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「もくじ」がちょっと新しくなったよ

2018年12月16日日曜日

仙人になるまでの時間

昔々、まだ仙人がいた時代の話です。

春吉は、その日暮らしの生活していました。

長く続けられる仕事は無く、
なにか1つのことに打ち込んできたものもありません。

奥さんがいて、大きな子供がいてもおかしくはない歳ですが、
ずっと1人で暮らしています。

友人は会うたび「定職について真面目に働け」と言います。

春吉は、職につくと、とても真面目に働くのですが、
どうしても長く続けられないのです。

みんなから、長続きしないダメな奴、と言われ、
落ち込むときも多くありました。

(どうして俺は長く仕事を続けることができないのかなぁ)

こんな自分に、生き辛さを感じながらも、
なんとなく生きのびてきました。

そんなある日のこと。

春吉は、友だち伝えに、旧友が仙人になった、
という話を聴きました。

仙人には長い時間をかけて、
厳しい修行をつまなければなれません。

仙人になった旧友は、とても仲がよく、
バカなことをして遊んでいましたが、
ここ何十年かはまったく連絡をとっていませんでした。

(あいつが仙人か……)

この近くに住んでいると聞いたので、
春吉は会いに行きました。

仙人の家は、周りの家とたいして変わらない、
ごく普通の家でした。

扉を叩くと、中から白い髪の毛で白い髭を生やした、
いかにも仙人という風貌の男が出てきました。

あまりの風貌の違いに、目の前の男が旧友だとは、
思えませんでした。

それでも声をかけてみました。

「春吉だ、覚えているかい」

そう言うと、白い髭を生やした男は、

「おぉ、春吉、懐かしいなぁ」

と、満面な笑顔で、

「おまえは変わらないなぁ、さっさっ、
 あがれあがれ」

と、手招きしてくれました。

家の中に入ると、部屋はがらーんとしていました。

家具のようなものがなにもありません。

飾り気もありません。

なにもない部屋に、ちゃぶ台が置かれ、そのわきには
七輪が置いてあり、黒いヤカンから湯気が上っています。

座れと促されたところには座布団もなく、
春吉は畳の上に腰を降ろしました。

召し上がれ、と出された茶碗の中のものを口に入れると、
それは味も素っ気もない白湯でした。

(なるほど、風貌といい、なにもない部屋といい、
 確かに仙人らしいなぁ)

春吉はそう思いました。

二人は若かった頃の話で盛り上がりました。

よくバカなことをやっていたなぁと話しながら、
そんなおまえが仙人になるとはなぁ、
と、大いに笑いました。

「ところで春吉、おまえは今、なにしてるんだ」

仙人のその言葉に春吉は頭をかきながら、

「とくになにもしてねぇんだ」

と、バツが悪いなぁと思いながら答えました。

「そうか、おまえらしいなぁ」

仙人はニコニコしながら言いました。

「生活はできているのか?」

「やぁ、一日過ごすのが、やっとだ」

と、春吉はバツが悪いと思っていることがばれないように、
懸命に平静を装って、話しました。

「そっか、それじゃぁ」

仙人はなにもない部屋をきょろきょろ見て。

「おお、待ってろ、オマエにいいものをやる」

と言って、七輪から黒いヤカンをとって、
ちゃぶ台の上に乗せました。

アツアツのヤカンをちゃぶ台の上に乗せて
大丈夫かな、と春吉は少し心配になりました。

仙人は湯気を上げているヤカンを指差しました。

そして、

「レナレナドルーゴ、 レナレナドルーゴ」

と、ボソボソと呪文のようなものを唱えました。

シューゥン!

一瞬、強い風が吹き抜けるような音がしました。

「これをお前にやろう」

と、仙人が指を差す先には、眩い黄金の光を放つ、
ピッカピカになったヤカンがありました。

「おぉぉぉぉ!」

春吉は驚いて、黄金に輝くヤカンを食い入るように
見つめました。

「なんだ、ヤカンの色が一瞬で変わったぞ!」

ヤカンの口からは、少し湯気が上っていますが、
そこは空洞ではなく、口の先端まで金色に覆われていました。

「ふふふ、色が変わったのではない」

と、仙人は得意げに笑うと、

「本物の金になったのだ」

と、言いました。

「えっ! 本物の金!!」

春吉は、さらに驚いて、今度は目を丸くして、
黄金に輝くヤカンを見ました。

「どうして、ヤカンが金に?」

そう春吉は言うと、仙人は笑顔で、

「人さし指をかざして、呪文を唱えると、
 なんでも金に変えられるのじゃ」

春吉は驚いて、一瞬、仙人の顔を見ましたが、
目はすぐにヤカンに戻りました。

「スゴイやー、おまえスゴイなー」

春吉は本物の金を見るのは初めてなので、
これが本物の金なのか、よく分かりませんでしたが、
それでも、そのピカピカキラキラしたキレイさから
なかなか目を離すことができないでいました。

「持っていっていいぞ、売るなりなんなりして、
 生活の糧にすればいい」

仙人にそう言われた春吉は、黄金のヤカンから目を離して、
仙人の顔に向けました。

そして、訴えるような表情をしながら言いました。

「オレはこんなのいらない」

「遠慮するな」

という仙人に、春吉は強い口調で言いました。

「こんなものはいらない!」

仙人は優しい口調で、

「同情や憐れんであげると言っているのではない、
 古い友人のおまえだからあげると言っているのだ」

それでもオレはこんなものいらない、
と、春吉は言いました。

困った顔をした仙人が、じゃぁ、他に欲しいものはあるか
と聞いて来たので、春吉は言いました。

「オレは、おまえの、なんでも金にするその指が欲しい」

「ハッ!」

と、それまで笑顔だった仙人の顔が、驚いた表情に変わりました。

「その指で、なんでもかんでも金に変えたい!」

と言う春吉に、仙人は “フーッ”と大きく息を吐き、
ドスン、と肩を落としました。

そして、薄く笑いながら、静かな口調で話しました。

「春吉、残念ながら、この指だけでは
 なんでも金に変えることは無理だ」

「へっ、そうなの?」

と、とぼけた声を出す春吉に仙人は、

「物凄く辛い修行をして身につけた能力だ」

「なるほど、そうかぁ、修行かぁ……」

「そうだ、お前と会っていなかった時間を使って、
 わたしは修行をした。
 それはそれは辛い修行だったが、わたしはいろいろな
 能力を身につけ、仙人になることができた」

「なるほど…、オレもその能力を使えるようになるには、
 それだけの時間が必要だということかぁ……」

「そのとうりだ、でも逆に、おまえも同じだけ修行をしていれば
 身につけられていたかもしれない、ということだ」

「おまえはオレと会わなかった間に修行して仙人になった。
 オレはその間、なにもせずにただ過ごした。
 友だちが仙人になれるような時間があったのに、
 オレは何者にもなっていない……」

歴然としたその差に、春吉は、落ち込みました。

「いったいオレはなにをやっていたのだろう……」

落ち込む春吉に仙人は優しい声で言いました。

「なにを言ってるんだ」

仙人は人さし指を春吉の鼻に向け、
軽い声で言いました。

「おまえだって立派になっているではないか」

「はぁ?」

と、ぼんやり答える春吉に仙人は言いました。

「立派に春吉になっているではないか」

「え?」

混乱する春吉に構わず仙人は続けました。

「おまえは春吉だ、他の誰でもない完璧な春吉だ。
 なにも続けてられなかったと思っているかもしれない。
 人からもそう言われて落ち込んでるのかもしれない。
 でも、本当にそうか?
 おまえは春吉をやり続けていて、完璧な春吉になっている。
 それは立派なことではないか」

「オレは立派じゃないぞ、友だちが仙人になれた時間が
 あったのに、オレにはなーんも無い」

仙人は首を振ってから言いました。

「そんなはずはない、おまえは気づいていないだけだ。
 その証拠に、死なずに生活できているだろ。
 仕事を長く続けられなくても、仕事が無くならかったから
 生きて来られたのだろう。それはスゴイことだ。
 それにだ!」

仙人は、もう一度、春吉の鼻を指さして、

「働けと言ってくれる友人がいる。
 目の前には仙人の友人だっている。
 これは、なかなかのものじゃないか」

そう言われ、春吉は腕を組み、首をかしげて、

「ん……なるほど……」

と、呟きました。

仙人は、静かな声で言いました。

「仙人になたから立派なんじゃない。
 こうやって、何十年間も生きていられるだけで、
 おまえもわたしも、みんな立派なんだ」

春吉は小首を傾げて少し考えました。

そして、仙人の顔を見て静かに言いました。

「つまり、ここまで生きて来れたオレは、
 立派だと」

「あぁ、立派だ、そして完璧だ」

「完璧か……」

仙人の話を聴いて春吉は、
いまいち理解はできませんでした。

しかし、なんだか気分が軽くなったような気がしました。

二人はその後も、昔話で盛り上がりました。

そして、時間が過ぎ、春吉は帰ることにしました。

「おまえと再会できてよかった」

と言った春吉は、

「また来る」

と、仙人に告げました。

仙人は笑顔で、

「いつでも来い、待ってるぞ」

と、優しい声で言いました。

眩く光る金のヤカンは、ちゃぶ台に置いてきました。

外に出た春吉は何気なく空を見上げました。

白い雲に覆われた隙間から、うっすらとお日様の光が見え、
その眩しさに、春吉は目を細めました。

春吉は目を前へ向けて、静かに一歩踏み出しました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集
『 その指が欲しい 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kobanashi/07/02.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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