※童話の更新は週1回(だいたい土曜日の夜)です(^0^)/

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2018年6月17日日曜日

八五郎さんの小判[後編]

[前編]はコチラから


“ゴロゴロゴロー!!!!!”

遠くの方で雷鳴が聞こえます。

荒れ狂う波が八五郎さんの体を激しく揺さぶります。

(いや、オラは今、揺さぶれていないような。
 感じだけどなぁ)

(ん? なんだか、足だけが冷たいぞ!
 それに、なんだか顔が暖かい……)

「はてぇ……?」

そうつぶやきながら八五郎さんは目をさましました。

目を開けると一面の白色が目に飛び込んで来たそうです。

眩しくて、目を細めて見てみると、
どうやら砂浜に横たわっていることに気づきました。

「あの世かな?」

八五郎さんはそう感じたそうです。

少し首を上に上げると、そこには、雲一つない、
つき抜けるような真っ青な空が広がっていました。

「あの世は、天気がいいんだなぁ……」

と、八五郎さんは、しばらくそのままの姿勢で、
ぼんやりと空を眺めていました。

時々、足が水に濡れるのを感じたので、どうやら、
砂浜の波打ち際にいるのだなと気づいたそうです。

「うーん?」

ぼんやりしていた八五郎さんの頭が、
少しずつ動き出しました。

「もしかして、ここはあの世ではないのか……
 オラは、助かったのか……」

その時、八五郎さんの頭の中に衝撃が走りました。

「ハッ! 小判!」

八五郎さんは慌てて飛び起きようとしました。

しかし、体はすぐに砂浜に引き戻されて
うまく起き上がれません。

ケガでもされたのかと心配した人もいるかもしれませんが、
そうではありません。八五郎さんはお腹の辺りが、
やけに重たいことに気づきました。

見ると、そこにはきっちりと体に紐で巻き付けられた
ツボがありました。

八五郎さんは慌てて紐をほどこうとしました。

しかし、力いっぱい体にしばりつけたので、
紐は、なかなかほどけてくれません。

なんとか時間をかけて紐をほどいた八五郎さんは、
ツボの中を覗きこみました。

中にはお日様の光を反射して神々しく黄金色に光る
小判がありました。

八五郎さんが手を伸ばして小判を持つと、
小判はまったく濡れていませんでした。

八五郎さんが、おおいかぶさるように
ツボをしばりつけたので、ちょっぴり出ている
八五郎さんのお腹が、ぴったりツボにハマり、
水が中に入らなかったようです。

ツボの中の空気が、ぴったりはまった八五郎さんの
お腹のおかげで外にもれず、プカプカと浮きあがって、
しばられていた八五郎さんを、この海岸まで
つれて来てくれたのです。

八五郎さんは小判を握りしめ、奇跡的に生きていることと、
お金持ちになったことを、それはそれは喜びました。

しかし、喜んだのもつかの間でした。
辺りを見回した八五郎さんはすぐに不安な気持ちに
なったことでしょう。

「ここはどこ?」

八五郎さんには、見たこともない風景でした。

とりあえずツボを隠そうと、
海から少し遠い場所を掘り起こし、
砂が入らないようにその辺にあった平らな木などで、
蓋をして軽く砂をかけて、外から見えなくしました。

そして、辺りを探検しようと歩き出しました。


───それから、あっという間に、三日が経ちました。

八五郎さんは歩き回って、ここが島だと分かりました。

しかも殆どが岩に覆われていて、少しの草しか生えて
いない、本当になにもない島だったそうです。

八五郎さんはしばらく島を歩きましたが、とても狭い島で、
あっという間に、くまなく歩いてしまったそうです。

三日目になった時には、もう歩く気力も無くなって、
砂浜に埋めたツボの近くで、ボーっと
海を見つめるだけになっていました。

「あー、腹へったなぁー」

“グ、グ、グゥ~”

八五郎さんの言葉に「準備できてるよ!」と
言わんばかりにお腹がなりました。

八五郎さんに答えてくれるのはお腹くらいで、
食べることができる動植物は、
この島にはなにもありませんでした。

八五郎さんは三日間、なにも食べず、
なにも飲むこともできずにいました。

さぞ、辛かったことでしょう。

「ここには、こんなに小判があるのになぁ~」

八五郎さんは小判の入ったツボを恨めしそうに眺めなした。

「小判じゃ、腹はふくれやしない。
 あぁー、あの時、タイやヒラメを
 海に捨てないで、とっておくんだったなぁ」

八五郎さんの頭の中には、ずっと
タイやヒラメがおいしそうに焼き上がって
湯気を上げている状態が浮かんでいました。

おいしそうにほおばっている自分の姿を想像しては、
ヨダレをたらしていましたが、もう、たれるヨダレも
出てこないほど、体は弱っていました。

「ハーァ…」

と、大きくため息を吐いた八五郎さんは、
どてん、と砂浜に横たわりました。

そのまま、ボケー、っと、白い波を打ち付ける海を
眺めていると、遠くから船が近づいてきているような
光景が見えたそうです。

「また、船が見えるよー」

船が見えたと思って、助けを求めようとすると、
目の錯覚だったり、木の枝だったり、
そんなことを何度も経験したので、

「またかーぁ」

と、なにもしないで寝そべっていたそうです。

しかし、今回は何かが違います。

その船のようなものは、どんどん近づいてきて、
近づくにつれ、それは、どう見ても、
船にしか見えなかったのです。

八五郎さんは立ち上がり、船に向かって両手を上げて
大きく振りました。

船は呼び寄せられるように八五郎さんに近づいてきました。

この時の、八五郎さんの喜びようを想像すると、
私は涙が止まりません。

八五郎さんが船に近づくと、
船には三人の男が乗っていました。

「なにやってんだ、オメーは」

と、男が言うので、八五郎さんは、

「漂流していたんだ、どうかオラを船に乗せて、
 家に帰してくれ!」

と、必死にお願いしました。

「それはいいけどもよ、オレたちはこの島を拠点にして、
 漁をするからすぐには帰んねぇよ」

「そんなぁ、食料も無いしオラはすぐにでも帰りてぇんだ」

「んなこといわれてもなぁ、
 オレたちもただでかえるわけにはなぁ」

と、三人の男は顔を見合して頷きました。
確かに、漁に出て手ぶらで帰る訳にはいかないでしょう。
でも、大丈夫です。

「お金ならあります」

八五郎はツボを指さしました。

「あのツボに、たくさんの小判が入っています。
 あれをあげますから、すぐに陸に戻してください」

1人の男が船を降りて、ツボに向かって歩いていき、
ツボのなかを覗きこむと、驚いたような表情で、
船にいる仲間の方を向いて、大きく頷きました。

「よし、分かった、すぐに船に乗れ、
 送って行ってやる」

「助かった!」

こうして八五郎さんは小判を持っていたことによって、
無事、自分の住んでいたところへ帰ることができたのです。

船を降りるとき、手ぶらじゃ辛いだろうから、
と小判を三枚手渡されました。

その小判を見ながら八五郎さんは、

「大変な思いをして、これだけか」

と、肩を落としてガッカリしました。
とても無念だったことでしょう。

でも、その小判を持って、八五郎さんは、
うなぎ屋さんへ向かいました。

そして、小判を釣り上げたら食べようと思っていた
特上のうな重を注文しました。

三日ぶりに口にする食べ物、それが特上のうな重です。

それは、それは、今まで口にしたことが無い、
あの世の食べ物を思わせるほどの美味しいものだった
ことでしょう。

八五郎さんは、人目をはばからず、涙を流し、
一口一口、味を愛おしみながら、うな重を食べていました。

そして食べ終わり、満足して食後の休憩を味わっていると、
ふと、ある言葉が飛びこんで来ました。

「新しい読み物だよ! 読み物はいらんかーい」

読み物売りの声でした。

「読み物か……」

ぼんやりと八五郎さんが呟きました。

「今回の漂浪体験ほどの読み物があるのかねぇ……」

その八五郎さんの声は、隣にいた人の耳に届きました。

「ちょっと、いいですか?」

八五郎さんは、隣の人に声をかけられました。

返事をした八五郎さんに、声をかけた人は、

「その漂浪体験を詳しく聞きたいのですがぁ」

「はぁ……」

この八五郎さんの隣で、たまたまうな重(並)を
食べていて、声をかけた人物こそ、
今、これを書いている私でございます。

八五郎さんが体験した漂浪記を、私が幾重にも脚色して
書き上げた読み物は、とてもとても売れに売れました。

もちろん八五郎さんにも多額な大判小判が舞い込んで
来たことでしょう。

お金持ちになっても、いばらず、ひっそりと住んでいて、
毎日にこにこ笑顔で過ごしているそうです。

そうそう、このお話の切っ掛けになった正直じいさんに、
八五郎さんは律儀にお礼を言いにいったそうです。

話を聞いた正直じいさんは、
驚いて腰を抜かしてしまったそうです。

なぜそこまで驚いたのでしょう?
不思議ですね。


おしまい。




今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 お前じゃない 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kobanashi/05/29.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


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