※童話の更新は週1回(だいたい土曜日の夜)です(^0^)/

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2018年8月19日日曜日

ハチこそ最強の生物だ!

オレはハチだ!

体は小さいが、世界最強の生き物だと思っている。

なぜなら、このなんでも突き刺す針を持ってるからさっ。

この針で刺せば誰もが痛がって逃げて行く。

そう、例えば、あそこにいるライオン。

百獣の王だなんて威張ってやがるが、
オレの相手にもなりゃしない。

試しに近づいてみようか。

“ブーン、ブーン”

ほーら見たことか、オレの羽の音を聞いただけ、
血相変えて逃げて行ったぜ。

羽の音だけでライオンを追っ払う生き物が、
オレの他にいるかい?

お、ちょうどいい。
あそこに居眠りしているライオンがいるぞ。

“ブーン、ブーン”

羽を鳴らして近づいて行っても起きもしない。

間抜けな顔をして寝てるぞ。

よし、鼻を刺してやる。

エイ!

「ギャオー!!!」

ホラ見ろ! 飛び起きて鼻を押えて逃げて行ったぞ。

ライオンがあんな姿で逃げて行く生き物なんで、
オレたちハチくらいなもんだろ!

百獣の王も逃げ出す、オレたちハチは、
世界一強い生き物さ。

さっ、ライオンをからかうことにもあきたから、
家にでも帰るか。

“ブーン、ブーン”

うわぁ、なんだコレ!

飛んでいたら、なにかにぶつかったぞ!

ベトベトしていて、自由に動けない。

なんなんだ、このベトベトしたヒモみたいなものは!

体にまとわりついて、離れやしない。

まったく、こんなもんこんなところに張っとくなよ。

羽を動かしても飛べないし、はずそうとすると、
どんどん体にへばりついてくる。

なんだ、このヒモは!

ん!

オレの動き以外の振動が伝わってきた気がする。

───間違いない、オレの動きとは別の動きがする。

なんだ、なにかが近づいてくる感じがする。

───あ、あれは!

クモか!

そうか、これはクモの巣か!

オレとしたことが、クモの巣にひっかかるなんて、
なんたる不覚だ!

クモのやつら、巣にひっかかった生き物を
なんでも食べやがる。

いつもはクモの巣を注意して飛んでるから、
ひっかかりやしないのに、今日は油断してたぜ。

クモなんて、針で刺せば、簡単にやっつけられるのに、
こんなベタベタしたヒモが巻き付いてたんじゃ、
うまく針を刺せないよ…。

うわ、クモが近づいてきた。

くるな、あっちへ行きけ!

あーもーっ、このベトベトしたヒモ、頭にくる!

体勢を整えさえできれば、針であいつを刺して
追っ払うことができるのに。

まったく、こうもベトベトじゃ、なにもできやしない。

クモめ! 近づいてくるな!

オレは最強生物、ハチだ! 

オレの羽ばたく音を聞いただけで、
ライオンも逃げ出すほどの最強の生き物だ!

それなのに、クモなんかにやられてたまるか!

おまえなんか、針で一刺しでやっつけられるのにぃ。

くそー! それ以上近寄るな! あっちへ行け!!!

死にたくない、死にたくない!!

うあぁ!!!!!

“ザサザサザサ!”

なっ、なんだ!

うわわわわわぁ、なにかが体に当たったぞ!

この衝撃は、クモなんかじゃない。
だってクモは、オレの目の前にいる。

体全体に当たった感触がある。

もっと大きいなにかが、クモの巣にぶつかってきたんだ。

ん!

目の前は茶色い草原のようだ。

イヤ、違う、生き物の毛だ!

当たった拍子に、オレは茶色い毛むくじゃらの生き物の上に
乗せられたんだ。

生き物は歩いているんだろう、上下に揺れている。

目の前まで近づいてたクモも、おどろいた表情をしていた。

“ザザザン!”

うわぁ! こんどは上から、なにかが激しく降りてきた!

茶色い毛むくじゃらの足のようだ!

うわぁ、強い衝撃だ!

毛むくじゃらの上から落ちる!

目の前に、地面が近づいてくる。

このままでは、地面に叩きつけられる!

“ブ、ブーン、ブ、ン”

あ、毛むくじゃらの衝撃で、
ベトベトのヒモが切れたみたいだ。

羽が動く!

飛べる!

“ブブブブーン”

よし、いいぞ。

“ブーン、ブーン”

オレは、空中にいる!

下を見れば、地面すれすれ、危ないところだった。

クモの奴は地面に落っこちて、よたよたと歩き回ってる。

ふーぅ、助かった。

もう少しで、クモなんかにやられるところだった。

毛むくじゃらに、助けられたな。

いったい、毛むくじゃらの正体は誰だ!

ん?

なにかが走って遠ざかって行くぞ。

アレは……ライオンか?

毛むくじゃらの正体はライオン?

なんで逃げて行くんだ?

“ブーン、ブーン”

あ、この羽の音のせいか。

お礼をしたいが、逃げて行くならしょうがない。

心の中で感謝するよ。

もう、バカになんかしない。

世界最強生物のオレを助けてくれた、あんたこそ、
世界一の生き物だ。

クモなんて目じゃないね、あのベトベトのヒモさえなければ、
あんな奴……、

これからは、クモの巣に引っかからないように
注意して生きて行こう。

そうすれば、オレだってまだ、
世界で二番目に強い生き物だからな!


おしまい。


今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 カとライオン 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/aesop/06/07.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


☆ちょこっとHappy♪☆


勘違いしちゃうこと、ってありますよね。

勘違いしている人って、陰で笑われたり、
煙たがれたり、嫌われてしまいがちです。

全ての前提条件が勘違いから始まっていますから、
変なことを言ったり、変な行動をとってしまったりすることが、
多いからです。

今回のお話のハチのように、勘違いが災難を招くこともあります。

なるべく、勘違いしないで生きて行きたいものです。

でも、です。

残念ながら、勘違いしないで生きて行くなんてできません。

人間の脳は、超高性能なので、基本的に自分に都合のいいように、
判断したり、記憶してしまいます。

なので、勘違いが山のように膨らんでいきます。

童話でHappy♪ には『 私が好きな歌 』というお話があります。

この主人公は、自分は歌が上手いと勘違いしていましたが、
そうではないことを気づかされます。

人は、まず自分で判断します。
自分は歌がうまいとか、イケメンだとか、可愛らしいとか。

それが勘違いか、勘違いじゃないのかは、
往々にして、社会が判断してくれます。

社会なんて、勝手な価値観でできています。

勝手な判断基準で、勘違いか、勘違いじゃないか判断されます。

しかも、人1人が接する社会なんて、社会全体の、
ほんのわずかな範囲だけです。

そんな判断に、アナタはどう反応しますか?

大切なことは「勘違いだと気づいたときに、自分はどうするか」
ということです。

勘違いを指摘されて、笑って「そうか!」と受け入れられると、
人間として成長することができるかもしれません。

逆に、「なるほど、人はそう思うのか」と受け入れて、
それでも、勘違いを通す、ということもできます。

その場合、頑固者として笑われる人生を送ることに
なるかもしれません。

はたまた、勘違いを押し通して、誰も到達できなかったことを
発見して成功者になれるかもしれません。

勘違いに気づいたときに、自分はどうしたいのかを、
考えることが大切です。

一番、やってはいけないことは、落ち込むことです。

誰でも、人間は勘違いします。
絶対にします。

落ち込むのではなく、どう活かすかを考えてみましょう。


今日のHappy♪ポイント

『 勘違いを飛躍に変えちゃおう! 』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2018年8月12日日曜日

いつも見守ってくれる人[前編]

妹が死んだ。

かけがえのない妹だった。

明るくて、とても優しい妹だった。

やんちゃをやり過ぎて、近所はおろか、
両親や親戚からも煙たがられていたオレを、
ただ一人、かばってくれる妹だった。

突然すぎて、まだ受け入れられない。

でも、もう、妹はいない。

この一週間くらいずっと泣き続けた。

オレには冷たい視線を送る、両親も親戚も、
妹のために、みんな泣いていてた。

みんな、もう一生分の涙を流したと思えるほど、
泣いた。

それほど、妹の死は突然すぎて衝撃だった。

オレは、悲しみから抜けきれない両親を実家に置き去りにし、
逃げるように、1人暮らししているアパートの部屋に
帰ってきた。

悲しさから抜けきれないのは、オレだって同じだ。

抜けれる訳がない、妹は、この世でオレが唯一、
信頼できる人間だった。

そんな妹に、もう、会えないのだから……。

オレは、ソファーの上に倒れるように仰向けに寝そべり、
目を閉じた。

もう一度だけでいい、会いたかった。

会って言いたいことがあった。

「お兄ちゃん」

こうしていても、いるはずのない妹の声が聞こえてくる。

「お兄ちゃん」

まるで、妹が、すぐ近くにいるようだ。

「お兄ちゃん、ってば」

いや、リアルすぎないか?

「もしもし~、お兄さーん、起きてくださ~ぁい」

オレは目を開いた。

そして開いた目を、さらに大きくした。

そこには、ニコッ、と効果音が出そうな笑顔をした、
妹の顔があった。

「うわぁっ!」

驚いて、思わず飛び上ってしまった。

「もう、妹を見て、そんなに驚かないでよ」

と、口を尖らせる妹の仕草は、まぎれもなく
妹そのものだった。

「おまえ、なんで、ここに?」

そう尋ねると、

「お兄ちゃんが、あたしに会いたいって念じてたから、
 会いに来ちゃった」

「会いに来ちゃった、って、そんなに簡単に?」

「うん、実はね、あの世もお盆休みなんだって」

「お盆休み?」

「そう」と頷く妹を見て、確かに世間は今日からお盆休み
だということに気づいた。

オレは先週から休んでいたけど、今日からはお盆休みで、
仕事に行かなくてよかった。

ちょっとした長期休暇だ。

なるほど、死んだ人が一年に一度、この世に帰って来る
ということは、あの世は閑散としてる訳で、それこそ、
本当のお盆休みというところか。

と、みょうに納得してから妹に訪ねた。

「じゃぁ、おまえはお盆中だけいるのか?」

「それがさぁ、自分でも分かんないんだぁ、
 いつまでいられるのか、今すぐ帰るのか、
 明日いなくなっちゃうのか、まったく分かんない」

ヤレヤレ、といった仕草をする妹。

この感じ、本当に、これは妹だ。

妹が帰って来た!

オレは喜んで、妹に抱きつこうとした。

「お帰り!」

「ただいま!」

と、妹は答えてくれたが、オレは妹の体を突き抜けて、
バランスを崩して、前のめりに倒れ込んでしまった。

「大丈夫? お兄ちゃん」

大丈夫だ、と上半身を起こしながら、

「なんだ、おまえには触れられないんだな」

「そうみたいね」

と、軽い口調で他人事のように言うあたりが、
まさに妹だった。

それからオレはソファーに座り、妹と話をした。

妹は、座らなくてもぜんぜん平気! と言って、
ふわふわと浮かびながら、ずっと話をしていた。

いつ会えなくなるか分からないから、
できるだけ長く話をしていたかった。

子どものころの話、最近の出来事など、
たわいのない話から、お通夜や、お葬式の話などもした。

「自分のお葬式の話をされるのも、変な気分だね」

と、妹は笑った後で、

「でも、あたしなんかのために、
 そんなに泣いてくれる人がいたなんてね」

と、ちょっとしんみりとした顔になった。

かなり長い時間話したところで、
オレはトイレに行こうと立ち上がった。

すると、妹がオレに着いて来ようとする。

「え、なに? トイレに行くんだけど」

「え、知らなーい、あたし、ひとりでに動いてた」

オレはそのままトイレに向かうと、妹もついて来た。

「え!」

「えっ!」

結局、トイレの扉を閉めても、ドアをすり抜けて
妹は中まで入って来てしまった。

「ごめん、あたしにもどうもできない」

と、妹が言うので、仕方なく、なるべく見えないように
体を傾けて、用を足した。

ソファーに戻っても、なんだか気まずい雰囲気になった。

妹も、ちょっと視線をそらしてふわふわと浮かんでいた。

それから、また話を始めると、前と変わらず盛り上がった。

気付くと、夜もだいぶ深まって来ていた。

明日も休みだけど、話疲れて眠くなってきた。

「おまえは、ベットで寝るか?」

「ううん、ここまま浮いてる、それに眠くないし」

「そっか、おまえが眠くないんじゃ、
 お兄ちゃんも寝ないでおこうかな」

と言うと、するとすかさず、

「ダメ!」

という妹の声が聞こえてきた。

「いつも言ってたでしょう! 規則正しい生活が
 大事って!」

そうだ、実家で妹と暮らしていたとき、
不規則な生活が多いオレは、いつもそう妹に言われていた。

「不規則な生活が、心の乱れになる、だろ」

「分ってるじゃない、ホラ早く寝る準備しなさい」

「ヘイヘイ」

オレは半分おどけてから、寝る準備を始めた。

洗面所で歯を磨いた。

トイレに行った。

そしてお風呂に入った。

その全てで、妹は、オレのそばでふわふわと浮いていた。

あえてなにも言わなかった。

死んだ妹がそこにいるだけで、良かったから。

「明日、起きたら、いなくなってたら怒るぞ」

「そんなの分かんないよ、でも、まぁ、
 明日の朝は、いるような感じがするよ」

と、妹らしい根拠のない自信を信じて、
その日は寝ることにした。

翌日、妹は変わらずそばに浮いていた。

ずっと、オレの寝顔を見ていたらしい。

その日もずっとしゃべり続けた。

次の日も、次の日も……。

そして1週間がたった。

妹は相変わらず、オレのそばでふわふわと浮いていた。

どこへ行くのも、妹はついて来た。

どうやらオレのそばから離れることはできないらしい。

今までは、オレもお盆休みだったから、ほとんど家の中で
生活することができたが、今日でお盆休みは終わり、
オレは仕事に行かなくてはならなかった。

オレは正直、生活の全てを妹に見られることに、
嫌気を感じていた。

自由に動くことができない、妹も同じ気分のようだ。

あれだけ話をしていたのに、
二人の間には、段々、会話もなくなっていた。


[後編]へつづく……

いつも見守ってくれる人[後編]

【前編はコチラから】


死んだ妹とこうして会っていられるのなんて、
奇跡だし。大切な時間だと思った。

でも、お互いに、だんだん窮屈さを
感じるようになっていた。

「なぁ」

そして僕は提案した。

「姿を消すことってできるの?」

「えっ」

妹は、一瞬、戸惑った表情で答えた。

最近、あまり話しかけていなかったから、
不意を突かれたという感じだ。

いくら仲が良くたって、ずっと一緒にいたら、
話すこともなくなってくる。

「やってみる」

と、妹は言うと、姿が見えなくなった。

オレはなぜか不安になり、すぐに妹の名前を呼んだ。

「あ、ここにいるよ」

という声と共に、妹が姿を現した。

「よかった」

オレは息を吐いてから、

「また会えなくなるんじゃないかと思って、あせった」

「ふふふふふ」

と、楽しそうに妹は笑った。

その日から、妹は、姿を消すことになった。

なにかあったら、お互いが呼びかけて、妹が姿を現す、
そんなルールがなんとなく決まっていった。

姿が見えないだけで、だいぶ気が楽になった。

でも、妹が見ていると思うと、行動が変わった。

今までなら、赤でも渡っていた信号を青になるまで待った。
電車を降りようとしたとき、飛び乗って来た奴に
激しく肩をぶつけられて、キレそうになったときも、
がまんした。

その度に、妹に声をかけ、

「オレ、今、我慢したぜ、すごいだろ!」

などと自慢していた。

妹も、姿を現して、効果音が入りそうな笑顔を
見せてくれていた。

最初のうちは頻繁に、お互い声をかけていた。

しかし、だんだんと声をかける日が少なくなって行った。

朝と夜に声をかけるだけになって……、
やがて、一週間もすると、ほとんど声をかけることが
無くなった。


「ねぇ、今度のお休み、映画のチケットがあるんだけど、
 一緒にいかない?」

お昼休み、コンビニで買ったおにぎりを口に
ほうばっていた時に、声をかけられた。

声をかけてきたのは、同期の女性だった。

入社した時から、オレはずっと彼女に憧れていた。

その彼女が、オレをデートに誘ってる?

オレは二つ返事で、デートの約束を受けた。

「最近、変わったよね」

そう彼女は言った。

「入社したてのころは、やさぐれてる感じだったけど、
 今は、すごく真面目になった感じがする」

最近、彼女とは、いい感じになっていたとは思っていた。

だけど、デートに誘うなんて、まだ勇気が持てなかった。

でも、向うから誘ってくれるなんて、
なんてラッキーなんだ!

喜びがあふれ出して、飛び上りたい気分だった。

でも、喜んでもいられなかった。

デートには、妹もついてくる。

困ることは無いけど、それで、本当にいいのだろうか?

オレは家に帰り、ご飯を食べ、落ち着いてから
久しぶりに妹に声をかけた。

「なぁ、昼間の話は、聞いてただろ?」

妹からの返事は無かった。

「ん? どうした、まさかやきもちを焼いてるんじゃ
 ないだろうなぁ」

部屋の中で、オレの声はどこにも吸収されず、
消されていった。

「おい、いるんだろ、返事をしろよ」

オレは、妹の名前を叫んだ。

でも、帰って来たのは、静寂を示す耳鳴りだけだった。

オレは立ち上がり、うろたえた。

「えっ、えっ」

そして何度も、妹の名前を呼んだ。

なんの応答もない。

オレは思い出した。

(自分でも分かんない)

妹はそう言っていた。

いつまでいられるか分からない、と言いながら、
ヤレヤレという仕草をしていた。

いつまでいられるか分からないってことは、
いついなくなるのか分からない、ってことだ。

オレはゴクリと唾を飲み込んだ。

「もしかして、帰っちゃったのか……」

その声にも、静寂しか返ってこなかった。

「もう、会えないのか……」

やりきれない思いがした。

しかし、普通に考えれば、そりゃそうだ。

妹は死んだんだ。

会えるわけがない。

会えたことの方が、奇跡だ。

「たくっ、突然死んで、突然現れて、
 突然、いなくなって、
 ───お前ってやつは……」

ずっと、そばにいるんだと思っていた。

嫌気がさしていたのも事実だ。

だからって……、

いつの間にか、いなくなっていたなんて……、
もう、会えないだなんて……。

オレは、呆然とここ何日かのことを考えていた。

妹が見てるから、オレは生活態度を変えた。

前より、規則正しくなったし、ずっと真面目になった。

(今は、すごく真面目になった感じがする)

突然、同僚の娘の声が頭に浮かんだ。

ずっと憧れていた同期の娘からデートに誘われた。

あっ───。

「なんだ、おまえのおかげか…」

涙が流れた。

頬を通って、スー、っと落ちていくのが分かった。

でも、オレは笑った。

無理やり、ニヤリと効果音が出そうな笑顔を作って
笑った。

笑いながら、涙が止まらなかった。

一生分、泣いたと思っていたのに、
次から次へと、流れてくる。

どこにこんなに涙が隠れてたんだ。

涙はどんどん出てくる。

でも、これは妹を亡くした時の涙とは違う。

あの時とはぜんぜん違う涙だ。

オレは悲しくない。

これからの人生を力強く生きていける確信がある。

だって───

妹が、いつでも、すぐそばで見守ってくれている。

いつでも見守ってくれている妹を、
しっかりと肌で感じることが、今のオレにはできる。

だから、悲しくなんかない。

でも、涙は止まらなかった。

妹は、オレに会いに来てくれた。

悲しくて泣いていた俺が、未来へ向かって、
一歩を踏み出す力を与えるために、
きっと妹は現れてくれたのだろう。

だんだん、そんなことが思えるようになってきた。

そして、オレは思い出した。

妹に会えたら言いたいことがあったんだ。

そして、それは結局、言えずじまいになった。

でも、遅くはない。

改めて、オレはその言葉を声に出した。

「どんなときでも、オレの味方でいてくれて、
 ありがとう」

部屋の空気が、一瞬だけ、優しく流れたのを、
オレは肌で感じた。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 幽霊の泣き声 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kaidan/06/04.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/



2018年8月4日土曜日

キツネと赤いワンピースの娘

むかしむかしの話です。

農業を営んでいる青年がいました。

青年は、収穫したばかりの農作物を、
街の市場に卸した後、家に帰ろうと
馬車を走らせていました。

馬車の荷台には、来るときはたくさんの
農作物が積まれていましたが、今はなにもなく
がらーん、としていました。

街の外れに川が流れていて、大きな橋が架かっていました。

青年が乗る馬車が橋を渡ると、道端で
赤いワンピースを着た娘が、手を上げてこちらを
見ていました。

青年は、知り合いだろうかと思い、
娘の前で馬車をとめました。

「どうなさいました?」

青年が訪ねると、娘は被っていた白くてつばの長い
帽子をとりながら、笑顔で言いました。

「よかった! 誰もとまってくれないから、
 困っていたの」

青年は、ドキリ、と心臓が高鳴りました。

娘は、知り合いでもなんでもなく、今まで見たことも
無いほど可愛らしい、魅力的な顔立ちをしていました。

顔から湯気が出そうなくらい赤くなっている
青年に構わず、娘は話を続けました。

「隣の村まで、乗せていってはくれないかしら」

青年は、ドキドキしながらも「あぁ、」とだけ
声を出しました。

「ありがとう、助かるわぁ」

と言って、娘はワンピースの裾を少し翻して、
なにも乗っていない荷台に乗りました。

「あなたは、あなたの行く道をそのまま進んでちょうだい、
 私は、目的地に近くになったら、降ろしてもらうわ」

「あぁ、分かった」

青年は手綱を叩いて、馬車を走らせました。

青年はずっとドキドキしていました。

後ろには、赤いワンピースを着た娘が乗っています。

しかも、胸が高鳴るほど、可愛らしい娘です。

後ろを振り向けば、姿を見ることはできますが、
女性を見ることに慣れていない青年には、
振り向くことすらできずにいました。

胸の高鳴りだけを感じ続け、馬車は進み、
青年は娘と一切会話もせずに、とうとう、
青年の家の近くまで来てしまいました。

それまで、まったく娘に話かけるどころか見ることも
できなかった青年でしたが、もう家についてしまうので、
仕方なく話しかけることにしました。

「あのぉ、そろそろ、私の家についてしまうのですが…」

青年は意を決して話しかけましたが、
かえってくる声はありませんでした。

おかしいな、と思い、青年は自然を装って
荷台に目を向けました。

「──えっ!」

青年は短く声を出すと同時に、手綱をひいて
馬車を止めました。

青年の目は、荷台にくぎ付けになりました。

荷台には、なにもありませんでした。

農作物から落ちた葉っぱだけ。

赤いワンピースを着た娘の姿形はどこにも
見当たりませんでした。

「いつの間に、いなくなったんだろう……」

青年はキツネにつままれた気分になりました。


青年はその夜、近所の仲間が集まる席で、
この不思議な話をしました。

「そりゃおめぇ、キツネに騙されたんだべぇ」

「キツネ?」

「そうだ、あの橋には、よくキツネが化けて出るから」

「えっ、そうなの?」

「そうだよ、だから誰かが立っていても、
 普通は誰も相手にしねぇんだべ」

他の仲間から「おまえはそんなことも知らないのか!」
と、笑われてしまいました。

「そうかぁ、キツネかぁ……」

と、青年はガッカリした口調で言ったあと、

「でも、可愛かったなぁ」

と口を滑らしてしまい、さらに大笑いされてしまいました。


それから数日後、青年は街からの帰り道、
例の橋を馬車で渡ろうとすると、赤いワンピースを着た
娘が立っていました。

この間と同じように、こちらに向かって手を
上げています。

青年は娘の前で馬車をとめました。

「やぁ、」

と青年が声をかけると娘は、

「よかった! 誰もとまってくれないから、
 困っていたの」

と、数日前と同じようなことを言いました。

(この娘、いや、このキツネは、オレのことなんて
 覚えていないのかも知れない)

と、思っている青年には構わず、娘はこう言いました。

「隣の村まで、乗せていってはくれないかしら」

青年が軽くうなずくと、

「ありがとう、助かるわぁ」

と言って、娘はワンピースの裾を少し翻して、
なにも乗っていない荷台に乗りました。

「あなたは、あなたの行く道をそのまま進んでちょうだい、
 私は、目的地に近くになったら、降ろしてもらうわ」

「あぁ、」

数日前と同じような会話をしてから、
青年は馬車を走らせました。

青年は馬車を少しだけ速く走らせました。
通る道も前回とは違います。

さらに今日は荷台に娘がいることを、
ちゃんと確認していました。

実は、仲間と話しているときに、今度キツネに会ったときは
仲間のところに連れて行って、みんなでいたずらキツネを、
とっちめることになっていたのです。

仲間のいるところまで、娘を届けなければなりません。

なので、青年は娘がいることをちゃんと確認しながら、
近道をして仲間のいるところへ向かって
馬車を走らせていたのでした。

「おや」

馬車を走らせる青年の行く手に、仲間の1人がいることに
気づきました。

(あれ、思っていたより、だいぶ早く着いたな)

青年は荷台を見て、娘が乗っていることを確認してから、
仲間に向かって手を上げました。

そして、仲間が集まっているところで、馬車をとめました。

馬車を降り、荷台に向かうと、娘がビックリした顔で、
こちらを見ていました。

(か、──可愛い……)

と、思った青年でしたが、

(キツネ、キツネ)

と、頭をぶるんぶるん激しく振りました。

女性相手では、ドキドキしてしまう青年でしたが、
相手がキツネなら、そんなことはありませんでした。

「コラ!キツネめ! なぜオレをだまそうとする」

と、声を上げて、娘の腕をしっかりと掴み、
馬車から引きずり降ろして、仲間の方へ連れて行こうと
しました。

しかし、仲間の方へ目をやると、仲間の姿は見えません。

青年はキョロキョロ辺りを見渡しましたが、
どこにも仲間はいませんでした。

それどころか、周りの景色のどこを見ても、
知っているところがありませんでした。

そして、自分がしっかり握っているのが、
娘の腕ではなく、木の棒であることに気づきました。

「なっ、なっ」

青年は握っていた棒を、振り払うように投げると、
頭を抱えながら馬車に飛びのり、一目散に
その場を離れました。


その話を仲間にすると、

「なんだ、またキツネにだまされたか」

「おまえ、だいぶキツネに好かれたんだなぁ」

と、大笑いされてしまいました。

大笑いされて、恥ずかしい思いをした青年でしたが、
心の中では、

(それにしても、あの娘は可愛いなぁ……)

と、思っていました。

明らかに、好いているのは青年の方でした。


そして数日後。

青年が例の橋を渡ると、また、そこに
赤いワンピースを着た娘が立っていました。

ところが、今日は手を上げてはいませんでした。

白い帽子で顔が隠れていましたが、あれは確かに
赤いワンピースの娘でした。

青年は

(あれはキツネだ、あれはキツネだ)

と、心の中でとなえながらも、ついつい馬車を
娘の前で止めてしまうのでした。

「いあぁ、また会ったね」

青年は声をかけました。

すると、赤いワンピースの娘は、白い帽子のつば越しに
青年に目を向けました。

その目があまりにも鋭かったので、青年は、違う意味で
ドキッ、としました。

娘は、鋭い目を青年に向けながら静かに言いました。

「もう、こないだは私を落として、馬車を走らせて
 行っちゃうんですもん、困りました」

「──え?」

青年は、まぬけな声を出してしまいました。

「えっと、──えっと」

と、慌てている青年に、娘はそっぽを向いて言いました。

「この間、馬車に乗せて下さったことには感謝しています。
 でも、もう落とされるのは、こりごりなので、
 あなたの馬車には乗りません」

青年は慌てて言いました。

「ごめん、ごめんよ、キミが途中で落ちただなんて
 知らなかったんだよ。
 悪かった、今度はちゃんと送るから」

と、青年がお願いすると、娘は青年の顔を、
ジーッと見つめ返してきました。

キレイな目でジーッと見つめられると、
青年の心臓はドキドキドキ張り裂けそうです。

やがて、ジーッと見ていた娘は、

「じゃぁ、もう一回、今度はちゃんと送り届けてください」

と、ニコッ、とした笑顔になって、

「だって、こうして待っていても、
 誰もとまってくれないんですもの」

そう言いながら、青年の隣に座りました。

「今日は、落ちた時に気づいてもらえるように、
 ここに座ります」

娘の腕が、青年の腕に軽く触れました。

青年の心臓は、もう、はち切れんばかりです。

そして、青年は、娘のワンピ―スに負けないくらいの、
真っ赤な顔をしながら、馬車を走らせました。

そして思いました。

(もう、キツネでもなんでもいいや)

青年は、隣に娘の温もりを感じ、心臓が口から
飛んでいきそうなくらいドキドキでしたが、
そんな心臓に負けないほどの、幸せを感じていました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 少女ギツネ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/06/04a.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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