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「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年4月1日日曜日

白い馬の琴の音色[後編]

[前編]はコチラから


村に戻った青年は、すっかり落ち込んでしまいました。

顔を洗っても、食事中でも、羊を散歩に連れて行っても、
モリンとの思い出が頭をよぎります。

落ち込む青年の姿を見て、母親も村長も、
そして村の多く人たちが心を痛めました。

なにをやっていても、まったく集中できず、
青年は、家に閉じこもることが多くなっていきました。

意気消沈していた青年は、ある夜、夢を見ました。

草原の向う側から、モリンが走って近づいて来る夢です。

青年はモリンの首の辺りに抱き付きました。

再開を喜んで泣いている青年の耳に、
声が聞こえてきました。

「私はもうすぐ、あなたのそばに現れます」

「え? もう、会っているじゃないか」

「いいえ、本当に会えるのです。私と出会ったら、
 私の体で、琴を作ってください」

「おまえの体で、琴?」

「はい、そして、ずっとそばに置いて弾いてください。
 それが私の願いです」

「えっ、願い……、モリン、どうしたんだい?」

モリンは急に踵を返しました。

そして、振り向きもせずに青年から遠ざかって行きます。

「モリン、どこへ行くんだい、モリン、モリン……」

青年は夢の中でモリンを追いかけながら、
ゆっくりと目を覚ましました。

目覚めるとき、モリンの名前を呼んでいた感覚がありました。

「あれは、夢?」

と、ぼんやり思っている時でした。

“コン、コン……、コンコン……”

なにかが家の戸を叩いているような音がしました。

青年は布団から出て、薄暗い部屋を歩き、
家の戸を開けました。

「───モリン?」

そこにはモリンが立っていました。

青年は信じられない、と、目を丸くしてモリンの顔を見ました。

しかし、その顔は真っ赤に染まっていました。

目を凝らすまでもなく、モリンの体には、
無数の切り傷と、無情にも何本もの矢が突き刺さっていました。

モリンのキレイだった白い体は、血に染まり、
真っ赤に変わっていました。

「なんてヒドイ!」

青年は泣きながら、モリンの体に刺さっている矢を抜きました。

抜かれた矢からは、血が噴き出してきます。

青年はモリンの血を浴びながら、
慌てて血の噴き出るのを両手で押えました。

「大丈夫だ、大丈夫だ」

必死に傷口を押えている青年の頬に、
モリンは優しく顔をすり寄せてきました。

「こんな思いをさせて、ごめんよモリン」

青年は、片手で傷口を押え、
片手でモリンの頬の辺りを擦りました。

モリンは膝から折れるように、崩れました。

横たわったモリンの顔を、青年は抱えました。

「どうしたモリン」

青年は分かっていました。しかし、話しかけ続けました。

「元気になって、もう一度、草原を一緒に走ろう……」

モリンは、力なく青年の頬に顔をこすりつけました。

「自由に、誰にも束縛されずに、気持ちよく風になろう、
 なぁ、モリン……」

青年の頬にこすりつけるモリンの顔から、
力が徐々に抜けていきました。

そして、静かに目を閉じました。

「───、モリン……」

青年は静かな動作で、力強くしっかりと、
モリンを抱きしめました。

「ごめんな、ごめんな」

青年は、モリンを抱きしめながら、何度も何度も謝りました。

「モリン……」

青年はモリンを抱え、しばらくその場にいました。

どのくらいの時が経ったのでしょう、
青年の近くに、一頭の馬が駆け寄って、
立ち止まる音が聞えました。

青年は構いもせず、モリンを抱きしめていました。

すると頭の上の方から勇ましい声が聞こえてきました。

「青年、その馬はおまえの馬か」

青年は答えませんでした。

勇ましい声は構わず続けます。

「その馬は、実に立派な馬だ。
 おまえのところに帰りたかったのだろう、
 何度も、城を抜け出そうとした。
 その度に、王はその馬を捉え鞭で打った」

青年はハッと、目を見開きました。

勇ましい声は話を続けました。

「そして今夜も抜け出そうとして、走り出した馬に向けて、
 王は『逃げられるくらいなら殺してしまえ!』と、
 矢を放ったのだ」

青年はたまらず声の主の方へ、
悲しみと怒りで充血した目を向けました。

声の主の顔を見て、馬に乗っているのは女の兵士だと、
青年は気づきました。

女の兵士は馬から降り、青年の前に膝まづいて、

「申し訳ないことをした」

と頭を下げました。

青年がなにも言えずにいると、兵士は顔を上げ、

「さぞ、無念であろう」

と、青年をしっかり見据えてから、

「さすがに、私も、あの王には愛想が尽きた。
 王が派遣したその馬の追手を倒し、私はここへ来た」

と言ってから、鋭いまなざしで低い声で言いました。

「おまえの無念、そしてその馬の敵(カタキ)は、
 私が取ってやる!」

兵士は踵を返すと、乗って来た馬に飛び乗り、

「さらばだ」

と、言葉を残し、颯爽と走り去っていきました。

青年は、遠ざかる馬の後ろ姿を、
黙ってしばらく見つめていました。



青年は、今日も琴を弾いています。

大親友の馬の体で作った、うすい赤色をした琴です。

青年は優しい音を奏でながら、心の中でささやきました。

(あの後、革命が起こり、王様はこの世から追放されたよ。
 おまえのおかげで、前よりも平和な世になった)

琴の音色を聞くために集まった村人たちの後ろに、
馬に乗った女性が、長い髪の毛を風に揺らしながら
静かに琴の音色に耳を傾けていました。

「国王そろそろ」

近くにいた者に耳打ちされ「ウム」と頷いた女性は、

「いつ聞いても良い音だ」

と、呟いて、音を立てないように
静かに馬の足を進め去って行きました。

夕日に包まれながら青年は琴を弾きました。

馬のたてがみを優しくなでるように、
静かに流れる琴の音は、
今日も村人たちの疲れを優しく癒してくれました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 スーホーの白いウマ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/world/05/05.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


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