※童話の更新は週1回(だいたい土曜日の夜)です(^0^)/

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2018年6月2日土曜日

私が好きな歌[後編]

【前編はコチラから】


セリーヌが歌わなくなって、
何日かたったある日のことです。

その日も普通に生活し、当然、家に帰って来ても
歌を歌うこともなく、夜もふけてきたので、
寝ようとベットに入ろうとした、その時です、

「こんばんは」

誰かに声をかけられたような気がしました。

空耳だろうと気にもとめず寝ようとすると、

「セリーヌさん、こんばんは」

(ん? 確かに聞こえる)

セリーヌは恐る恐る辺りを見回しました。

そして床に視線を落として“ギョッ!”としました。

そこには、一匹にネズミがコチラを見て立っていました。

セリーヌは動物が嫌いではありませんでした。

むしろ好きなほうです。

でも、急にネズミと目が合ったので驚いてしまいました。

「驚かせてしまってスミマセン」

ネズミはそう言いながら、軽く頭を下げました。

つられてセリーヌも頭を下げます。

「話かけないようにしていましたが、
 今日はどうしてもお願いしたいことがありまして、
 話しかけてしまいました」

「はぁ~、さようでございますか」

セリーヌは少し気の抜けた返事をしました。

ネズミは続けて言いました。

「セリーヌさん、どうして最近、
 歌ってくれないのですか?」

セリーヌは再び“ギョッ!”としました。

まさか、こんなところで歌の話題が出てくるなんて、
しかも、相手はネズミです。

ネズミは続けます。

「いつも楽しそうに歌っていたのに、
 最近、歌ってくださらないから、
 こうやって話しかけてしまいました」

そう言う、ネズミにセリーヌは
なんと言っていいのか迷いましたが、

「あのね、───あたし…、
 もう歌わないことにしちゃったの」

と言うと、

「なんだって!!!」

という声が、ネズミの後ろの方から聞えました。

ネズミの後ろにはカベがあります。

そのカベの隙間から、
ゾロゾロとネズミが出てきたので、
セリーヌは“ギョッ!ギョギョッ!!”としました。

ゾロゾロ出てきたネズミは口々に言いました。

「なんでですか!」

「やめちゃダメだ!」

「歌ってくれ!」

ネズミたちは必死にうったえてきました。

セリーヌは少し困りながら、

「いやぁ、そんなこと言われても~、
 あたしの歌、ホラ……、下手くそだから……」

「下手くそだって!! 冗談じゃない!!!」

と叫ぶネズミに、セリーヌはびっくりしていると、

「私はあなたの歌声に癒されました」

「俺はあんたの歌を聴かないと寝れない」

「あたしは、あなたの歌声にあこがれています」

ネズミたちは自分の思いを話しました。

「い、いや、───そう言われても…」

セリーヌが困っていると、
最初に声をかけてきたネズミが言いました。

「あなたの歌を聞いてると、楽しくなるのです」

他のネズミたちが「そうだ、そうだ」と頷きました。

ネズミは続けます。

「あなたは実に楽しそうに、気持ちよく歌っている、
 その姿が、私たちは好きでたまらないのです」

セリーヌは、なんだか背中の辺りが、
むずがゆくなってきて、なにも言えませんでした。

「私たちは、あなたの歌が大好きです。
 そして、あなたの歌声が必要なのです。
 これからも、私たちのために歌ってくれませんか?」

セリーヌは複雑な思いをしていました。

もう、歌わない、と決めていましたが、
それも、本当に自分がそう強く思っているのか、
と言われると、正直、自信がなかったのです。

相手はネズミです。

(でも、私の歌を必要としているのなら、
 歌っても、いいのかもしれない)

セリーヌはそう思いました。

「じゃぁ、もう今夜は遅いから、
 一曲だけ、歌わさせてもらうけど……イイ?」

「ありがとうございます!!」

ネズミたちから声援が上りました。

手を上げたり、飛び跳ねたり、
喜ぶネズミたちの姿を見てセリーヌは、
なんか変な感じがして、
おかしくなって、少し笑ってしましました。

そして、セリーヌが姿勢を正すと、
ネズミたちもおとなしくなり、姿勢を整えて、
ジーっと、つぶらな視線を送ってきました。

セリーヌは「フーゥ」っと息を吐くと、
静かに、歌い始めました。

しばらくぶりに、お腹から出てくる空気が、
喉を通り口から外に出て行きます。

その感覚がとても心地よく、懐かしく感じました。

カベに跳ね返って聞えてくる歌声に、
心が揺れ動きました。

ネズミたちは思い思いの表情で歌を聞いているようです。

歌が進むにつれ、ドンドン気持ちよくなっていきました。

セリーヌは歌いながら思いました。

(なにこれ、───楽しい!!)

そして気づきました。
自分が歌うことが大好きだということを。
歌っている自分が、大好きだということを───。

セリーヌの歌が終わると、
ネズミたちはお礼を言って帰っていきました。

1人、部屋に残されたセリーヌは、
ここ何日間か味わっていなかった、
爽快な気分になっていました。

(これで、イイ
 これが、あたしなんだ!)

そして思わず、
大声で叫びたい衝動に駆られました。

「あたしの歌、サイコー!!!!!」

(下手だってイイじゃない、あたしは歌が好きなんだ)

なぜか、涙がボロボロとこぼれてきました。

そしてセリーヌはベットに横になると、
灯りを消して、眠りました。

ネズミの姿を見たのは、その日だけでした。

しかし、その日からずっと、部屋の中に、
セリーヌの歌声が響かない日はありませんでした。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 歌手 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/aesop/05/26.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


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