≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪
「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年8月26日日曜日

お手伝いさん家のお化け[前編]

昔々のお話です。

ユタカさんとサチコさんという、とても仲のいい
夫婦がいました。

2人は、お金持ちのお屋敷でお手伝いさんとして
働いていました。

朝早くから、ユタカさんは庭の手入れ。

サチコさんは朝ごはんの仕度。

お屋敷の家族がでかけると、今度は、ユタカさんは
広いお屋敷を隅から隅までチリ1つ残らないほど
キレイにお掃除。

サチコさんは、お屋敷の家族5人分の衣服を
洗濯しました。

お昼を食べる以外、2人はずっと働いて、家族5人が、
全員寝室に入ると、やっと仕事が終わりになり、
お家に帰ることができました。

2人の家は、お屋敷から少し離れたところにあります。

なにもない田舎道を歩いて着く家は、
お屋敷の一部屋分もない狭くて古い家でした。

毎日、狭くて古い家から、豪華なお屋敷に出かけ、
一日中働いて、またこの家に帰って来る。

ユタカさんとサチコさんは、この生活にとても満足し、
誇りを持って真面目に仕事を続けました。

ある日のこと、2人はいつものように働いていると、
突然、お屋敷の主人に、話があるから部屋に来るようにと
呼び出されました。

こんなことは初めてだったので、2人はビックリしました。

「なんだろう、話って」

と、ユタカさんが言うと、

「なんだろうねぇ、急に改まって」

サチコさんは心配そうに答えました。

「まさか、仕事がなくなるなんて、ないよなぁ」

「まさか、突然、それはないでしょう」

2人で、そんなことを話しながら、
おそるおそる主人の部屋に行きました。

「失礼します」

ユタカさんがノックして主人の部屋の扉を開けると、
部屋の中には、主人の他に、奥様、そして、
学校へ行っているはずの、3人の子どもたちがいました。

おそるおそるやって来た2人とは対照的に、
主人たちはみんなニコニコ笑顔で立っていました。

主人は2人に向けて両手を広げて言いました。

「さぁ、今日の主人公が来たぞ!」

キョトンとしている2人に、子どもたちが駆け寄って来て、
コッチにきてと、手を引き、背中を押しました。

そして、2人が主人と奥様の近くに立つと、
子どもたちは離れ、主人と奥様の隣に並びました。

なにが始まるのか、不安そうに2人が立っていると、
主人が改まった口調で言いました。

「おまえたち、今日まで、よく働いてくれました」

「はぁ、」

ユタカさんが、静かに声をだしました。

「今日までの仕事ぶりに、とても感謝します」

「あ、ありがとうございます」

サチコさんも静かにこたえます。

2人は、まだなにを言われるのか、ドキドキしながら、
話を聞いていました。

そんな2人のドキドキなど構わずに、
主人は明るい声で言いました。

「ところで、今日はなんの日かご存知かな?」

「え?」

2人は不思議そうな顔をして、お互いを見ました。

奥様は、「フフフ」と笑いました。

主人は奥様の顔を、一瞬見てから、
2人に向かって言いました。

「おまえたちが、我が屋敷に来てから、
 今日で、ちょうど10年だ!」

おめでとーう!!! と奥様と子どもたちが、
盛大な拍手をしました。

「おや」

「まぁ」

2人は驚いた表情を浮かべました。

主人は奥様に顔を向けました。

それを受けるように、奥様は2人に向かって言いました。

「私たちはとても感謝しています。
そこで、お礼の気持ちとして、プレゼントをしようと
思ってるの」

「え?」

2人はさらに驚いた表情になって、

「いやいやいや、お気持ちだけで」

ユタカさんは両手を振りながら言いました。

サチコさんも大きく何度もうなずきました。

「いや、心配するな」

と主人が話を続けます。

「そんなにいいもんじゃないのだ。
おまえたちに家をやろうと思ってな」

「い、家ですか!」

と驚く2人に奥様が、

「そんなに良い家じゃないのよ。
ほら、通ってもらうのも大変だから、
同じ敷地に、住んでもらおうと」

「いやでも」

と慌てる2人に、今度は主人が、

「いや、本当にそんなにいいもんじゃないんだ。
 元々はお手伝いさん用の家だったんだが、
 使わなくなってから、だいぶ立ってるから、
 汚れているし、それに……」

主人が少し言葉を濁したので、2人は身構えました。

少し間を置いて、主人は話ます。

「ちょっと、お化けが出るとのうわさがあるんだ」

「お化け!!」

と、2人は驚きました。

驚いている2人の表情を見て奥様が慌てて、

「うわさよ、うわさ、家じたいは、2人で暮らすには
 十分な広さでしょうし、同じ敷地と言っても、
 この屋敷からは少し離れているから、プライバシーは
 守られるわよ」

「今の家より、だいぶ近くなるし、快適に暮らせるはずだ」

「そうですかぁ……」

2人は不安ながらも、お世話になっているご主人が
せっかくプレゼントしてくれるのだからと、
家をもらう事にしました。

そして、案内された家は確かにそれ程、
立派なものでは、ありませんでした。

しかし、今住んでいる家よりも、設備は整っていて、
今よりも快適に過ごせそうです。

こうやって、気軽に歩いて移動できる距離ですから、
通うことを考えても大変便利になりそうでした。

2人は大いに喜び、引っ越しをする前に、
仕事の合間の時間に家に行って掃除をしました。

そんなに立派には見えなくても、使っている素材は
さぞ高級な物なのでしょう。
掃除をすればするほど、家は見違えるように、
どんどんキレイになっていきました。

2人は、あっという間に家をキレイにして、
3日もたたずに、お手伝い用の家に越して来ました。

そして、その夜に、早速、不思議なことが起きました。



───[中編]へつづく、


お手伝いさん家のお化け[中編]

[前編]はこちらからどうぞ



お屋敷の仕事を終えて、家に帰ってきた2人は、
食堂で遅い食事をとっていました。

すると、食卓を灯していたランプの炎が、
風も無いのに、突然、消えました。

「おやおや、消えてしまったなぁ」

「ほんと、暗いとお食事がまずくなりますね」

サチコさんはすぐにランプに火を灯しました。

何度も火を灯すのですが、すぐに消えてしまいます。

「なんだか、よく消えますねぇ」

「ホントだねぇ」

2人はランプが消えるたびに、火を灯しました。

すると、今度は食堂の扉が、ガタガタと震えました。

「おやおや、誰か来たのかな?」

ユタカさんは立ち上がり、扉を開けましたが、
誰もいませんでした。

ユタカさんが食卓に戻り、食事を始めると、
今度は、天井から、誰かの笑い声が聞えてきました。

「おやおや、楽しそうな笑い声が聞こえるぞ」

「ホントですねぇ、楽しそうですね」

ユタカさんとサチコさんは、そんな会話をしながら、
食事を続けました。

そして、不思議な現象が次々とおきましたが、
2人はたいして驚くこともなく、いつも通りに眠りました。

2人がお手伝いの家に引っ越して来てすぐに、
サチコさんは奥様から、「住み心地はどう?」
と聴かれました。

「大変、住みやすいです」

と、こたえると、

「お化け出ない?」

「えぇ、不思議なことは起きてますが、
 お化けは見ていませんね」

「あら、良かったわ、お化けが怖くて、
 あなたたちが、辞めるなんて言い出したら、
 どうしようと思っていたのぉ。
 長く、住めそうかしら」

「はい、これからも、このご恩を忘れずに、
 真面目に働かせていただきます」

とサチコさんが言うと、奥様は優しい声で、
「安心した」と微笑みました。

そして時はたち。
ユタカさんとサチコさんが、お手伝いの家に越して
来てから、1カ月くらいすぎたある夜のことです。

ユタカさんとサチコさんは寝室で寝ていました。

しかし、その夜はなんだか寝苦しくて、
2人とも寝れずにいました。

「なんだか、眠れませんねぇ」

「眠れないなぁ~」

と、2人で話していると、

ミシ…、ミシ…、

と、廊下を誰かが歩いてくるような音がしました。

ミシ…、ミシ…、

音は、だんだん近づいて来ているようです。

「なんの音でしょう」

と、サチコさんが言うので、ユタカさんは、
なんの音か確かめようと、起き上がりました。

「あっ!」

ユタカさんが、大声を上げたので、サチコさんは
起き上がり、

「どうしたの?」

と声をかけたサチコさんの目の前には、
見知らぬ、おじいさんとおばあさんが立っていました。

サチコさんは大変ビックリしましたが、
それと同時に体がかってに動いてしまい、
おじいさんとおばあさんに向かって、

「こんばんは」

と、挨拶をしてしまいました。

「こんばんは~」

おじいさんとおばあさんも挨拶を返してくれました。

ユタカさんも、その光景を眺めています。

おじいさんとおばあさんは、なんだか白っぽくて、
ぼんやり浮かんでいるように目の前にいました。

「失礼ですが、どちらさまでしょうか?」

サチコさんが、見知らぬお客様に訪ねるように言うと、
優しそうな笑顔を浮かべながら、おじいさんが言いました。


───[後編]へつづく

お手伝いさん家のお化け[後編]

[中編]はこちらからどうぞ


「ここの屋敷に住んでいるお化けじゃ」

「おや、まぁ、あなたたちが」

と、サチコさんが驚いていると、
おじいさんが続けて言いました。

「住んでる、と言ったがそれも今日までだ」

「今日まで?」

「そうじゃ」

と、おじいさんが言ったあと、続いておばあさんが
話を始めました。

「あなたたち、私たちがいくら驚かそうとしても、
 全然、怖がらないんだもの、こっちがビックリよ」

「はぁ」

サチコさんの変な返事のあと、おばあさんは続けました。

「私たちはね、この家に住みついて、ここに住む人を
 怖がらせていたの」

「そうなのですかぁ」

と、サチコさんがこたえたあと、今まで黙っていた
ユタカさんが声を出しました。

「なんのために?」

今度はおじいさんがこたえました。

「わしらは、あなたたちが働いているお屋敷で、
 ずっと前に働いていた、あなたたちの先輩なんじゃ」

「先輩?」

「そうじゃ、この家に住み、お屋敷で手伝いの仕事を
 していた」

「でもね」

と、おばあさんが話を始めました。

「おじいさんが、先に亡くなってね、私1人になると、
 若者が新しいお手伝いとしてやってきてね、
 全然働かないの、口ばっかり達者でね、
 当時のご主人様をだまして、私を、この家から
 追い出してね、自分の家にしてしまったのよ。
 家を失ってすぐに私も病気になってね、
 生きる希望もなくして、死んでしまったわ」

おばあさんは悲しそうに顔を伏せました。

「それは、大変、お辛かったでしょうね」

「えぇ、もう」

と、おばあさんが言ったあと、今度はおじいさんが
話を始めました。

「あの世で、おばあさんと再会して、話を聞いて、
 腹が立ったんで、その若いお手伝いを懲らしめてやろう、
 と、2人で話して、お化けになってこの家に
 取り着いたんじゃ」

ユタカさんとサチコさんが黙って聞いていると、
今度はおばあさんが話を始めました。

「あなたたちにやったように、不思議なことを
 いろいろしたら、とても怖がって、あっという間に、
 家も捨ててお手伝いも辞めて逃げ出していったわ」

「いいきみね」とおばさんは、いたずらっぽい
笑みを浮かべました。

続いて、おじいさんが話し始めました。

「それでな、我々はこの家に取り着いて、新しく入った
 お手伝いを次々と怖がらせたんじゃ。
 お化けを怖がって逃げだすようなやつじゃ、
 お手伝いなんて、務まる訳がないからな」

「何人ものお手伝いが怖がって辞めていったわ」

とおばあさんが言うので、(お気の毒ね)と
サチコさんは思いましたが、口には出しませんでした。

「そのうち、この家には誰も住まなくなってね。
 本当に、しばらくぶりに、あなたたちがやってきたのよ」

「よし、久しぶりに大いに怖がらせようと、
 気合いを入れて怖がらせたのに」

「あなたたち、ぜんぜん怖がらないんだもの、
驚かせている、こっちがビックリよ」

おばあさんが楽しそうに言うので、サチコさんは、

「お恥ずかしいことで」

と、言ってから、こう続けました。

「夫と2人でいると、なにも怖いことなんてないもので」

ユタカさんも大きく頷きました。

おじいさんとおばあさんは、
優しい笑顔で何度もうなずきました。

そして、おじいさんが言いました。

「それなんでな、あなたたちなら、
 この家を任せても大丈夫じゃろうと思ってな。
 こうして、別れの挨拶を言いに出てきたのじゃよ」

「別れの挨拶ですか?」

ユタカさんが不思議そうに言うと、おばあさんが、

「えぇ、ここに住む人を驚かせるのも、
 もう十分やったから、ちょうどいいと思って」

「あなたたちに、この家とお屋敷のお世話を託して、
 我々は成仏するよ」

と、おじいさんは笑顔で言いました。

2人が、なにも言えずに黙っていると、
おじいさんが2人の前に、カギを差し出しました。

「実はな、この家には、秘密の地下倉庫があるんじゃ。
 私たちが初めてこの家に来たときに、
 先輩から託されたのが、このカギじゃ。
 あなたたちに、渡しておくよ」

サチコさんがカギを受け取りました。

それと同時に、サチコさんの意識が
もうろうとしてきました。

おじいさんとおばあさんの姿が、ぼんやりとしか、
見えません。

やがて、立っていられなくなり、
ベットに横たわって、そのまま眠ってしまいました。

ハッ、として、目覚めたときには、
もう朝になっていました。

明るくなる前に、お屋敷にいつも行っているのに、
家の中には薄明りが差し込んでいます。

「大変!」

と、飛び起きたサチコさんは、となりで寝ている
ユタカさんを揺すり起こしました。

ユタカさんも慌てて起きると、すぐに仕度を始めました。

サチコさんも急いで仕度をしようとすると、
自分が、なにかを握りしめていることに気づきました。

「あ、カギだ」

サチコさんがかざしたカギを見て、
ユタカさんが言いました。

「あ、夢じゃなかったのか」

2人はしばらくカギを眺めていましたが、
すぐに仕度を始めて、急いでお屋敷に向かいました。

いつもは分担して作業を進めている2人ですが、
今日は朝ごはんの準備を協力して行いました。

なんとか無事に朝ごはんを間に合わせて、
子どもたちを学校に送り出した後、
2人は主人のそばに行き、夜にあった出来事を
話しました。

話を聞いて驚いた主人は、奥様もつれて4人で、
お手伝いの家に行き、地下倉庫を探しました。

主人は、だいたいの位置が分かっていたようで、
家の裏口の方へ向かい、地面の土を足で何回か払うと、
土に埋もれた扉のようなものが現れました。

主人とユタカさんが力を込めて扉を開けると、
階段がありました。

4人でゆっくりと降りて行くと、
その先に、カギがかけられていて開かない扉がありました。

カギ穴にカギをはめるとピッタリはまり、
扉は開きました。

階段から入る外の光しかなく、うす暗い倉庫の中には
たくさんの箱が置いてあるのが見えました。

主人が1つの箱を明るい入口付近に持って来て
開けてみると、そこには、キラキラと光る宝石が
たくさん入っていました。

4人は手分けして全ての箱を開けて確認すると、
全ての箱に、宝石が入っていました。

主人は、全ての箱をもとに戻すように指示すると、
倉庫の外へ出て、カギを閉めました。

4人は階段を登り扉を閉めると、土をかぶせて、
元通りにしました。

そして主人はカギをサチコさんの前に差し出し、

「これは、ご先祖様が遺してくれた宝だ。
 大切に、守っていてくれ」

サチコさんはユタカさんに目配りをしました。

ユタカさんが大きくゆっくりと頷いたので、
サチコさんは大事そうに、主人からカギを受け取り、

「ハイ、大切にお守りします」

と、深々と頭を下げました。

主人はユタカさんの肩に手を乗せて、

「しっかり、頼んだぞ」

「ハイ、必ずお守りします」

と、深々と頭を下げました。

そして、4人は地下倉庫を離れ、お屋敷に戻り、
その後、その地下倉庫に近づくことは
ありませんでした。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 宝を守る屋敷の幽霊 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kaidan/06/08.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/

2018年8月19日日曜日

ハチこそ最強の生物だ!

オレはハチだ!

体は小さいが、世界最強の生き物だと思っている。

なぜなら、このなんでも突き刺す針を持ってるからさっ。

この針で刺せば誰もが痛がって逃げて行く。

そう、例えば、あそこにいるライオン。

百獣の王だなんて威張ってやがるが、
オレの相手にもなりゃしない。

試しに近づいてみようか。

“ブーン、ブーン”

ほーら見たことか、オレの羽の音を聞いただけ、
血相変えて逃げて行ったぜ。

羽の音だけでライオンを追っ払う生き物が、
オレの他にいるかい?

お、ちょうどいい。
あそこに居眠りしているライオンがいるぞ。

“ブーン、ブーン”

羽を鳴らして近づいて行っても起きもしない。

間抜けな顔をして寝てるぞ。

よし、鼻を刺してやる。

エイ!

「ギャオー!!!」

ホラ見ろ! 飛び起きて鼻を押えて逃げて行ったぞ。

ライオンがあんな姿で逃げて行く生き物なんで、
オレたちハチくらいなもんだろ!

百獣の王も逃げ出す、オレたちハチは、
世界一強い生き物さ。

さっ、ライオンをからかうことにもあきたから、
家にでも帰るか。

“ブーン、ブーン”

うわぁ、なんだコレ!

飛んでいたら、なにかにぶつかったぞ!

ベトベトしていて、自由に動けない。

なんなんだ、このベトベトしたヒモみたいなものは!

体にまとわりついて、離れやしない。

まったく、こんなもんこんなところに張っとくなよ。

羽を動かしても飛べないし、はずそうとすると、
どんどん体にへばりついてくる。

なんだ、このヒモは!

ん!

オレの動き以外の振動が伝わってきた気がする。

───間違いない、オレの動きとは別の動きがする。

なんだ、なにかが近づいてくる感じがする。

───あ、あれは!

クモか!

そうか、これはクモの巣か!

オレとしたことが、クモの巣にひっかかるなんて、
なんたる不覚だ!

クモのやつら、巣にひっかかった生き物を
なんでも食べやがる。

いつもはクモの巣を注意して飛んでるから、
ひっかかりやしないのに、今日は油断してたぜ。

クモなんて、針で刺せば、簡単にやっつけられるのに、
こんなベタベタしたヒモが巻き付いてたんじゃ、
うまく針を刺せないよ…。

うわ、クモが近づいてきた。

くるな、あっちへ行きけ!

あーもーっ、このベトベトしたヒモ、頭にくる!

体勢を整えさえできれば、針であいつを刺して
追っ払うことができるのに。

まったく、こうもベトベトじゃ、なにもできやしない。

クモめ! 近づいてくるな!

オレは最強生物、ハチだ! 

オレの羽ばたく音を聞いただけで、
ライオンも逃げ出すほどの最強の生き物だ!

それなのに、クモなんかにやられてたまるか!

おまえなんか、針で一刺しでやっつけられるのにぃ。

くそー! それ以上近寄るな! あっちへ行け!!!

死にたくない、死にたくない!!

うあぁ!!!!!

“ザサザサザサ!”

なっ、なんだ!

うわわわわわぁ、なにかが体に当たったぞ!

この衝撃は、クモなんかじゃない。
だってクモは、オレの目の前にいる。

体全体に当たった感触がある。

もっと大きいなにかが、クモの巣にぶつかってきたんだ。

ん!

目の前は茶色い草原のようだ。

イヤ、違う、生き物の毛だ!

当たった拍子に、オレは茶色い毛むくじゃらの生き物の上に
乗せられたんだ。

生き物は歩いているんだろう、上下に揺れている。

目の前まで近づいてたクモも、おどろいた表情をしていた。

“ザザザン!”

うわぁ! こんどは上から、なにかが激しく降りてきた!

茶色い毛むくじゃらの足のようだ!

うわぁ、強い衝撃だ!

毛むくじゃらの上から落ちる!

目の前に、地面が近づいてくる。

このままでは、地面に叩きつけられる!

“ブ、ブーン、ブ、ン”

あ、毛むくじゃらの衝撃で、
ベトベトのヒモが切れたみたいだ。

羽が動く!

飛べる!

“ブブブブーン”

よし、いいぞ。

“ブーン、ブーン”

オレは、空中にいる!

下を見れば、地面すれすれ、危ないところだった。

クモの奴は地面に落っこちて、よたよたと歩き回ってる。

ふーぅ、助かった。

もう少しで、クモなんかにやられるところだった。

毛むくじゃらに、助けられたな。

いったい、毛むくじゃらの正体は誰だ!

ん?

なにかが走って遠ざかって行くぞ。

アレは……ライオンか?

毛むくじゃらの正体はライオン?

なんで逃げて行くんだ?

“ブーン、ブーン”

あ、この羽の音のせいか。

お礼をしたいが、逃げて行くならしょうがない。

心の中で感謝するよ。

もう、バカになんかしない。

世界最強生物のオレを助けてくれた、あんたこそ、
世界一の生き物だ。

クモなんて目じゃないね、あのベトベトのヒモさえなければ、
あんな奴……、

これからは、クモの巣に引っかからないように
注意して生きて行こう。

そうすれば、オレだってまだ、
世界で二番目に強い生き物だからな!


おしまい。


今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 カとライオン 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/aesop/06/07.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


☆ちょこっとHappy♪☆


勘違いしちゃうこと、ってありますよね。

勘違いしている人って、陰で笑われたり、
煙たがれたり、嫌われてしまいがちです。

全ての前提条件が勘違いから始まっていますから、
変なことを言ったり、変な行動をとってしまったりすることが、
多いからです。

今回のお話のハチのように、勘違いが災難を招くこともあります。

なるべく、勘違いしないで生きて行きたいものです。

でも、です。

残念ながら、勘違いしないで生きて行くなんてできません。

人間の脳は、超高性能なので、基本的に自分に都合のいいように、
判断したり、記憶してしまいます。

なので、勘違いが山のように膨らんでいきます。

童話でHappy♪ には『 私が好きな歌 』というお話があります。

この主人公は、自分は歌が上手いと勘違いしていましたが、
そうではないことを気づかされます。

人は、まず自分で判断します。
自分は歌がうまいとか、イケメンだとか、可愛らしいとか。

それが勘違いか、勘違いじゃないのかは、
往々にして、社会が判断してくれます。

社会なんて、勝手な価値観でできています。

勝手な判断基準で、勘違いか、勘違いじゃないか判断されます。

しかも、人1人が接する社会なんて、社会全体の、
ほんのわずかな範囲だけです。

そんな判断に、アナタはどう反応しますか?

大切なことは「勘違いだと気づいたときに、自分はどうするか」
ということです。

勘違いを指摘されて、笑って「そうか!」と受け入れられると、
人間として成長することができるかもしれません。

逆に、「なるほど、人はそう思うのか」と受け入れて、
それでも、勘違いを通す、ということもできます。

その場合、頑固者として笑われる人生を送ることに
なるかもしれません。

はたまた、勘違いを押し通して、誰も到達できなかったことを
発見して成功者になれるかもしれません。

勘違いに気づいたときに、自分はどうしたいのかを、
考えることが大切です。

一番、やってはいけないことは、落ち込むことです。

誰でも、人間は勘違いします。
絶対にします。

落ち込むのではなく、どう活かすかを考えてみましょう。


今日のHappy♪ポイント

『 勘違いを飛躍に変えちゃおう! 』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2018年8月12日日曜日

いつも見守ってくれる人[前編]

妹が死んだ。

かけがえのない妹だった。

明るくて、とても優しい妹だった。

やんちゃをやり過ぎて、近所はおろか、
両親や親戚からも煙たがられていたオレを、
ただ一人、かばってくれる妹だった。

突然すぎて、まだ受け入れられない。

でも、もう、妹はいない。

この一週間くらいずっと泣き続けた。

オレには冷たい視線を送る、両親も親戚も、
妹のために、みんな泣いていてた。

みんな、もう一生分の涙を流したと思えるほど、
泣いた。

それほど、妹の死は突然すぎて衝撃だった。

オレは、悲しみから抜けきれない両親を実家に置き去りにし、
逃げるように、1人暮らししているアパートの部屋に
帰ってきた。

悲しさから抜けきれないのは、オレだって同じだ。

抜けれる訳がない、妹は、この世でオレが唯一、
信頼できる人間だった。

そんな妹に、もう、会えないのだから……。

オレは、ソファーの上に倒れるように仰向けに寝そべり、
目を閉じた。

もう一度だけでいい、会いたかった。

会って言いたいことがあった。

「お兄ちゃん」

こうしていても、いるはずのない妹の声が聞こえてくる。

「お兄ちゃん」

まるで、妹が、すぐ近くにいるようだ。

「お兄ちゃん、ってば」

いや、リアルすぎないか?

「もしもし~、お兄さーん、起きてくださ~ぁい」

オレは目を開いた。

そして開いた目を、さらに大きくした。

そこには、ニコッ、と効果音が出そうな笑顔をした、
妹の顔があった。

「うわぁっ!」

驚いて、思わず飛び上ってしまった。

「もう、妹を見て、そんなに驚かないでよ」

と、口を尖らせる妹の仕草は、まぎれもなく
妹そのものだった。

「おまえ、なんで、ここに?」

そう尋ねると、

「お兄ちゃんが、あたしに会いたいって念じてたから、
 会いに来ちゃった」

「会いに来ちゃった、って、そんなに簡単に?」

「うん、実はね、あの世もお盆休みなんだって」

「お盆休み?」

「そう」と頷く妹を見て、確かに世間は今日からお盆休み
だということに気づいた。

オレは先週から休んでいたけど、今日からはお盆休みで、
仕事に行かなくてよかった。

ちょっとした長期休暇だ。

なるほど、死んだ人が一年に一度、この世に帰って来る
ということは、あの世は閑散としてる訳で、それこそ、
本当のお盆休みというところか。

と、みょうに納得してから妹に訪ねた。

「じゃぁ、おまえはお盆中だけいるのか?」

「それがさぁ、自分でも分かんないんだぁ、
 いつまでいられるのか、今すぐ帰るのか、
 明日いなくなっちゃうのか、まったく分かんない」

ヤレヤレ、といった仕草をする妹。

この感じ、本当に、これは妹だ。

妹が帰って来た!

オレは喜んで、妹に抱きつこうとした。

「お帰り!」

「ただいま!」

と、妹は答えてくれたが、オレは妹の体を突き抜けて、
バランスを崩して、前のめりに倒れ込んでしまった。

「大丈夫? お兄ちゃん」

大丈夫だ、と上半身を起こしながら、

「なんだ、おまえには触れられないんだな」

「そうみたいね」

と、軽い口調で他人事のように言うあたりが、
まさに妹だった。

それからオレはソファーに座り、妹と話をした。

妹は、座らなくてもぜんぜん平気! と言って、
ふわふわと浮かびながら、ずっと話をしていた。

いつ会えなくなるか分からないから、
できるだけ長く話をしていたかった。

子どものころの話、最近の出来事など、
たわいのない話から、お通夜や、お葬式の話などもした。

「自分のお葬式の話をされるのも、変な気分だね」

と、妹は笑った後で、

「でも、あたしなんかのために、
 そんなに泣いてくれる人がいたなんてね」

と、ちょっとしんみりとした顔になった。

かなり長い時間話したところで、
オレはトイレに行こうと立ち上がった。

すると、妹がオレに着いて来ようとする。

「え、なに? トイレに行くんだけど」

「え、知らなーい、あたし、ひとりでに動いてた」

オレはそのままトイレに向かうと、妹もついて来た。

「え!」

「えっ!」

結局、トイレの扉を閉めても、ドアをすり抜けて
妹は中まで入って来てしまった。

「ごめん、あたしにもどうもできない」

と、妹が言うので、仕方なく、なるべく見えないように
体を傾けて、用を足した。

ソファーに戻っても、なんだか気まずい雰囲気になった。

妹も、ちょっと視線をそらしてふわふわと浮かんでいた。

それから、また話を始めると、前と変わらず盛り上がった。

気付くと、夜もだいぶ深まって来ていた。

明日も休みだけど、話疲れて眠くなってきた。

「おまえは、ベットで寝るか?」

「ううん、ここまま浮いてる、それに眠くないし」

「そっか、おまえが眠くないんじゃ、
 お兄ちゃんも寝ないでおこうかな」

と言うと、するとすかさず、

「ダメ!」

という妹の声が聞こえてきた。

「いつも言ってたでしょう! 規則正しい生活が
 大事って!」

そうだ、実家で妹と暮らしていたとき、
不規則な生活が多いオレは、いつもそう妹に言われていた。

「不規則な生活が、心の乱れになる、だろ」

「分ってるじゃない、ホラ早く寝る準備しなさい」

「ヘイヘイ」

オレは半分おどけてから、寝る準備を始めた。

洗面所で歯を磨いた。

トイレに行った。

そしてお風呂に入った。

その全てで、妹は、オレのそばでふわふわと浮いていた。

あえてなにも言わなかった。

死んだ妹がそこにいるだけで、良かったから。

「明日、起きたら、いなくなってたら怒るぞ」

「そんなの分かんないよ、でも、まぁ、
 明日の朝は、いるような感じがするよ」

と、妹らしい根拠のない自信を信じて、
その日は寝ることにした。

翌日、妹は変わらずそばに浮いていた。

ずっと、オレの寝顔を見ていたらしい。

その日もずっとしゃべり続けた。

次の日も、次の日も……。

そして1週間がたった。

妹は相変わらず、オレのそばでふわふわと浮いていた。

どこへ行くのも、妹はついて来た。

どうやらオレのそばから離れることはできないらしい。

今までは、オレもお盆休みだったから、ほとんど家の中で
生活することができたが、今日でお盆休みは終わり、
オレは仕事に行かなくてはならなかった。

オレは正直、生活の全てを妹に見られることに、
嫌気を感じていた。

自由に動くことができない、妹も同じ気分のようだ。

あれだけ話をしていたのに、
二人の間には、段々、会話もなくなっていた。


[後編]へつづく……

いつも見守ってくれる人[後編]

【前編はコチラから】


死んだ妹とこうして会っていられるのなんて、
奇跡だし。大切な時間だと思った。

でも、お互いに、だんだん窮屈さを
感じるようになっていた。

「なぁ」

そして僕は提案した。

「姿を消すことってできるの?」

「えっ」

妹は、一瞬、戸惑った表情で答えた。

最近、あまり話しかけていなかったから、
不意を突かれたという感じだ。

いくら仲が良くたって、ずっと一緒にいたら、
話すこともなくなってくる。

「やってみる」

と、妹は言うと、姿が見えなくなった。

オレはなぜか不安になり、すぐに妹の名前を呼んだ。

「あ、ここにいるよ」

という声と共に、妹が姿を現した。

「よかった」

オレは息を吐いてから、

「また会えなくなるんじゃないかと思って、あせった」

「ふふふふふ」

と、楽しそうに妹は笑った。

その日から、妹は、姿を消すことになった。

なにかあったら、お互いが呼びかけて、妹が姿を現す、
そんなルールがなんとなく決まっていった。

姿が見えないだけで、だいぶ気が楽になった。

でも、妹が見ていると思うと、行動が変わった。

今までなら、赤でも渡っていた信号を青になるまで待った。
電車を降りようとしたとき、飛び乗って来た奴に
激しく肩をぶつけられて、キレそうになったときも、
がまんした。

その度に、妹に声をかけ、

「オレ、今、我慢したぜ、すごいだろ!」

などと自慢していた。

妹も、姿を現して、効果音が入りそうな笑顔を
見せてくれていた。

最初のうちは頻繁に、お互い声をかけていた。

しかし、だんだんと声をかける日が少なくなって行った。

朝と夜に声をかけるだけになって……、
やがて、一週間もすると、ほとんど声をかけることが
無くなった。


「ねぇ、今度のお休み、映画のチケットがあるんだけど、
 一緒にいかない?」

お昼休み、コンビニで買ったおにぎりを口に
ほうばっていた時に、声をかけられた。

声をかけてきたのは、同期の女性だった。

入社した時から、オレはずっと彼女に憧れていた。

その彼女が、オレをデートに誘ってる?

オレは二つ返事で、デートの約束を受けた。

「最近、変わったよね」

そう彼女は言った。

「入社したてのころは、やさぐれてる感じだったけど、
 今は、すごく真面目になった感じがする」

最近、彼女とは、いい感じになっていたとは思っていた。

だけど、デートに誘うなんて、まだ勇気が持てなかった。

でも、向うから誘ってくれるなんて、
なんてラッキーなんだ!

喜びがあふれ出して、飛び上りたい気分だった。

でも、喜んでもいられなかった。

デートには、妹もついてくる。

困ることは無いけど、それで、本当にいいのだろうか?

オレは家に帰り、ご飯を食べ、落ち着いてから
久しぶりに妹に声をかけた。

「なぁ、昼間の話は、聞いてただろ?」

妹からの返事は無かった。

「ん? どうした、まさかやきもちを焼いてるんじゃ
 ないだろうなぁ」

部屋の中で、オレの声はどこにも吸収されず、
消されていった。

「おい、いるんだろ、返事をしろよ」

オレは、妹の名前を叫んだ。

でも、帰って来たのは、静寂を示す耳鳴りだけだった。

オレは立ち上がり、うろたえた。

「えっ、えっ」

そして何度も、妹の名前を呼んだ。

なんの応答もない。

オレは思い出した。

(自分でも分かんない)

妹はそう言っていた。

いつまでいられるか分からない、と言いながら、
ヤレヤレという仕草をしていた。

いつまでいられるか分からないってことは、
いついなくなるのか分からない、ってことだ。

オレはゴクリと唾を飲み込んだ。

「もしかして、帰っちゃったのか……」

その声にも、静寂しか返ってこなかった。

「もう、会えないのか……」

やりきれない思いがした。

しかし、普通に考えれば、そりゃそうだ。

妹は死んだんだ。

会えるわけがない。

会えたことの方が、奇跡だ。

「たくっ、突然死んで、突然現れて、
 突然、いなくなって、
 ───お前ってやつは……」

ずっと、そばにいるんだと思っていた。

嫌気がさしていたのも事実だ。

だからって……、

いつの間にか、いなくなっていたなんて……、
もう、会えないだなんて……。

オレは、呆然とここ何日かのことを考えていた。

妹が見てるから、オレは生活態度を変えた。

前より、規則正しくなったし、ずっと真面目になった。

(今は、すごく真面目になった感じがする)

突然、同僚の娘の声が頭に浮かんだ。

ずっと憧れていた同期の娘からデートに誘われた。

あっ───。

「なんだ、おまえのおかげか…」

涙が流れた。

頬を通って、スー、っと落ちていくのが分かった。

でも、オレは笑った。

無理やり、ニヤリと効果音が出そうな笑顔を作って
笑った。

笑いながら、涙が止まらなかった。

一生分、泣いたと思っていたのに、
次から次へと、流れてくる。

どこにこんなに涙が隠れてたんだ。

涙はどんどん出てくる。

でも、これは妹を亡くした時の涙とは違う。

あの時とはぜんぜん違う涙だ。

オレは悲しくない。

これからの人生を力強く生きていける確信がある。

だって───

妹が、いつでも、すぐそばで見守ってくれている。

いつでも見守ってくれている妹を、
しっかりと肌で感じることが、今のオレにはできる。

だから、悲しくなんかない。

でも、涙は止まらなかった。

妹は、オレに会いに来てくれた。

悲しくて泣いていた俺が、未来へ向かって、
一歩を踏み出す力を与えるために、
きっと妹は現れてくれたのだろう。

だんだん、そんなことが思えるようになってきた。

そして、オレは思い出した。

妹に会えたら言いたいことがあったんだ。

そして、それは結局、言えずじまいになった。

でも、遅くはない。

改めて、オレはその言葉を声に出した。

「どんなときでも、オレの味方でいてくれて、
 ありがとう」

部屋の空気が、一瞬だけ、優しく流れたのを、
オレは肌で感じた。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 幽霊の泣き声 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kaidan/06/04.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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2018年8月4日土曜日

キツネと赤いワンピースの娘

むかしむかしの話です。

農業を営んでいる青年がいました。

青年は、収穫したばかりの農作物を、
街の市場に卸した後、家に帰ろうと
馬車を走らせていました。

馬車の荷台には、来るときはたくさんの
農作物が積まれていましたが、今はなにもなく
がらーん、としていました。

街の外れに川が流れていて、大きな橋が架かっていました。

青年が乗る馬車が橋を渡ると、道端で
赤いワンピースを着た娘が、手を上げてこちらを
見ていました。

青年は、知り合いだろうかと思い、
娘の前で馬車をとめました。

「どうなさいました?」

青年が訪ねると、娘は被っていた白くてつばの長い
帽子をとりながら、笑顔で言いました。

「よかった! 誰もとまってくれないから、
 困っていたの」

青年は、ドキリ、と心臓が高鳴りました。

娘は、知り合いでもなんでもなく、今まで見たことも
無いほど可愛らしい、魅力的な顔立ちをしていました。

顔から湯気が出そうなくらい赤くなっている
青年に構わず、娘は話を続けました。

「隣の村まで、乗せていってはくれないかしら」

青年は、ドキドキしながらも「あぁ、」とだけ
声を出しました。

「ありがとう、助かるわぁ」

と言って、娘はワンピースの裾を少し翻して、
なにも乗っていない荷台に乗りました。

「あなたは、あなたの行く道をそのまま進んでちょうだい、
 私は、目的地に近くになったら、降ろしてもらうわ」

「あぁ、分かった」

青年は手綱を叩いて、馬車を走らせました。

青年はずっとドキドキしていました。

後ろには、赤いワンピースを着た娘が乗っています。

しかも、胸が高鳴るほど、可愛らしい娘です。

後ろを振り向けば、姿を見ることはできますが、
女性を見ることに慣れていない青年には、
振り向くことすらできずにいました。

胸の高鳴りだけを感じ続け、馬車は進み、
青年は娘と一切会話もせずに、とうとう、
青年の家の近くまで来てしまいました。

それまで、まったく娘に話かけるどころか見ることも
できなかった青年でしたが、もう家についてしまうので、
仕方なく話しかけることにしました。

「あのぉ、そろそろ、私の家についてしまうのですが…」

青年は意を決して話しかけましたが、
かえってくる声はありませんでした。

おかしいな、と思い、青年は自然を装って
荷台に目を向けました。

「──えっ!」

青年は短く声を出すと同時に、手綱をひいて
馬車を止めました。

青年の目は、荷台にくぎ付けになりました。

荷台には、なにもありませんでした。

農作物から落ちた葉っぱだけ。

赤いワンピースを着た娘の姿形はどこにも
見当たりませんでした。

「いつの間に、いなくなったんだろう……」

青年はキツネにつままれた気分になりました。


青年はその夜、近所の仲間が集まる席で、
この不思議な話をしました。

「そりゃおめぇ、キツネに騙されたんだべぇ」

「キツネ?」

「そうだ、あの橋には、よくキツネが化けて出るから」

「えっ、そうなの?」

「そうだよ、だから誰かが立っていても、
 普通は誰も相手にしねぇんだべ」

他の仲間から「おまえはそんなことも知らないのか!」
と、笑われてしまいました。

「そうかぁ、キツネかぁ……」

と、青年はガッカリした口調で言ったあと、

「でも、可愛かったなぁ」

と口を滑らしてしまい、さらに大笑いされてしまいました。


それから数日後、青年は街からの帰り道、
例の橋を馬車で渡ろうとすると、赤いワンピースを着た
娘が立っていました。

この間と同じように、こちらに向かって手を
上げています。

青年は娘の前で馬車をとめました。

「やぁ、」

と青年が声をかけると娘は、

「よかった! 誰もとまってくれないから、
 困っていたの」

と、数日前と同じようなことを言いました。

(この娘、いや、このキツネは、オレのことなんて
 覚えていないのかも知れない)

と、思っている青年には構わず、娘はこう言いました。

「隣の村まで、乗せていってはくれないかしら」

青年が軽くうなずくと、

「ありがとう、助かるわぁ」

と言って、娘はワンピースの裾を少し翻して、
なにも乗っていない荷台に乗りました。

「あなたは、あなたの行く道をそのまま進んでちょうだい、
 私は、目的地に近くになったら、降ろしてもらうわ」

「あぁ、」

数日前と同じような会話をしてから、
青年は馬車を走らせました。

青年は馬車を少しだけ速く走らせました。
通る道も前回とは違います。

さらに今日は荷台に娘がいることを、
ちゃんと確認していました。

実は、仲間と話しているときに、今度キツネに会ったときは
仲間のところに連れて行って、みんなでいたずらキツネを、
とっちめることになっていたのです。

仲間のいるところまで、娘を届けなければなりません。

なので、青年は娘がいることをちゃんと確認しながら、
近道をして仲間のいるところへ向かって
馬車を走らせていたのでした。

「おや」

馬車を走らせる青年の行く手に、仲間の1人がいることに
気づきました。

(あれ、思っていたより、だいぶ早く着いたな)

青年は荷台を見て、娘が乗っていることを確認してから、
仲間に向かって手を上げました。

そして、仲間が集まっているところで、馬車をとめました。

馬車を降り、荷台に向かうと、娘がビックリした顔で、
こちらを見ていました。

(か、──可愛い……)

と、思った青年でしたが、

(キツネ、キツネ)

と、頭をぶるんぶるん激しく振りました。

女性相手では、ドキドキしてしまう青年でしたが、
相手がキツネなら、そんなことはありませんでした。

「コラ!キツネめ! なぜオレをだまそうとする」

と、声を上げて、娘の腕をしっかりと掴み、
馬車から引きずり降ろして、仲間の方へ連れて行こうと
しました。

しかし、仲間の方へ目をやると、仲間の姿は見えません。

青年はキョロキョロ辺りを見渡しましたが、
どこにも仲間はいませんでした。

それどころか、周りの景色のどこを見ても、
知っているところがありませんでした。

そして、自分がしっかり握っているのが、
娘の腕ではなく、木の棒であることに気づきました。

「なっ、なっ」

青年は握っていた棒を、振り払うように投げると、
頭を抱えながら馬車に飛びのり、一目散に
その場を離れました。


その話を仲間にすると、

「なんだ、またキツネにだまされたか」

「おまえ、だいぶキツネに好かれたんだなぁ」

と、大笑いされてしまいました。

大笑いされて、恥ずかしい思いをした青年でしたが、
心の中では、

(それにしても、あの娘は可愛いなぁ……)

と、思っていました。

明らかに、好いているのは青年の方でした。


そして数日後。

青年が例の橋を渡ると、また、そこに
赤いワンピースを着た娘が立っていました。

ところが、今日は手を上げてはいませんでした。

白い帽子で顔が隠れていましたが、あれは確かに
赤いワンピースの娘でした。

青年は

(あれはキツネだ、あれはキツネだ)

と、心の中でとなえながらも、ついつい馬車を
娘の前で止めてしまうのでした。

「いあぁ、また会ったね」

青年は声をかけました。

すると、赤いワンピースの娘は、白い帽子のつば越しに
青年に目を向けました。

その目があまりにも鋭かったので、青年は、違う意味で
ドキッ、としました。

娘は、鋭い目を青年に向けながら静かに言いました。

「もう、こないだは私を落として、馬車を走らせて
 行っちゃうんですもん、困りました」

「──え?」

青年は、まぬけな声を出してしまいました。

「えっと、──えっと」

と、慌てている青年に、娘はそっぽを向いて言いました。

「この間、馬車に乗せて下さったことには感謝しています。
 でも、もう落とされるのは、こりごりなので、
 あなたの馬車には乗りません」

青年は慌てて言いました。

「ごめん、ごめんよ、キミが途中で落ちただなんて
 知らなかったんだよ。
 悪かった、今度はちゃんと送るから」

と、青年がお願いすると、娘は青年の顔を、
ジーッと見つめ返してきました。

キレイな目でジーッと見つめられると、
青年の心臓はドキドキドキ張り裂けそうです。

やがて、ジーッと見ていた娘は、

「じゃぁ、もう一回、今度はちゃんと送り届けてください」

と、ニコッ、とした笑顔になって、

「だって、こうして待っていても、
 誰もとまってくれないんですもの」

そう言いながら、青年の隣に座りました。

「今日は、落ちた時に気づいてもらえるように、
 ここに座ります」

娘の腕が、青年の腕に軽く触れました。

青年の心臓は、もう、はち切れんばかりです。

そして、青年は、娘のワンピ―スに負けないくらいの、
真っ赤な顔をしながら、馬車を走らせました。

そして思いました。

(もう、キツネでもなんでもいいや)

青年は、隣に娘の温もりを感じ、心臓が口から
飛んでいきそうなくらいドキドキでしたが、
そんな心臓に負けないほどの、幸せを感じていました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 少女ギツネ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/06/04a.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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