※童話の更新は週1回(だいたい土曜日の夜)です(^0^)/

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2017年12月20日水曜日

神さまに祈る前に

昔々のお話です。

年老いた村人が家に帰るために歩いていると、
街はずれの舗装されていない道で、
馬車を止めている若い男性を見かけました。

村人は村の人間なら全員知っていますが、男性の顔は
見たことがありませんでした。

男性は馬車の横でひざを地面につけて、両手を胸の前で組み、
頭を少し下げ、目をつむり、何やら“もごもご”と
ひとり言を言っていました。

年老いた村人は、男性に声をかけました。

「若いの、どうなさった?」

男性は目を開けると、手を組んだまま立ち上がり、
村人の方を向いて言いました。

「困ったことがあったもんですから、神さまに祈りをささげていました」

「困ったこと? 祈り?」

村人は、小首を傾げながら「なにがあったのじゃ」とたずねました。

「ええ、それが馬車の荷車が深い溝にはまってしまって、
 動かなくなってしまったのです」

「え!」

村人はちょっと驚きました。

馬車を見ると、馬の後ろに荷物を積んだ荷車が繋がれていて、
両側に一輪ずつある車輪の片方が、確かに溝にはまっていました。

しかし村人はそのことに驚いたのではありません。

村人は男性に訪ねました。

「あなたは、神に祈っていたと言ったが、
 なにを祈っていたのじゃ?」

男性は、なんの躊躇もなく言いました。

「はい、馬車を動くようにしてくださいと」

男性の答えに村人は少し言葉を失いました。

そして、我に返って、

「そ、そんなこと、神さまに祈らんでもいいでしょう」

と、半ばあきれたように言いました。

「はぁ、でもぉ、こうなっては私は神に祈るしかありません……」

男性は溝にはまっている車輪に目を向けています。

村人はあきれたように、無言で荷車の後ろへ行きました。

「わしが荷車を押すから、合図をしたら馬を動かしてくれ」

「え、あ、はい」

男性の気の抜けた返事には構わず、村人は、

「せーのっ!」

と、掛け声を上げると同時に、荷馬車を思いっきり押しました。

男性は慌てて、馬に鞭を入れました。

「ウムムムムムムム」

村人は腕で荷車を持ち上げるように押し、足を踏ん張り力を入れました。

鞭を入れられた馬も一生懸命、前へ進もうとしています。

やがて荷馬車の車輪が傾きだしました。

「フムムムムムム」

村人は体を荷車に預けるようにくっつけ、
さらに力を込めて荷車を押しました。

「ムムムムムムム、ハーッ!」

と、村人の叫び声と共に全身に力をいれると、
荷車の車輪は動き出し、溝から見事に抜け出しました。

前へ進む荷車の後ろ姿を眺めながら、
村人は“フゥーッ”っと大きく息を吐きました。

男性は慌てて馬を止め、村人の方へやって来ました。

「助かりました。ありがとうございます!」

男性は目をキラキラさせて村人に感謝の言葉を投げかけました。

「なんの、なんの」

と、村人は言ってから、腰に手を当てて、
少し背中をそらしました。

そして、肩を軽く回した後、よかった、よかった、と喜んでいる
男性に言いました。

「車輪がはまったあと、荷車を後ろから押そうとはしなかったのかい?」

男性はすぐに「ハイ」と返事をしました。

「押しもせず、神さまに祈ったの?」

村人がそう言うと、男性はすぐに「ハイ」と答えました。

村人は(やれやれ)と頭を静かに横に振りました。

男性は“ハッ!”となにか気づいたような顔をして、
村人に近寄り言いました。

「もしかして、あなたが神様ですか!
 助けに来てくれたのですか!」

村人は慌てて、

「わしは神さまじゃないよ、通りすがりのもんじゃ、
 ただ、車輪を溝から出すのに慣れているだけじゃ」

と、言いましたが内心

(こんなことで頼りにされたんじゃ、神さまも大変じゃなぁ……)

と思いました。

「どちらにしろ、あなたは恩人です。
 ありがとうございます」

男性は村人の方を向いて、手を組み、頭を下げました。

「おいおい、勘弁してくれよ」

男性はさんざんお礼をしながら、馬を引いて去っていきました。

村人は、良いことをしたような、からかわれているような、
なんだか複雑な思いをしながら、若者を見送りました。

“フーッ”

そして、家に向かって歩き始めました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 牛追いとヘラクレス 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/aesop/03/09.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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