※童話の更新は週1回(だいたい土曜日の夜)です(^0^)/

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2017年12月13日水曜日

お婆ちゃんの古時計

あたしには、お婆ちゃんが1人だけいます。

もう1人のお婆ちゃんはあたしが生まれたときには、
もう亡くなっていたから、写真でしか見たことがないの。

微笑んでいる写真のお婆ちゃんを見てると、
本当に、優しいお婆ちゃんだったんだろうなぁ、
と、思っちゃう。

それに引き換え、あたしのお婆ちゃんは、すっごく厳しいの。

そして、すっごくケチなの。

今日からあたし、1人暮らししているお婆ちゃんの家で
一緒に住むことになったの。

お母さんが入院することになったから。

あたしの弟が生まれるらしい。

お父さんは仕事と病院で忙しいし、学校も近いってことで、
しばらくの間、あたしは1人だけでお婆ちゃんの家で
一緒に暮らすことになった。

お婆ちゃんがケチで厳しいことは知っていたつもりだったけど、
一緒に住むようになると、もう、大変。

ちょっとでも電気を点けたら怒るし、
水道の水は使う分を洗面器に溜めてからじゃないと使えないし、
冷蔵庫の中のものを取る時なんて、
ちょっとだけ開けてさっと取り出さなければ怒られるし。

もーう大変!

なんか、一日で疲れちゃったよ~。

もう寝よう、っと思って、ちょっと早い時間だったけど、
お風呂に入ってリビングを通って、自分の部屋に行こうと思ったの。

そしたら、お婆ちゃんが椅子の上に立って、
リビングにある時計に向かって何かしてるのが見えた。

その時計はね、床に直接置かれてて、あたしの背よりうんと大きくて、
茶色い木目に覆われててね、振り子が振られるたびに、
コツコツコツ、っていう音がしてた。

お婆ちゃんの古時計、ってちょっとなんか変。

あたしはお婆ちゃんに近づいていって、

「お婆ちゃん、何してるの?」

お婆ちゃんは振り向きもせずに時計の扉を閉めながら、

「時計を止めてるのさ」

「時計を止めちゃうの? どうして?」

そんなこと聞いたことないよね。

うちのお母さんなんて、時計が止まったらすぐに電池取り替えて、
動かしちゃんもん。

あたしが驚いているとね、お婆ちゃんはこっちを向いて、

「時計を止めるのは、時計の歯車がすり減らないようにだよ」

「え、でも、時計止めちゃったら、時間くるっちゃうよ」

って、言うとね、お婆ちゃんはあきれたような顔をしながら、

「くるったら、明日の朝直せばイイじゃないか、
 あたしは、この時計をずっと使っていたいんだ。
 少しでも壊れないように、夜は止めるのさ」

え、それって、やっぱり、ケチだから?

まぁ、寝てるときは、時間がくるっても困らないし、
お婆ちゃんにはお婆ちゃんのやり方があるから、
これ以上聞くと、怒られそうだし。

まっいいか、

って、そん時は思ったんだぁ~……。


───あれから、

そうね、弟も無事に生まれて、今年、中学卒業だから、
もう十数年経ったんだね。

わたしはお婆ちゃんの家に久しぶりにやって来た。

弟が生まれてからは、お婆ちゃんは、
わたしの家に出向くようになったから、
お婆ちゃんの家には来ないようになっていた。

お婆ちゃんの家の玄関を開けて、わたしはリビングに入った。

不思議なくらい、あの頃となんにも変わってなかった。

ここだけ、時が止まっているように感じた。

お婆ちゃんのケチっぷりと厳しいところに、
嫌になっていた、あの頃が懐かしい。

リビングには、大きな古時計も以前のまま
変わらない姿で立っていた。

でも──。

残念ながら、振り子は動いていなかった。

存在感はあったけど、成長したわたしよりも、
まだちょっとだけ大きい古時計は、
ただ“シーン”と静かに立っていた。

毎日、大切に磨いていたのだろう、
時計は姿形は古さを物語っているけど、
表面の輝きは、新品のよう、
ううん、新品にはない、なんていうか、
趣ってのを感じさせられるような輝きがあった。

「お婆ちゃん、本当に大切にしていたんだなぁ」

わたしは時計を眺めて、少し笑った。

「おや、来てたのかい?」

「あ、お婆ちゃん」

お婆ちゃんが、廊下の扉を開けてリビングの中へ入って来た。

「すまないね、呼び出して」

「ううん、全然平気だよ」

お婆ちゃんは、杖を突きながら、
ちょっとずつ足を動かして近づいて来た。

「もう、すっかり歩くのが辛くなってねぇ」

そして、時計の前に立った。

「この通り、時計を動かすのも、無理になっちまったよ」

お婆ちゃんは悲しそうな表情で時計を見ていた。

「わたしが動かすよ、やり方教えて」

わたしは近くにあった、椅子を運んで来た。
お婆ちゃんが時計を操作するときに使っていた椅子だ。

お婆ちゃんは丁寧に時計の動かし方を教えてくれた。

“コツ、コツ、コツ、コツ”

振り子が振れ始めると、あの時と同じ音が時計から聴こえて来た。

「スゴーイ、あの頃と同じ音だぁ」

わたしは遠い記憶を思い出してた。

そんなに長くこの家に住んでいた訳では無かったけど、
お婆ちゃんと過ごした日々は、なんか強烈な思い出として残っていた。

「そうだ、お婆ちゃん」

あの頃、聞きたかったけど聞けなかったことを、
お婆ちゃんに聞いてみた。

「どうして、この時計、こんなに大切にしてるの?」

いくらケチなお婆ちゃんでも、なんかこの時計だけは
違う理由があるように思えたから。

するとね、お婆ちゃんは

「おや、言ってなかったかい」

って、言ってから、少し笑みを浮かべてね、

「コレはね、お爺ちゃんがオレたちの結婚記念だ、
 って言って買った時計なんだよ」

「えっ!」

わたしはちょっと驚いた。

そんな、ロマンチックな話がお婆ちゃんから聞けるなんて!

驚いたのが、顔に出ていたのか、

「そんなに驚くもんじゃないよ、まったくぅ」

と言ってから、お婆ちゃんは照れくさそうに

「お爺ちゃんはね、一緒に、時を刻もう、って、言ってたんだ」

「へーぇ、お爺ちゃん、ステキなこと言うねぇ」

わたしは、ただただ感心して時計を眺めて、

「それで、こんなに大切にしてたんだね」

「そう、これが動いてると、まだ、お爺さんと
 時を刻んでるような気がしてねぇ……」

「ふーん……」

お婆ちゃんとわたしはしばらく黙って、時計を眺めていた。

“コツ、コツ、コツ、コツ”

「ねぇ、お婆ちゃん、止め方も教えて」

「え?」

「歯車を傷めないように、これからわたし毎日ここへ、
 動かしたり止めたりしに来る、だから止め方も教えて」

「おぉぉ、そうかいそうかい、それはありがたいねぇ」

お婆ちゃんはとびっきりの笑顔で喜んでた。

子どものころは、厳しいお婆ちゃんだと思ってたけど、
今はとても、愛おしいわたしのお婆ちゃん。

これからは、毎日、ここで会えるのが楽しみです。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 おばあさんの時計 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/world/03/05c.html



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


聞いてみないと分からないこと、って多いですよね。

今回のお話でも、お婆ちゃんにあんなロマンチックなことが
あったなんて、聞いてみないと知らないままで終っていた
ことでしょう。

人って、ついつい私(自分)のことを他人は
ある程度理解しているって思いがちなんですよね。

でも他人は基本的に私のことなんて、なにも分かっていない。

何十年も一緒にいる夫婦だって、初めて気づくこともある。

長年の付き合いの友だちに、
意外な面があることに驚くときもあります。

ましてや、先輩や上司など、家族や友人でも無い人が、
私のことを理解しているなんて、ありゃしません。

だから、自分が思っていることは伝え、
疑問に思ったことは聞かなければ、なにも分かりません。

案外、伝えたり聞いたりしたら、問題が解決されたりします。

分からないから不安になるし、知っていると思うから、
疑いたくもなる。

「伝える」「聞く」っていうのはとても重要なものなのだと
改めて思います。


今日のHappy♪ポイント

『 自分の気持ちを伝え、相手の気持ちに耳を傾けよう! 』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


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