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「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年8月4日土曜日

キツネと赤いワンピースの娘

むかしむかしの話です。

農業を営んでいる青年がいました。

青年は、収穫したばかりの農作物を、
街の市場に卸した後、家に帰ろうと
馬車を走らせていました。

馬車の荷台には、来るときはたくさんの
農作物が積まれていましたが、今はなにもなく
がらーん、としていました。

街の外れに川が流れていて、大きな橋が架かっていました。

青年が乗る馬車が橋を渡ると、道端で
赤いワンピースを着た娘が、手を上げてこちらを
見ていました。

青年は、知り合いだろうかと思い、
娘の前で馬車をとめました。

「どうなさいました?」

青年が訪ねると、娘は被っていた白くてつばの長い
帽子をとりながら、笑顔で言いました。

「よかった! 誰もとまってくれないから、
 困っていたの」

青年は、ドキリ、と心臓が高鳴りました。

娘は、知り合いでもなんでもなく、今まで見たことも
無いほど可愛らしい、魅力的な顔立ちをしていました。

顔から湯気が出そうなくらい赤くなっている
青年に構わず、娘は話を続けました。

「隣の村まで、乗せていってはくれないかしら」

青年は、ドキドキしながらも「あぁ、」とだけ
声を出しました。

「ありがとう、助かるわぁ」

と言って、娘はワンピースの裾を少し翻して、
なにも乗っていない荷台に乗りました。

「あなたは、あなたの行く道をそのまま進んでちょうだい、
 私は、目的地に近くになったら、降ろしてもらうわ」

「あぁ、分かった」

青年は手綱を叩いて、馬車を走らせました。

青年はずっとドキドキしていました。

後ろには、赤いワンピースを着た娘が乗っています。

しかも、胸が高鳴るほど、可愛らしい娘です。

後ろを振り向けば、姿を見ることはできますが、
女性を見ることに慣れていない青年には、
振り向くことすらできずにいました。

胸の高鳴りだけを感じ続け、馬車は進み、
青年は娘と一切会話もせずに、とうとう、
青年の家の近くまで来てしまいました。

それまで、まったく娘に話かけるどころか見ることも
できなかった青年でしたが、もう家についてしまうので、
仕方なく話しかけることにしました。

「あのぉ、そろそろ、私の家についてしまうのですが…」

青年は意を決して話しかけましたが、
かえってくる声はありませんでした。

おかしいな、と思い、青年は自然を装って
荷台に目を向けました。

「──えっ!」

青年は短く声を出すと同時に、手綱をひいて
馬車を止めました。

青年の目は、荷台にくぎ付けになりました。

荷台には、なにもありませんでした。

農作物から落ちた葉っぱだけ。

赤いワンピースを着た娘の姿形はどこにも
見当たりませんでした。

「いつの間に、いなくなったんだろう……」

青年はキツネにつままれた気分になりました。


青年はその夜、近所の仲間が集まる席で、
この不思議な話をしました。

「そりゃおめぇ、キツネに騙されたんだべぇ」

「キツネ?」

「そうだ、あの橋には、よくキツネが化けて出るから」

「えっ、そうなの?」

「そうだよ、だから誰かが立っていても、
 普通は誰も相手にしねぇんだべ」

他の仲間から「おまえはそんなことも知らないのか!」
と、笑われてしまいました。

「そうかぁ、キツネかぁ……」

と、青年はガッカリした口調で言ったあと、

「でも、可愛かったなぁ」

と口を滑らしてしまい、さらに大笑いされてしまいました。


それから数日後、青年は街からの帰り道、
例の橋を馬車で渡ろうとすると、赤いワンピースを着た
娘が立っていました。

この間と同じように、こちらに向かって手を
上げています。

青年は娘の前で馬車をとめました。

「やぁ、」

と青年が声をかけると娘は、

「よかった! 誰もとまってくれないから、
 困っていたの」

と、数日前と同じようなことを言いました。

(この娘、いや、このキツネは、オレのことなんて
 覚えていないのかも知れない)

と、思っている青年には構わず、娘はこう言いました。

「隣の村まで、乗せていってはくれないかしら」

青年が軽くうなずくと、

「ありがとう、助かるわぁ」

と言って、娘はワンピースの裾を少し翻して、
なにも乗っていない荷台に乗りました。

「あなたは、あなたの行く道をそのまま進んでちょうだい、
 私は、目的地に近くになったら、降ろしてもらうわ」

「あぁ、」

数日前と同じような会話をしてから、
青年は馬車を走らせました。

青年は馬車を少しだけ速く走らせました。
通る道も前回とは違います。

さらに今日は荷台に娘がいることを、
ちゃんと確認していました。

実は、仲間と話しているときに、今度キツネに会ったときは
仲間のところに連れて行って、みんなでいたずらキツネを、
とっちめることになっていたのです。

仲間のいるところまで、娘を届けなければなりません。

なので、青年は娘がいることをちゃんと確認しながら、
近道をして仲間のいるところへ向かって
馬車を走らせていたのでした。

「おや」

馬車を走らせる青年の行く手に、仲間の1人がいることに
気づきました。

(あれ、思っていたより、だいぶ早く着いたな)

青年は荷台を見て、娘が乗っていることを確認してから、
仲間に向かって手を上げました。

そして、仲間が集まっているところで、馬車をとめました。

馬車を降り、荷台に向かうと、娘がビックリした顔で、
こちらを見ていました。

(か、──可愛い……)

と、思った青年でしたが、

(キツネ、キツネ)

と、頭をぶるんぶるん激しく振りました。

女性相手では、ドキドキしてしまう青年でしたが、
相手がキツネなら、そんなことはありませんでした。

「コラ!キツネめ! なぜオレをだまそうとする」

と、声を上げて、娘の腕をしっかりと掴み、
馬車から引きずり降ろして、仲間の方へ連れて行こうと
しました。

しかし、仲間の方へ目をやると、仲間の姿は見えません。

青年はキョロキョロ辺りを見渡しましたが、
どこにも仲間はいませんでした。

それどころか、周りの景色のどこを見ても、
知っているところがありませんでした。

そして、自分がしっかり握っているのが、
娘の腕ではなく、木の棒であることに気づきました。

「なっ、なっ」

青年は握っていた棒を、振り払うように投げると、
頭を抱えながら馬車に飛びのり、一目散に
その場を離れました。


その話を仲間にすると、

「なんだ、またキツネにだまされたか」

「おまえ、だいぶキツネに好かれたんだなぁ」

と、大笑いされてしまいました。

大笑いされて、恥ずかしい思いをした青年でしたが、
心の中では、

(それにしても、あの娘は可愛いなぁ……)

と、思っていました。

明らかに、好いているのは青年の方でした。


そして数日後。

青年が例の橋を渡ると、また、そこに
赤いワンピースを着た娘が立っていました。

ところが、今日は手を上げてはいませんでした。

白い帽子で顔が隠れていましたが、あれは確かに
赤いワンピースの娘でした。

青年は

(あれはキツネだ、あれはキツネだ)

と、心の中でとなえながらも、ついつい馬車を
娘の前で止めてしまうのでした。

「いあぁ、また会ったね」

青年は声をかけました。

すると、赤いワンピースの娘は、白い帽子のつば越しに
青年に目を向けました。

その目があまりにも鋭かったので、青年は、違う意味で
ドキッ、としました。

娘は、鋭い目を青年に向けながら静かに言いました。

「もう、こないだは私を落として、馬車を走らせて
 行っちゃうんですもん、困りました」

「──え?」

青年は、まぬけな声を出してしまいました。

「えっと、──えっと」

と、慌てている青年に、娘はそっぽを向いて言いました。

「この間、馬車に乗せて下さったことには感謝しています。
 でも、もう落とされるのは、こりごりなので、
 あなたの馬車には乗りません」

青年は慌てて言いました。

「ごめん、ごめんよ、キミが途中で落ちただなんて
 知らなかったんだよ。
 悪かった、今度はちゃんと送るから」

と、青年がお願いすると、娘は青年の顔を、
ジーッと見つめ返してきました。

キレイな目でジーッと見つめられると、
青年の心臓はドキドキドキ張り裂けそうです。

やがて、ジーッと見ていた娘は、

「じゃぁ、もう一回、今度はちゃんと送り届けてください」

と、ニコッ、とした笑顔になって、

「だって、こうして待っていても、
 誰もとまってくれないんですもの」

そう言いながら、青年の隣に座りました。

「今日は、落ちた時に気づいてもらえるように、
 ここに座ります」

娘の腕が、青年の腕に軽く触れました。

青年の心臓は、もう、はち切れんばかりです。

そして、青年は、娘のワンピ―スに負けないくらいの、
真っ赤な顔をしながら、馬車を走らせました。

そして思いました。

(もう、キツネでもなんでもいいや)

青年は、隣に娘の温もりを感じ、心臓が口から
飛んでいきそうなくらいドキドキでしたが、
そんな心臓に負けないほどの、幸せを感じていました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 少女ギツネ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/06/04a.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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