころは、やさぐれてる感じだったけど、
 今は、すごく真面目になった感じがする」

最近、彼女とは、いい感じになっていたとは思っていた。

だけど、デートに誘うなんて、まだ勇気が持てなかった。

でも、向うから誘ってくれるなんて、
なんてラッキーなんだ!

喜びがあふれ出して、飛び上りたい気分だった。

でも、喜んでもいられなかった。

デートには、妹もついてくる。

困ることは無いけど、それで、本当にいいのだろうか?

オレは家に帰り、ご飯を食べ、落ち着いてから
久しぶりに妹に声をかけた。

「なぁ、昼間の話は、聞いてただろ?」

妹からの返事は無かった。

「ん? どうした、まさかやきもちを焼いてるんじゃ
 ないだろうなぁ」

部屋の中で、オレの声はどこにも吸収されず、
消されていった。

「おい、いるんだろ、返事をしろよ」

オレは、妹の名前を叫んだ。

でも、帰って来たのは、静寂を示す耳鳴りだけだった。

オレは立ち上がり、うろたえた。

「えっ、えっ」

そして何度も、妹の名前を呼んだ。

なんの応答もない。

オレは思い出した。

(自分でも分かんない)

妹はそう言っていた。

いつまでいられるか分からない、と言いながら、
ヤレヤレという仕草をしていた。

いつまでいられるか分からないってことは、
いついなくなるのか分からない、ってことだ。

オレはゴクリと唾を飲み込んだ。

「もしかして、帰っちゃったのか……」

その声にも、静寂しか返ってこなかった。

「もう、会えないのか……」

やりきれない思いがした。

しかし、普通に考えれば、そりゃそうだ。

妹は死んだんだ。

会えるわけがない。

会えたことの方が、奇跡だ。

「たくっ、突然死んで、突然現れて、
 突然、いなくなって、
 ───お前ってやつは……」

ずっと、そばにいるんだと思っていた。

嫌気がさしていたのも事実だ。

だからって……、

いつの間にか、いなくなっていたなんて……、
もう、会えないだなんて……。

オレは、呆然とここ何日かのことを考えていた。

妹が見てるから、オレは生活態度を変えた。

前より、規則正しくなったし、ずっと真面目になった。

(今は、すごく真面目になった感じがする)

突然、同僚の娘の声が頭に浮かんだ。

ずっと憧れていた同期の娘からデートに誘われた。

あっ───。

「なんだ、おまえのおかげか…」

涙が流れた。

頬を通って、スー、っと落ちていくのが分かった。

でも、オレは笑った。

無理やり、ニヤリと効果音が出そうな笑顔を作って
笑った。

笑いながら、涙が止まらなかった。

一生分、泣いたと思っていたのに、
次から次へと、流れてくる。

どこにこんなに涙が隠れてたんだ。

涙はどんどん出てくる。

でも、これは妹を亡くした時の涙とは違う。

あの時とはぜんぜん違う涙だ。

オレは悲しくない。

これからの人生を力強く生きていける確信がある。

だって───

妹が、いつでも、すぐそばで見守ってくれている。

いつでも見守ってくれている妹を、
しっかりと肌で感じることが、今のオレにはできる。

だから、悲しくなんかない。

でも、涙は止まらなかった。

妹は、オレに会いに来てくれた。

悲しくて泣いていた俺が、未来へ向かって、
一歩を踏み出す力を与えるために、
きっと妹は現れてくれたのだろう。

だんだん、そんなことが思えるようになってきた。

そして、オレは思い出した。

妹に会えたら言いたいことがあったんだ。

そして、それは結局、言えずじまいになった。

でも、遅くはない。

改めて、オレはその言葉を声に出した。

「どんなときでも、オレの味方でいてくれて、
 ありがとう」

部屋の空気が、一瞬だけ、優しく流れたのを、
オレは肌で感じた。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 幽霊の泣き声 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kaidan/06/04.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/



0 件のコメント: