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「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2017年8月16日水曜日

医者に説法

昔々、悩みを相談するとなんでも解決する和尚がいました。

ある時、町で有名な医者が和尚を訪ねて来ました。

「はて、お医者さま、わしはどこも悪くないが、なにようかな」

「はい、和尚さま、今日は診察ではなく相談に来ました」

「そうですか、では、奥で聞きましょう」

二人はうす暗い寺の板の間で向き合って座りました。

和尚が悩みを聴きましょうと促すと

「いや実は悩みというのはですね」

と、医者は言ってから、少し言い辛そうな仕草をしました。

それを見て和尚は、

「案ずるな、悩みは他言無用じゃ」

「はっ、それでしたら~」

と、医者は後頭部の辺りに手を当てながら

「実はですね、この間、病人を三人もなくしてしまいましてね」

「なんと、名医と名高いあなたが、病人を三人も」

と、和尚は目を見開いて

「まぁ、なんだな、お気の毒だが、それはその病人の
 寿命だったのかもしれないな。
 どれ、成仏できるようお経をあげてやろう」

数珠を構えた和尚に医者は慌てて、

「いや、いや、和尚さま、そうじゃないんですよ」

「そうじゃない、じゃぁ、なんじゃ」

「なくしたという言い方が悪かったですね。
 病人は、三人とも病気が治ってぴんぴんしております」

「なんじゃ、そりゃ良かったじゃないか、なにを悩むことがあるのか」

「病気が治ったことは良かったんですが……」

言いづらそうにしている医者に和尚は、

「なんだ、はっきり言ったらどうじゃ」

「はぁ」

と、医者は、力なく返事をしてから言いました。

「患者がいなくなってしまいまして、
 その……、明日からの生活が、
 ままならないというありさまでして……」

「ほうほう」

と、和尚は状況が分かったらしく次のように言いました。

「つまり、お医者さまが名医なばっかりに、
 病人が来てもすぐに病気を治してしまうから、
 生活できるだけの銭が稼げない、と言うのじゃな」

「さすが和尚、その通りでございます」

「なんとも、贅沢でもあり、切ない悩みでもあるのぉ」

和尚は坊主頭を擦りながら言いました。

「はぁ、面目ありません」

医者は後頭部に手を当てて、恥ずかしそうに頭を下げ、

「かと言って、病人からいただく銭を上げるのも気が引けまして……」

「ふむふむ」

と、和尚は大きく頷き「分かった」と言ってから続けました。

「それではお医者さま、わしは、治療費を上げずとも、
 あなたが生活できるような知恵を授ければ良いのじゃな」

「はい、良いお知恵がありましたら、ご教授いただければ幸いです」

「ふむ、まぁ、簡単なことじゃ」

「は、そうですか」

「つまり、あなたは名医だから、生活ができるくらい銭が
 貯まる前に病人が治ってしまうのじゃな」

「はい」

「名医ならではの悩みじゃ」

「はい」

「他の医者がそれを聞いたら、どう思うだろうな」

「そうですね……」

医者は小首をかしげ考えてから、

「やっかみますかな」

「そうじゃな、やっかむ者もおるかもしれんな。
 それ以外はおらぬか」

「そうですねぇ……」

 医者は、右手を後頭部に当てながら考えて、

「羨みますかな」

「そうじゃな、羨むものも出てくるじゃろうなぁ」

と、和尚は言ってから、身を乗り出しました。

「ところで、お医者さま」

「はい、なんでしょう」

「皆がやっかんだり、羨んだりする名医が、
 あなたの前にいらっしゃったら、
 あなたはどうしたいと思いますか」

「どうしたい…ですか……」

と、医者は考えました。

しばらく考えたあと、

───はっ!

何かひらめいたように、両目を大きく開けました。

「私なら、その名医に教えを乞いたいと思います」

和尚は落ち着いた表情のままで、

「そうじゃろなぁ、そんなに、あっという間に病気を治す
 医者の技術は、銭をいくら払ったって学びたいものじゃ」

「確かにそうですね。つまり私は、医者の学校を開けばいい、
 と和尚さまはおっしゃりたいのですな」

「さすがは名医、勘がいい」

和尚は笑顔で言いながら、

「あなたの技術が伝われば、助かる命も増えるであろう」

「なお良し、ですね」

医者は「ありがとうございました」深々を頭を下げ、
喜んで帰って行きました。

和尚は医者を見送ってから、

「なんとも贅沢な悩みじゃのぉ」

と、目を細めて言いました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 貧乏医者 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kobanashi/10/30.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


器用貧乏、なんて言葉もありますね。

なんでもできるけど、1つのことに絞れず、
どっちつかずで、なにもものにできないという人。

この物語の医者は、腕が良すぎて患者がすぐに良くなって、
病院に来てくれなくなるという悩みを持っていました。

そこで和尚さんはその技術を教えなさいと説きます。

自分の持っている技術や能力って、自分で使うだけでは、
実はもったいないのかもしれませんね。

自分はできると、なまじ思っているから気付かないだけで、
他人から見たら羨ましい、教えてもらいたい、
と思うほどの能力なのかもしれません。

でも、それは他人の目にさらしてみないと分からないものです。

器用貧乏の人も、もしかすると、その能力で
助かる人がいるかもしれません。

自分の能力を勝手に過小評価しないで、周りの人に披露して、
判断をゆだねてみるのもいいのかもしれませんね。

あなたは、なにができますか?


今日のhappyポイント♪

『 実はそれ、スゴイことなのかもよ! 』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


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