森の中にある水飲み場に、一羽のハトがやって来ました。
水が溜まっているところに、ちょうどいい木の枝があり、
ハトはいつものようにそこにとまり、
くちばしで水をすくって、飲みました。
「おいしい」
ハトは満足そうな表情をしました。
その後で、キョロ、キョロ、と、周りを確認しました。
水を飲むたびに顔を上げ、同じような行動をとっています。
この森には水飲み場が少なく、
ここにはいろんな生物がやって来てます。
その中にはハトを襲ってくるものもいるので、
警戒していたのです。
ハトは何回か水をくちばしですくって飲みました。
そろそろ飛び立とうかと思い、
もう一口、と水にくちばしを伸ばしました。
すると、水の上になにかがいるのに気づきました。
さっきまでは気づきませんでした。
いや、さっきまで水の上にはなにもありませんでした。
目をこらして見てみると、アリのようでした。
あやまって水場に落ちてしまったのか、
バタバタと必死に足を動かして、もがいていました。
ハトは水をすくうのをやめ、
近くにあった、大きな葉っぱをくちばしでちぎり、
アリのそばに置いてあげました。
アリは必死に足を動かして、葉っぱに近づいて、
よじ登りました。
アリが葉っぱの上に乗ったのを確認すると、
ハトは葉っぱを水飲み場の外に運びました。
運んでいる途中で、一瞬だけ、葉っぱの上にいるアリと
目が合ったような気がしました。
水の無いところに葉っぱが置かれると、
アリはすぐに葉っぱからおりました。
******
アリは、森の中で今日もエサを探して歩いていました。
「エサはないか、エサはないか」
ヒクヒクと触角を動かして、
ちょろちょろと忙しなく歩きました。
すると、目の前にエサになりそうなものがありました。
ヨシ、これは大物だぞ!
と、意気込んで噛みつき運ぼうとしましたが、
なかなか重くて、動かすことができません。
「フムムムムム!」
足を踏ん張り、全身に力を入れました。
それでもエサは動きません。
アリは一度エサを離し、呼吸を整えました。
「ふーぅ」
と大きく息を吐くと、もう一度エサにかぶりつきました。
そして、先ほどよりも足を踏ん張り、全身に力を込めて、
引っ張りました。
「ンヌヌヌヌヌヌヌヌ!!!」
力を込めた分、エサが少し動いたのを感じました。
もう少しだ! と思ったアリはもっと力を込めて引っ張りました。
「フンッ、ンヌヌヌヌヌヌヌヌ!!!」
と、その時、
“プチン!”
という音とともに、アリが噛んでいたエサのいち部分が
チギレてしまいました。
激しく引っ張っていたアリの体はチギレた反動で、
ピョ~ンと、空中に舞い上がりました。
“ポシャン!”
アリが着地したのは水の上でした。
アリは慌てました。
早く陸に上がろうと、足をバタバタさせました。
しかし、なかなか思うように体が進まず、
水の上でバタバタしているだけでした。
「ふ~、いつものように泳げない」
アリは先ほどまで力いっぱいエサを引っ張っていたので、
少し体力が落ちていました。
でも、早く陸に上がりたいので、
足を動かすことをやめませんでした。
「フヌヌヌヌヌ」
必死になって足を動かしていると、
近くに木の葉っぱが落ちてきました。
よし、アレに乗っかろう!
アリは一所懸命、足を動かして葉っぱに近づき、
なんとか乗ることができました。
“ふぅ~”と息をつく間もなく、
今度は乗った葉っぱが動きだしました。
「うわわわわ」
慌てるアリは、葉っぱをくわえている生き物と目が合いました。
「ハトさん」
アリがハトの顔を不思議な表情で眺めているうちに、
葉っぱは陸の上に置かれました。
アリはすぐに葉っぱから、陸に降りました。
見あげると、枝にとまったハトがコチラを見ていました。
“ありがとう”
と、アリは言おうとしましたが、
ハトの背後になにかがいるのに気づきました。
「アレは人間の手だ!」
人間がハトを捕まえようとしていたのです。
“マズイ、このままではハトさんが人間に襲われちゃう”
アリはハトを助けようと思い走り出しました。
アリは人間が嫌がることを知っていました。
すぐに人間の足元へ走っていって、ズボンの中に入りました。
ごそごそズボンの中で歩いているだけで人間は嫌がります。
その上で、もっと人間が嫌がることをしました。
“ガブリッ”
人間の足に噛みついたのです。
『イデーッ!!』
と、人間は声を上げ、同時に足を激しく振ったので、
アリの体は投げ出され、またもや空中を舞いました。
空中を舞っているとき、目線のすみに、
元気に飛び立っていくハトの姿が見えました。
「よかった」
と、アリは思いました。
“ポトン!”
と、今度は地上に着地でいたので、
人間に踏まれないように一目散に走って逃げました。
ハトとアリはそれっきり出会うことはありませんでしたが、
お互い、とても感謝しながら過ごしました。
おしまい。
今回のもとのお話はコチラ
福娘童話集『 アリとハト 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/aesop/04/15.htm
━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
☆ちょこっとHappy♪☆
童話でHappy♪では、学校の道徳のようなことを
書くつもりはないのですが、今回のお話は、
「助け合い精神」という道徳的な内容になりました。
「情けは人の為ならず」
という諺があります。
『情けを人にかけると、巡り巡って自分へ返ってくるよ、
だから、良いことを人にしなよ』
という意味です。
「自業自得」
という熟語があります。
『自分のした業(ごう:行ない)は、自分に返って来る。
良い行ないをすれば、良いことが、悪い行ないをすれば
悪いことが返って来る』
という意味があります。
「因果応報」と共にお釈迦さまの基礎的な教えです。
そして今回の物語で、イソップさんは、
『ハトでもアリでも、恩返しは大切だよ』と説いています。
現代に目を向けると、感動プロデューサーの平野秀典さんは、
『恩送り(贈り)』を提唱しています。
受けた恩を本人に返すことができなくても、その恩を他の人に
渡すと良いという、江戸時代にはあった言葉だそうです。
自分の受けた恩を、周りの人と分かち合うことを、
たくさんの人がやり始めたら、この世の中は、
きっとステキになるでしょうね。
人助けをすることや、受けた恩は返すということは、
自分にとっても良いこと。
これは、いつの時代でも変わらない真理なのかもしれません。
今日のHappy♪ポイント
『 もらった恩は感謝して、みんなで分かち合おう! 』
ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/
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