天文学者は日が落ちたあと、漆黒の闇の中でキラキラと
光を放つ星空を見ながら生活していました。
地質学者は日が昇ったあと、お日様の光に照らされた
地面を見ながら生活していました。
「おや、地質学者さん」
「あ、あなたは天文学者さん」
昼と夜が交差する、たそがれ時。
空も地面もオレンジ色に包まれた昼でも夜でもない時間に、
普段は殆ど顔を合わさない二人は水飲み場で出合いました。
「これから、観測ですか?」
地質学者が天文学者に聞きました。
「えぇ、これからです」
と答えてから天文学者は
「今日も暑かったですか?」
「えぇ、とても暑かったです」
地質学者は首にまいた布で頬のあたりを拭いてから
「もう、喉がカラカラで」
と、湧水が流れているところに水筒をあてて水を注ぎ、
それを口に運びゴクゴクを飲みました。
天文学者も腰から水筒を取り、水を注ぎました。
そして水筒の蓋をしめながら言いました。
「ところで地質学者さん、あなたはいつも地面ばかり見ていて、
退屈では無いのですか?」
不意におかしなことを聞かれた地質学者は、
「はて、退屈だと思ったことはありませんよ」
と答えました。
「そうなんですか、いやぁ~、実にもったいない」
と、天文学者は両手を広げて、暗くなり始めた空を見ながら言いました。
「上を見ればこんなに素晴らしい景色があるというのに、
下ばかり見ているのなんて、実に、もったいない」
地質学者も顔を上に向け、空を眺めました。
うす暗くなった空に、点々と星が瞬いていて、とてもキレイでした。
「確かに、キレイですね」
と、感動する地質学者に、
「そうでしょう、キレイでしょう!
こんな景色を見ないで地面ばかり見ている生活なんて、
あなた、人生、半分くらい損していますよ」
と、天文学者は言ってから
「あ、ちょっと言いすぎましたね。では失礼」
と、そそくさと去って行きました。
地質学者は天文学者を見送りながら、もう一度、空を眺めました。
「確かに、キレイだなぁ……、
たまには星空を眺めるのもいいかも知れないな~」
と、近くにあったベンチに座り、しばらく星空を眺めていました。
そして何日かが過ぎたある日のこと。
ギラギラした太陽に照らされ、うだるような暑さの中、
地質学者は地面を見ながら歩いていました。
連日の日照り続きでで、水が少なくなり、
あちこちで井戸が枯れてしまう被害も出ていました。
「この辺も、だいぶ干からびてるなぁ」
地面は渇き、時折風が吹くと、
白い砂が舞い上がり風に乗って去っていきました。
「おや?」
人影もない渇いた大地で地質学者の目に何かとまりました。
「あれは井戸かな?」
と、首をかしげてから思い出したようにつぶやきました。
「街の中に湧水が出るようになってから使わなくなった井戸だ」
使われなくなったとは言え、今は貴重な存在です。
地質学者は井戸の中に水があるか、確かめるために近づきました。
井戸の側でしゃがみ、中を覗き込むと、
「おや?」
井戸の中には奇跡的に水がありました。
しかし、驚いたことに、井戸の中には水以外のものも入っていました。
「もし、そこにいるのは誰ですか?」
地質学者の問いかけに、井戸の中にいる人はすぐに上を向きました。
「あ、地質学者さん」
と、井戸の中から声がしました。
「そういうあなたは、天文学者さん!」
井戸の中にいたのは天文学者さんでした。
「どうして、そんなところにいるんです? 井戸の点検ですか?」
「いえいえ、そんな訳ないじゃないですか地質学者さんも人が悪い」
と、天文学者は苦笑いをしながら、
「昨晩に、夜空を眺めて歩いていたら、急に地面が無くなり、
気付いたらこうなってしまったんですよ」
「あ、そうだったんですか」
「あの、地質学者さん、良かったらお話はあとにして、
助けてはいただけないでしょうか?」
確かに、井戸の中にいるのも苦痛だろうと思い、
地質学者は近くにあった紐を井戸の中へ投げ入れ
天文学者を助けてあげました。
「いぁ、助かりました」
天文学者が言うと、地質学者は答えました。
「いいえ、助かったのは井戸に水があったおかげですよ。
水がクッションになって落ちた衝撃を和らげ、
喉の渇きも潤してくれたおかげです。
ラッキーでしたね天文学者さん」
そう言われた天文学者は、
「ハイ、ラッキーでした! 水があったこともそうですが、
それだけじゃない、地質学者さん、あなたのおかげです」
と、言ってから続けました。
「落ちたあとからずっと助けを求める声を上げていたのです。
でも、誰も気づいてくれませんでした。
日が昇り明るくなってからも叫んだのですが、誰も来てくれず、
井戸から見えるのは青い空だけ、もうだめかと思っていました」
天文学者は両手を広げ
「そんな絶望的になっていた時に、あなたの声が聞こえ、
見上げたら、日の光を浴びて逆光でしたがあなたの顔が
うっすらと見えました、逆光が後光のように見え
それはそれは眩い光景でした」
「はぁ~、いあ~」
と、褒められて地質学者は背中がむず痒く感じました。
天文学者は改めて言いました。
「私は、上ばかり見ていましたが、
これからは地面も良く見ながら歩くことにします。
井戸の中から空を見上げるのはもうこりごりですからね」
それを聞いて地質学者は
「そうですね、それはいいですね」
と言ってから
「私も、あなたに言われてから、
毎日、夜空を眺めるようになりましたよ」
と続けました。
そして、二人はお互いの顔を見てぎこちなく笑ってから、
再開を約束してから、それぞれの道を歩き出しました。
おしまい。
今回のもとのお話はコチラ
福娘童話集『 天文学者 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/aesop/06/16.htm
━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
☆ちょこっとHappy♪☆
あなたは、何を見て生活していますか?
「上を向いて歩きましょう!」
と、偉人たちの多くはそう言います。
上を向くと空が広がり、その広さに自分がちっぽけな存在に思え、
悩みもスッと消えていく感覚を味わうこともあるでしょう。
しかし、上ばかり見ていて足元を確認ないと、
この物語の天文学者のように井戸に落ちてしまうかも知れません。
一方だけではなく、その時々の周りの状況を良く見ながら
生活するのが理想のような気がします。
また、この物語の地質学者は天文学者に言われて
夜空の素晴らしさを知ることができました。
いろんな視点で物事を捕えると、世の中の見え方が変わります。
視点を変えずに生活するということは、
違う世界を見ることができないということ。
つまり、素晴らしいことを見逃している可能性がある!
そんな、もったいなくて窮屈な生き方、あなたはしていませんか?
今日のHappyポイント♪
『普段は見ようとしないものを、あえて見てみる!』
あなたの意見をお聞かせくださ~い(^-^)