≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪
「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年5月19日土曜日

客を取られた占い師

昔々の話です。

とある村に女性の占い師がいました。

占い師は白い頭巾をかぶり、
村人たちの悩みごとや不安なこと聴いては、
的確に助言をして解決していました。

未来のことが分かる!

と評判になり、うわさは隣の村にまで広がり、
今日も占って欲しいという人たちが集まって、
順番待ちの長い列を作っていました。

「大変だー!!」

その列の横を、血相を変えた1人の男の人が
走って来ました。

行列の先頭の人は迷惑そうな顔をしながら、

「ちゃんと並びなさいよ」

と言うと、走って来た男は慌てた素振りで、

「それどころじゃないんだよ!」

と、占い師に目をやり言いました。

「占い師さん! あんたの家が燃えてるよ!」

「なんですって!!」

占い師は驚いて立ち上がると、すぐに走り出しました。

慌てて走って行く占い師の後ろ姿を見ながら、
男はほくそ笑みました。

(フン、慌てやがって、いい気味だ!)

男は、隣の村の占い師です。

この村の占い師に客を取られて、悔しい思いをしていたので、
一泡ふかせてやろうと、隣の村からやって来たのです。

男は、占い師の後を追いました。

行列に並んでいた人たちも「大変だ!」と着いて来ます。

やがて、占い師は一軒の家の前で止まりました。

男は、ゼー、ゼー、ゼー、と肩で息をする占い師の
肩越しから家を見ました。

この辺ではごく普通の家で、
外からは火の手は確認できませんでした。

占い師は家の中に入っていきました。

男の周りには、占いの列に並んでいた人たちや
関係の無い村人たちが集まって来ていました。

大勢が見守る中、
占い師はすぐに家から出てきました。

何人かが占い師に近寄り、訪ねると、

「家は燃えていませんでした」

と、占い師は静かに答えました。

集まって来た人たちの多くは「よかった」と
胸をなで下ろしました。

そして、占い師が集まっている人たちに笑顔を向けて、
声をかけていた時、男は大声を張り上げました。

「さぁ、さぁ、ここに集まりの皆さま!
 私の声を聴いてください!」

占い師も含め、人々の目が男に向けられました。

男は両手を広げ、続けました。

「ここの家に住んでいるかたは、評判の占い師さまです!
 未来が分かると言われていますが、それは本当でしょうか!
 私は怪しいと思います!」

男は占い師の顔を見ました。

なにを言うの! という目で睨みつけています。

男は、集まっている人々に目を移し話を続けました。

「だってそうではないですか!
 自分の家が燃えているかどうか、
 慌てて確認しなければならないのですから!
 本当に未来が分かる占い師なら、
 家が燃える未来だって分かるはず!」

男は間を置いてから、

「みなさんは、だまされていませんか?
 このインチキ占い師に!」

と、占い師を指さしました。

男が言い終ったあと、誰もなにも言えずにいました。

ここに集まっている人々は、殆どが占い師を信じて
順番待ちの行列を作っていた人たちです。

その占い師を否定する発言を男がしたのです。

なんとも言えぬ雰囲気に包まれるのが当然です。

困惑している人々の中で、男だけが、
勝ち誇った顔で、占い師を見ていました。

占い師は、無言で男に視線を返しています。

男は思いました。

(フン、なにも言えまい。オマエはこれで終わりだ)

一泡ふかしてやろうという計画が成功した、
と思った男の唇は、ニヤッと不敵につり上がりました。

「それがどうしたのよ」

そんな声が、男の耳に入って来ました。

一瞬、占い師が言ったのかと思いましたが、違います。
その横で寄り添っている女性が声を出したようでした。

男がその女性を見ると、女性は鋭い目を向け、

「それがどうしたのよ!」

と、もう一度、力のこもった声で言ったので、
男は少したじろぎました。

女性は続けました。

「私は、何度も助けられました」

「へ?」

男は、女性の毅然とした声に圧倒され、
変な声をもらしました。

すかさず女性は静かに声を出しました。

「あなたが、なにを言おうと、どう思おうとも、
 私は占い師さんを信じます」

女性が言い終わり、しばらくすると、

「私も、助けてもらった」

「俺もだ!」

と、人々のあちらこちらから声が上がりました。

その声は、やがて強くなっていきます。

そして人々は男に向かって鋭い視線を送りながら、
口々に厳しい声を上げました。

そして、男を取り囲むように近づいて来ます。

男は後退りしましたが、後ろにも大勢の人がいます。

男は耐えきれず、その場で頭を抱えて、
うずくまってしまいました。

そんな男の肩に、静かに手が置かれました。

男は“ビック”っと少し肩を上げましたが、
頭を抱えていた手を静かに外し、顔を上げました。

目の前には占い師がいました。

そして、優しい口調で言いました。

「あなたは、隣村の占い師ですね」

男はビックリして目を丸くしました。

「私が、あなたのお客さんを取ってしまったと思って、
 このようなことをしてしまったのですね」

男は“ゴクリ”と唾を飲み込みました。

占い師は続けます。

「あなたの気持ちは分かります。
 でも、あなたは間違っています」

なにも言えずにいる男に構わず、占い師は、

「私があなたのお客さんを取ったのではありません」

と前置きをしてから、落ち着いた口調で続けました。

「あなたは占い師でありながら、
 『人を助けることができなかった』
 ───それだけのことです」

男は目を見開きました。

心の中を見透かされた、そんな思いにかられた男は、
全身が熱くなるのを感じました。

「あなたに必要なのは、人を思いやる心です」

そう言う占い師の声が、終わるか終わらないかの内に、
男は勢いよく立ち上がると、人々をかき分けて、
物凄い勢いで走って行きました。


男が去ったあと、すぐに占い師はもとの場所に戻り、
人々は、何事もなかったように、列を作りました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 占い師 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/aesop/05/16.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2018年5月12日土曜日

のんびり殿とせっかち家老

「殿、早くお支度を」

優秀な家老が殿を急かせています。

「まぁ、そうあせるな、ゆっくりいこう」

殿はのんびり出かける準備をしています。

「殿、早く出かけないと、
 我々の国の領土が狭くなってしまいますぞ!」

困った顔をしながら家老は訴えるように言いました。

「まぁ、そう急かすな、のんびりいこうや」

あくまでも急ごうとしない殿。

「隣の国の殿さまとお互いの城を出て、出合ったところを、
 両国の境界線にしよう、と、殿がおっしゃったんじゃないですか」

「そうだ、確かに私がそう言った」

「本日、日の出とともに城を出ると、
 隣の国の殿さまと約束したのですから、
 あちらはもうとっくに出発しておりますよ」

「そうだろうなぁ~」

「そうだろうなぁ~、じゃありませんよ、早く出た方が、
 長く歩るけるんだから、どんどん我が国に近づいてきて、
 山を登ってしまいますよ」

「そうか、それでは我が国の領土は狭くなってしまう、
 ということかぁ」

「もう、殿、いまさらオトボケなさらないでください!
 もうだいぶ日が高くなっていますよ」

「ホホホホホー」

と、殿は笑い声を上げながら、家老の肩に“ポン”と手を乗せて、

「説明、ご苦労!」

と、立ち上がりました。

そして家老と共に十数名の家来を引き連れて、
隣の国を目指し、城から出発しました。

隣の国へ繋がっている道は一本しかありません。

その途中に、大きな山があり、この山を境にして、
二つの国は分かれています。

しかし、どこまでがコチラの国で、どこからが隣の国なのか、
ちゃんとした線が今まで決まっていませんでした。

それなので、境目の山の辺りで、もめ事が多くなり、
このさい、国の境をしっかり決めようということになりました。

お互いの殿が出会った場所が、国の境になるということは、
長い距離を歩いた方が、国を広くすることができます。

それなので、家老は
「早く出かけましょう」と急かしていたのですが、
なぜか、殿はのんびりとしていました。

やっと城を出たかと思えば、花が咲いておる、と言って、
さつきの木に近寄ってしばらく見ていたり、
農作業をしている農民を見つけたら、声をかけ、
座り込んでお茶を飲みながら雑談をしたり、
まるでお散歩でも楽しんでいるような振る舞いです。

「殿、先をいそぎませんと」

あせる家老に、殿は、

「そんなにあせるな、のんびりいこうや」

と、笑顔でこたえ、一向に早く進もうとはしませんでした。

やがて、のんびりとお昼を食べ、その後も、ゆったりと歩き
だいぶ日も傾いたころ、少し広い川までやって来ました。

川は道をさえぎるように流れています。

「川を渡れば、すぐに山ですね」

と、家老は殿に言い、先に川を渡り始めました。

川には橋が架かっていません。

家老の腰の辺りまで水はやってきます。

殿も家老の後に続き川に入ると、家来たちが周りを取り囲んで、
水の流れから守ってくれました。

川を渡ると、一面、草原が広がっています。

先頭を歩いていた家老は立ち止まると、
ふり返り、殿に言いました。

「このまま行けば、日暮前には山頂までいけますね」

すると、殿は家老と目を合わさず、正面を向いたままの姿勢で、
軽く首を振り、呟くように声を出しました。

「どうやら、登らなくてもいいようだぞ」

「え?」

家老は一瞬、殿は不思議なことを言う、と思いましたが、

(もしや!)

と気付き、慌てて山の方に向き直りました。

すると、山から馬の大群がやって来るのが見えました。

馬の上には隣の国の殿さまが乗っていました。

「しまった! 馬に乗ってくる手があったか!」

家老は悔しそうに言いました。

隣の国の殿さまは、馬に乗りながら悠々と近づいてきます。

そして、殿を見つけると、馬から降りました。

「これはこれはお殿様、お会いできて光栄です」

隣の国の殿さまが頭を下げたので、コチラの殿も頭を下げ、

「こんなところでお会いできるとは、
 想像もしておりませんでした」

と、言いました。

隣の国の殿さまは、頭を上げると
満面な笑みを浮かべて言いました。

「ここでお会いしたということは、
 ここが国の境ということでよろしいですか?」

コチラの殿が、答えようとするのを家老が制して、
声を上げました。

「恐れながら申し上げます」

隣の国の殿さまは、軽く眉を上げ、
鋭い視線を家老におくりました。

家老は続けます。

「馬に乗って来られたとお見受けられるが、
 それはズルイのではないかと」

隣の国の殿さまは、ニヤリと口の端を上げ、

「馬に乗ってはイケヌと、決めはおらんかったろ、
 それとも、お主はわしが汚い手を使ったと、
 言いがかりをつけたいのか!」

と、不機嫌極まりない表情を浮かべました。

「なっ!」と慌てる家老に、

「まぁ、まぁ、」

と、コチラの殿が手を上げて割って入りました。

そして、深々と頭を下げてから言いました。

「国の境はそこで結構でございます」

その言葉を聞いて、隣の国の殿さまは笑顔で大きく頷き、

「では、これが国の境のしるしだ!」

と、言ったあと、家来たちに目配せをしました。

隣の国の家来たちは、道の真ん中に穴を掘り、
大きな杭(くい)を立てました。

「それでは、ご機嫌よう」

と、隣の国の殿さまは、馬に乗って帰っていきました。

その後ろ姿を見ながら、
家老は悔しそうに握ったこぶしを震わしていました。

殿は、そんな家老の肩に手を乗せて言いました。

「そんなに悔しがるな、国の境は決まった。
 それだけだ。
 今日は、とりあえず帰ろうじゃないか」

殿はそのまま振り返り、渡って来た川に向かいました。

家老は、ゆうゆうとした足取りで帰る
隣の国の殿さまの後ろ姿を、悔しい思いで見ていましたが、
やがて振り返り、殿について歩き出しました。


それから、しばらくたったある日のことです。

隣の国が攻めてくるとの情報が、
家老のもとに入りました。

すぐさま殿に報告すると、殿は“サッ”と立ち上がり、

「やはり来たか!」

と、叫ぶと、すぐに戦の準備に取り掛かりました。

今回の殿の動きは素早いものでした。

すぐに山のふもとに流れる川の手前で陣取り、
あっという間に陣形も整えました。

戦には詳しくない家老は、殿の素早い行動に驚きました。

しばらくして、隣の国の騎馬隊が山から降りてきました。

それを見るやいなや、殿は叫びました。

「矢を放て!!!」

こちらの国の軍隊から次々と矢が放たれ、
山から降りてくる隣の国の兵隊たちが次々と倒れていきました。

あまりにも矢の攻撃が激しかったからでしょう、
隣の国の兵隊たちは、山に引き返し、降りて来なくなりました。

殿はすぐに次の命令を出しました。

「火矢を放て!!!」

矢の先に火をつけて、山に向かって放ちました。

火の矢は、山の手前の草原に次々と刺さり、
山の麓は一面の火に包まれました。

隣の国の家来たちが打ち込んだ、
国の境界のしるしも燃えています。

この火では、山から降りてくるのは不可能でしょう。

いくら火が燃えても、川のこちらまで火の手がくることはありません。

山の中から隣の国の兵が放った矢が飛んできているようでしたが、
全て、川にすら届かず、草原の火の中に落ちていきました。

ここでの戦いは、一週間くらい続きましたが、
殿が作った陣形は中々強固で、とうとう、
隣の国から和議(戦いをやめよう)が提案され、
殿はすぐにそれをのみました。

戦が終わり、殿は家老に言いました。

「あの山は、くれてやったのさ」

殿は得意げな顔で続けます。

「あの地形なら、鉄壁な守りができる。
 なんなら、川だって、戦に使える。
 それにだ、相手は山を越えて来なくてはならない。
 それは、疲れるとは思わんか?」

「はぁ……」

と、気のない返事をする家老に、殿は続けて言いました。

「わしはなぁ、国を広くしたいなんて思わない。
 この国を守れれば、それでいいんだ」
 
家老は殿の考えを始めて知りました。
そして不満そうに言いました。

「それならそうと、仰ってくれればよろしかったのに」

すると殿は、

「だって、家老は戦に詳しくないから、
 話しても理解できんだろ
 それに……」

「それに?」

「家老をからかうと、楽しいからのぉ」

「な、な……」

言葉を失う家老を見て、殿は大笑いをしました。

楽しそうに笑う殿の姿を見て家老は、
殿につかえることができたことをとても嬉しく思いました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 馬坂(まさか)の行逢坂(ゆきあいざか) 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/minwa/05/15b.html



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2018年5月6日日曜日

ライオンの母とウシの母

お母さんライオンは、水飲み場でウシを見つけました。

(よし、一頭でいるわね)

ここ何日間か、ずっとエサを探し歩いて、
やっと見つけた獲物でした。

お母さんライオンは、静かにウシに忍び寄りました。

ウシは、まったく気づいていない様子です。

ゆっくり、ゆっくりと慎重に近づきました。

もう少しで、ウシに飛びかかれるところま近づきました。

その時です、突然、ウシがふり返りました。

お母さんライオンは、いきなりウシと目が合ってしまい、
びっくりして身動きが取れなくなってしまいました。

どうやらそれはウシも同じようで、
慌てた様子でこちらを見ています。

お母さんライオンは気を落ち着かせてから、
ウシに言いました。

「観念してください! 静かにしてれば痛くはしません!」

そう言われたウシは、少し後ずさりしましたが、
やがて観念して声を上げました。

「分りましたライオンさん。あなたはお腹を空かしている。
 私はどのみち死ぬのでしょう。どうせ死ぬなら、
 いさぎよくアナタのお腹の足しになりましょう」

「そうしてくださると、私も助かります」

お母さんライオンはそう言うと、ウシは続けて言いました。

「でも、ひとつだけお願いがあります。
 私にはお腹を空かしている子どもがいるのです。
 最後にその子どもにお乳を飲ませてやりたいのです」

「子どもが?」

お母さんライオンは、そう言ってから激しく頭を振って、

「ダメよ、そんなことを言って、逃げて戻って来ない気でしょう」

「必ず戻ります。
 このままでは私のお乳は無駄になってしまいます。
 最後のお別れに、子どもに飲ませてやりたいのです」

お母さんライオンは悩みました。

ウシの気持ちはとても良く分かります。
それだけに、このまま食べてしまうと、
自分自身に後悔が残る気がしました。

ライオンはしばらくの間、ウシの目を、
ジッと見つめました。

そして、

「分りました」

お母さんライオンがそう言うと、
ウシの顔が明るくなったのが分かりました。

「お乳をあげにいってらっしゃい、私はここで待ってます」

「ありがとう」

ウシは笑顔でそう言うと、走り去っていきました。

(ヤレヤレ)

お母さんライオンは、獲物を逃がした自分が
愚かなことをしたと感じ、ため息をつきました。

そこへ、

「母ちゃん、腹減った」

と、子どものライオンが近づいてきて言いました。

「なんで、逃がしちゃったんだよ!」

「ごめんよ、戻って来るって言ってたから、ついね」

「戻ってくる訳ないだろー、もう、腹減った!」

「もう、少しは待つことも覚えなきゃいけないよ!」

お母さんライオンは子どもに怖い顔を向けました。

シュン、となる子どもライオンを申し訳なさそうに眺めてから、
お母さんライオンは

(この子の言う通り、きっと戻って来ないだろうなぁ)

と思いながら、ウシが走り去っていた方を眺めました。


しばらくの間、お母さんライオンと子どもライオンは
ウシが帰って来るのを待ちました。

すると、遠くの方から、ウシが近づいてくる姿が見えました。

お母さんライオンはホッと胸をなで下ろしました。

しかし、よく見ると、ウシは一頭ではありませんでした。

先程のウシに寄り添うように子ウシが歩いています。

二頭は、お母さんライオンのそばで止まりました。

ウシの目が、一瞬、子どもライオンに向いたことを、
お母さんライオンは気付きました。

ウシは視線をお母さんライオンに戻し、話し始めました。

「約束通り、戻って来ました」

ライオンはすぐに聞きました。

「どうして、お子さんと一緒に?」

母ウシは申し訳なさそうな表情で話しました。

「実は、お乳をやりにいきましたら、
 この子が、どうしても私と離れたくない、と、
 ダダをこねまして……。言い聞かせたのですが、
 どうしても言うことを聞かないので連れてきました」

「そうですか」とライオンが言うと、母ウシは続けました。

「この子が言うのです。
 『腹ペコのライオンが、私たちを食べたら、
  しばらくは他の動物を食べないでしょう?
  私、お母さんと一緒に、他の動物の命を助ける!』と」

ライオンが何も言わずにいると、母ウシは続けました。

「あなたのお子さんもいるようですから、ちょうどいい、
 どうぞ、私たち親子を食べてください」

ライオンは母ウシと子ウシを交互に眺めました。

(どうしましょう)

と、困惑するライオンに、母ウシが言いました。

「さぁ、食べてください」
続けて子ウシも、「私も食べて」

その言葉を聞いて、ライオンは目を閉じ、
深く息を吐きました。

そして、ウシに目を向けて言いました。

「分かりました。私はもう、
 あなたたちを食べることはできません。
 他の動物に食べられないよう、お気をつけてお帰り下さい」

そう言うと、お母さんライオンはウシに背中を向け、
「さぁ、いくよ」と、子どもに言ってから歩き出しました。

子どものライオンは、少し二頭のウシを見てから
お母さんライオンに、ついて来ました。

そして、しばらく歩いた後で、
子どもライオンは訴えるように言いました。

「なんで、逃がしちゃうのさ! おいらお腹空いたよ!」

お母さんライオンは強い口調で言いました。

「黙って歩きなさい!」

子どもライオンは立ち止まり、

「もうやだ! おいら歩けない!」

と叫びました。

お母さんライオンは、

「わがままは、自分でエサをとれるようになってから
 言いなさい!!」

と強い口調で言いました。

お母さんライオンの勢いにたじろいだ子どもライオンは、

「そんなこと言ったって、お腹空いたもん」

と、寂しそうにうつむいてしまいました。

お母さんライオンは困った表情を浮かべてから、
視線をウシの方へ向けました。

寄り添いながら、来た道を帰っていく
ウシの親子の後ろ姿が見えました。

「確かに、私は甘いのかもしれないなぁ~」

と、呟いてから、我が子に向かって優しい声をかけました。

「今度こそは、美味しいもの食べさせてあげるから、
 許して」

子どもライオンはジッとお母さんライオンを見つめてから、
しぶしぶといった表情をしながらも、
立ち上がり、先に歩き出しました。

お母さんライオンは、少し息を吐いてから、

「よし!」

と声を上げて、小走りで子どもライオンに追いついて、
並んで歩きました。

「僕もがんばるよ!」

子どもライオンが正面を向いたままそう言ったので、
お母さんライオンは微笑みました。

「頼りにしてるわよ」

二頭のライオンは、再びエサを探して、
歩きはじめました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 メスウシとライオン 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/world/05/14.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/