※童話の更新は週1回(だいたい土曜日の夜)です(^0^)/

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2017年11月23日木曜日

三方とも一両お得?

江戸時代に争い事を仲裁する裁判官のような
仕事をしていたひとのことを

「お奉行さま」と呼んでいました。

お奉行さまは、今日も争い事を訴えてきた二人の話しに
耳を傾けました。

「すると、虎吉、おまえは財布を拾ったんだな」

「へい」

と、訴えてきた一方の男、虎吉は、地面に座り
ひょうひょうとした口調で言いました。

「あっしが道を歩いてると、財布が落ちてましてね、
 師走(12月)も近いのに財布を落とすなんて気の毒だなぁ、
 なんて思って、中を確認したら三両(江戸時代のお金)も
 入っているでね、 びっくりして、そしたら財布の中に
 住所と名前が書いてある紙があったんで、
 こりゃさぞかし困ってると思って、届けにいったんです」

フムフム、とお奉行さまは大きく頷いてから、

「して辰治、財布をわざわざ届けてもらったのに、
 なぜ受け取らぬ」

辰治は“へい”と返事をしてから、少しトゲがある口調で言いました。

「あっしの財布には間違いありませんが、落としたものは
 無くしたようなもの、金は天下の周りもの、
 最早あっしのものではありません。
 それは拾った者のもんです、だから受け取れないのです」

フムフム、とお奉行さまは大きく頷いてから、

「では、虎吉、辰治もこう言っているから、
 おまえがもらってしまえばいいではないか」

「冗談じゃありませんぜお奉行様、この虎吉、
 拾ったものを自分のものにしようなんざ、
 よこしまな気持なんて、もっておりません」

フムフム、とお奉行さまは大きく頷いてから、

「辰治、わざわざ届けてくれたのだし、
 素直に受け取ったらどうじゃ?」

「とんでもありません、わざわざ届けてくれたからこそ
 なおさら、わたしは受け取ることはできません」

フムー、とお奉行さまは渋い顔をして、
二人の顔を交互に眺めました。

「では、自分のものではないから、二人とも、
 この財布を受け取らぬと?」

虎吉と辰治は大きく頷きました。

もう一度、今度は確認するように二人の顔を交互に見たお奉行さまは、
フム、と一度大きく頷き言いました。

「では、持ち主の無いこの財布は、わしがもらう事にする」

そう言ってお奉行さまは、財布を懐の中へ入れてしまいました。

「あっ、あぁー」

と、二人がなんとも言えない声を出したので、
お奉行さまは、

「なんじゃ、わしの裁きに、不服でもあるのか?」

そう言われてしまっては、二人とも反論できずに、

「お奉行さまがそうおっしゃるなら、それで……」

と、小首をかしげたり、なんだか煮え切らない、
というような仕草をしながら、立ち上がりました。

「あぁ、ちょっと待て」

お奉行さまは帰ろうとしている二人を呼び止めました。

二人は並んで、お奉行さまの前に座り直しました。

「おまえたちのバカが付くほどの正直ぶりに、わしは感心した。
 そこでじゃ、おまえたちに褒美をあげたいのじゃが」

「はぁ~」

二人はなんとも言えぬ声を出しました。

お奉行さまは、懐から先ほどの財布を取り出すと、

「ちょうど、この中に三両ある、ここに、わしが一両足して、
 四両、これを分けて、二両ずつ、おまえたちにやろう」

「えっ!」

驚いた表情の二人に、

「気にするな、褒美じゃ、褒美」

お奉行さまは笑いながら、二両ずつ二人に手渡しました。

二両を受け取り、不思議そうな表情をしている二人に
お奉行さまは、

「落ちていた三両入った財布を、自分のものにせず、
 正直に届けた虎吉は、二両もらって一両の損。

 三両入った財布を落としたが、落とした後は、
 拾った者のものだから、と言って受け取らなかった
 辰治は、二両もらって一両の損。

 そして、そんな二人の正直さに、わしは褒美として、
 一両渡したから、一両の損。

 これでみんな仲良く、一両ずつ損して、
 丸く収めるってのはどうじゃ?」

そう言われた二人は、

「なるほど、なんか知りませんが、みんな一緒なら納得できます」

「はい、わたしも異論はございません、ただ……」

と、辰治が言うので、お奉行さまは、

「ただなんじゃ?」

「はい、この方法では、お金をもらえないお奉行さまは、
 大損ではないかと」

「あ、確かに!」

と、虎吉が声を上げました。

二人の顔を見て、お奉行さまはニッコリ笑顔で言いました。

「おまえたちは、ほんとイイ奴じゃなぁ」

そして、いたずらっぽい笑いを浮かべて、お奉行さまは、
二人に顔を寄せて、小さな声で言いました。

「安心せい、お前たちを裁くことで、わしはお上から、
 三両の給料をもらえるのじゃ」

それを聞いた二人は、

「おおぉ、それならお奉行さまも一両損じゃ」

「あっぱれ、見事な御裁きだ」

と、喜びました。

「それではこのご褒美、ありがたく頂戴しやす」

それぞれ二両を両手で高らかに持ち上げ、
深々と頭を下げて帰っていきました。

二人が帰ったあと、お奉行さまの側で一部始終を見ていた
立会人の若い男の人が、お奉行さまに近寄って来ました。

「お奉行さま、見事な裁きでしたが、
 これは危険な裁きではありませんか?」

「危険とな?」

「はい、この裁きが世間に広まって、
 もし悪だくみを考えた奴が、儲けようとウソをついて
 三両持って二人組でやって来たらどうするんです?」

お奉行さまは笑いながら言いました。

「そしたら、今度は、三人とも得とでもするかのぉ」

「三人とも得?」

「そうじゃ、三両を、一両ずつ分けて、三人とも得とするのじゃ」

「はて」

と、若い男の人は少し考えてから、

「なるほど、一両ずつもらえて得なようですが、
 三両持って来て、一両ずつでは、儲けがでませんね」

「そうだな」

「いい考えだと思いますが、お奉行さまがもらった一両は
 どうなさるおつもりで?」

という若い男の人の素朴な問いに、

「さぁ~、」

お奉行さまはとぼけた表情をして、

「それは、その時になったら考えるかの~」

そう言い残し、そそくさと奥へ歩いて行ってしまいました。

お奉行さまの後ろ姿を見ながら、若い男の人は、
フフフ、と笑みを浮かべました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 拾った財布 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/02/23.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


有名な大岡裁きです。

ちょこっと創作してみました。

こんなとぼけたお奉行さまがいたら楽しいかなぁ~
と思います。

あまり、規則だとかルールに縛られ過ぎずに、
いつも大らかでいられるとイイですね。

有能な人が、もっと裁量を発揮できるような社会になれば
悩む人は少なくなるし、助かる人も多くなるのではないでしょうか?

管理社会は一見合理的に思えますが、
歪も多そうだと、本当は、みんなが気づいています。

でも、みんな素直に気付いていることを表に出そうとしない。

楽ですからね。

管理すること、されることに慣れちゃうと。

でも、歪は溜まっていく一方。

そんなときに、この物語のお奉行さまのように、
その場に合わせた裁量を発揮してくれる人がいると、
ガス抜きになって、いいのになぁ、と思います。

ルールや規則にがんじがらめにならないで、
たまには、自分の気持ちに素直になって動いてみるのも
必要なのかもしれません。


今日のHappy♪ポイント

『 目くじら立てずに、大らかに 』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


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