※しばらくの間、童話の更新は週1回(土曜日の夜)のみになりますm(_ _)m

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2018年4月14日土曜日

冗談和尚と伝説の竜

昔々、皆を楽しませようと、
冗談ばかり言うひょうきんな和尚さんがいました。

少し前にこんなことがありました。

和尚さんは「明日は大嵐が来る」と大声で叫びながら血相変えて、
これ見よがしに寺の戸締りを厳重にしました。

それを見た村人たちは、慌てて家に戻り、戸や窓を釘で打ち付けて、
戸締りをきっちりし、家の中に閉じこもって、
嵐の過ぎ去るのを待ちました。

誰もいなくなって静かになった村の中を、
和尚さんは大きな声で笑いながら歩きました。

笑い声を聞いた村人たちは

「また和尚さんに騙された」

と、言いながら、外に出てきて近所の人たちと顔を合わせると、

「またいっぱい食わされましたね」

と、なぜか笑顔で挨拶を交わしました。

この村に住む人は、皆、和尚さんのことが好きで、
和尚さんの言う冗談に付き合って楽しんでいたのでした。

そんなどこかのんびりした村に、
ある日、大きな出来事がありました。

それは、些細なことから始まりました。

村の中にある小さな池に、不思議な立札が掲げられたのです。

その立札には、

『 明日正午、天に登ります。池の竜王より 』

と書かれていました。

村では、この池には竜が住んでいると言い伝えがありました。

池は高い木もない草原に囲まれています。

竜が暴れて、池の周りの木々を投げ倒したからそうなったと、
村では言われていました。

村の人間なら誰でも知っている池の竜が、
天に登るというのですから、村人は興味深々です。

しかし、ほとんどの村人たちは顔を合わせて、
「フフフ、」とうっすら笑みを浮かべました。

立札に書かれてある字が、明らかに和尚さんの字だったので、
皆、和尚さんの冗談だとすぐに分かったからです。

村人たちが気づいた通り、これは和尚さんの冗談でした。

実は、和尚さん、冗談を言うことで村人に防災の意識を
持ってもらおうとしていました。

今回は地震が来た時の集合場所として、
池の周辺の草原に、皆に集ってもらおうとしていたのです。

和尚さんは立札を眺めている村人たちの姿を、

(明日のお昼になったら、村人たちの前でまた大笑いをしよう)

と楽しんで見ていました。

かくして翌日です。

雲一つない青い空に浮かぶお日様が、
それそろお昼が近いことを告げていました。

午前中の早い段階から、池の周りの草原には
たくさんの村人たちが集まって来ていました。

和尚さんはその光景を眺めて大喜びです。

村人たちの数はお昼に近づくにつれ、
どんどん増えていき、和尚さんが確認したところ、
殆どの村人が集まっているように見えました。

(これは、一番の冗談になるわい!)

和尚さんは大喜びで、
ワクワクしながらお昼になるのを待ちました。

“ゴーン”

やがて、お寺にのこったお坊さんが突いた、
お昼のカネの音が、静かに響きました。

村人たちの池に向ける目に力が入りました。

和尚さんは(そろそろ、冗談だと言おう)と笑顔を浮かべ、
村人たちの方へ歩み寄ろうとしました。

しかし和尚さんは足を止め、不意に空を眺めました。

朝から、雲一つなくお日様が輝いていた天気が、
一転、雲に覆われ、辺りが暗くなり始めたからです。

村人も暗くなったことに気づき、
おや? と思いかけたとき、それは起きました。

目の前の池から白い光線が放たれたのです。

眩い光の中からは、銀色のウロコをキラキラと光らせながら、
竜が出てきました。

竜は池の中から顔を出したかと思うと、
後から銀色に光る長い胴体が次々に出て来て、
ものすごい勢いで上に上がっていきます。
そして尻尾が出たと思ったら、銀色に光る長い胴体は、
あっという間に上に上がっていき、
雲の中へと吸い込まれるように消えていきました。

その一瞬の光景を目にした大人たちは無言で空を眺め、
子どもは口を開け、池に向かって手を合わせて拝んでいる
おばあさんもいました。

和尚はといえば、目を見開き、口をアングリと開けて、

(あんれまぁー、ほんもんの竜だぁ~)

と、竜が消えて行った雲を見つめて固まってました。

………。

村の中の音を竜が吸い込んで天まで持って行ったかのように、
辺りは静寂に包まれました。

「フーッ」

やがて、溜めこんだ息を徐々に吐くかのように、
村人たちは我に返って行きました。

「見た? 本物の竜だったね」

「あぁ、竜だった」

「私はてっきり和尚さんの冗談かと思ったのに」

「本当だったなぁ」

村人たちが各々話している声で、和尚さんは我に返りました。

村人たちは、まだ現実感が戻って来ず、池の周りで
ざわざわと立ち話をしています。

(さて、どうしたものか)

と、我に返った和尚さんは、冗談が本当になってしまったことを
どう説明しようかと悩んでいました。

そんな時です。

“ドン!”

何かの破裂音のような激しい音とともに、
地面が持ち上がるような衝撃があり、続いて、
激しく体を持っていかれるような揺れが襲って来ました。

「地震だ!」

誰かが叫ぶと同時に、アチコチから声や悲鳴が上がりました。

揺れは水平方向に体を大きく揺さぶり、立っていることができず、
隣同士支え合ったり、しゃがみ込んだり頭を抱えたりし、
子どもをつれた親は、子どもの上に覆いかぶさり、
激しい揺れから子どもを守りました。

和尚さんは急な揺れに慌てましたが、
体を激しく揺らされながらも、足は独りでに
村人たちがいる方に向かって動いていました。

「皆、頭を低くして、今はとにかく耐えろ!」

そう叫ぶと、近くにいた揺れる村人を支えながら、
自分も低い体勢になってひたすら揺れに耐え続けました。

“ガラガラガラ”

どこからか、なにかが崩れる音がします。

「今は、耐えるのじゃ」

和尚さんは近くにいる村人に声をかけ続けました。

やがて大きな揺れは徐々に収まっていき、
揺れじたいが弱まっていきました。

「フーッ」

揺れが完全に止まってしばらくしてから、
本日2度目の息を吐く音が村人の中から漏れ出しました。

和尚さんはすぐに立ち上がり、

「ケガしてる人はいないか!」

と叫びました。

村人たちは、各々の顔を見て確認してから、
和尚さんの方へ向きました。

和尚さんは村人の間を歩き、顔を1人1人確認しながら、
目が合うたびに頷きました。

一通り確認して、少し目を上げ、改めて村を見渡すと、
アチコチで家が倒壊していたり木が倒れていたりして、
めちゃくちゃになっていました。

村人たちも変わり果てた村の姿を眺めました。

ただただ呆然と見渡すもの。
目を向けた瞬間に泣き出すもの。
さまざな感情が、村人の中を行き交いました。

「あれ?」

ふと、1人の村人が呟きました。

「もしかして、全員、ここにいないか?」

村人たちが、それぞれの顔を見合いました。

「確かに、いるいる、皆いる」

村人たちは、それぞれの顔を確認すると、
頷き、手を取り合いお互いの存在を確かめました。

村人たちは、全員、崩れてくるものも倒れてくるものもない、
池の周りの草原に集まっていました。

「奇跡だ……」

村人たちは、こんな大きな地震に見舞われても、
皆が無事だったことを喜びました。

そして、徐々に、この奇跡の切っ掛けを思い出しました。

村人たちはそれぞれに、和尚さんへ視線を向けました。

その中の1人が和尚さんに言いました。

「和尚さん、私たちを池の周りに集めてくださり、
 ありがとうございます」

「ありがとうございます」

村人たちは、和尚さんに手を合わせました。

和尚さんは困った顔しながら、

「いやいやあの立て札は、只の冗談だよ、冗談」

「冗談なんかじゃなかった、本当に竜が出た」

「そうです。竜が出なかったら、私たち、
 もう家に帰っていたかもしれません。
 そうしていたら、あの下敷きになって……」

村人たちは、頷きながら和尚さんにお礼を言い続けました。

「いやはや、困ったのぉ」

和尚さんは困り果てた顔で頭をなでながら、

「まぁ、とにかく、まだ余震がくるかもしれんから、
 皆、しばらくここで待機がよろしかろう。
 村の修復は、その後じゃ」

村人たちが頷くと、余震と思われる揺れが起こり、
村人たちは体を寄せ合って、揺れを忍びました。

その後も、しばらくは身を潜めて生活しましたが、
やがて和尚さんのもと、村人たちは助け合いながら、
村を復興していきました。

そこにはいつも、和尚さんの冗談と、
それを楽しむ村人たちの姿がありました。

そして、池とその周辺の草原を奇跡の場所として、
大切に後世へと伝えていきましたとさ。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 ホラふき和尚 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/05/11a.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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