※童話の更新は週1回(だいたい土曜日の夜)です(^0^)/

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2018年5月12日土曜日

のんびり殿とせっかち家老

「殿、早くお支度を」

優秀な家老が殿を急かせています。

「まぁ、そうあせるな、ゆっくりいこう」

殿はのんびり出かける準備をしています。

「殿、早く出かけないと、
 我々の国の領土が狭くなってしまいますぞ!」

困った顔をしながら家老は訴えるように言いました。

「まぁ、そう急かすな、のんびりいこうや」

あくまでも急ごうとしない殿。

「隣の国の殿さまとお互いの城を出て、出合ったところを、
 両国の境界線にしよう、と、殿がおっしゃったんじゃないですか」

「そうだ、確かに私がそう言った」

「本日、日の出とともに城を出ると、
 隣の国の殿さまと約束したのですから、
 あちらはもうとっくに出発しておりますよ」

「そうだろうなぁ~」

「そうだろうなぁ~、じゃありませんよ、早く出た方が、
 長く歩るけるんだから、どんどん我が国に近づいてきて、
 山を登ってしまいますよ」

「そうか、それでは我が国の領土は狭くなってしまう、
 ということかぁ」

「もう、殿、いまさらオトボケなさらないでください!
 もうだいぶ日が高くなっていますよ」

「ホホホホホー」

と、殿は笑い声を上げながら、家老の肩に“ポン”と手を乗せて、

「説明、ご苦労!」

と、立ち上がりました。

そして家老と共に十数名の家来を引き連れて、
隣の国を目指し、城から出発しました。

隣の国へ繋がっている道は一本しかありません。

その途中に、大きな山があり、この山を境にして、
二つの国は分かれています。

しかし、どこまでがコチラの国で、どこからが隣の国なのか、
ちゃんとした線が今まで決まっていませんでした。

それなので、境目の山の辺りで、もめ事が多くなり、
このさい、国の境をしっかり決めようということになりました。

お互いの殿が出会った場所が、国の境になるということは、
長い距離を歩いた方が、国を広くすることができます。

それなので、家老は
「早く出かけましょう」と急かしていたのですが、
なぜか、殿はのんびりとしていました。

やっと城を出たかと思えば、花が咲いておる、と言って、
さつきの木に近寄ってしばらく見ていたり、
農作業をしている農民を見つけたら、声をかけ、
座り込んでお茶を飲みながら雑談をしたり、
まるでお散歩でも楽しんでいるような振る舞いです。

「殿、先をいそぎませんと」

あせる家老に、殿は、

「そんなにあせるな、のんびりいこうや」

と、笑顔でこたえ、一向に早く進もうとはしませんでした。

やがて、のんびりとお昼を食べ、その後も、ゆったりと歩き
だいぶ日も傾いたころ、少し広い川までやって来ました。

川は道をさえぎるように流れています。

「川を渡れば、すぐに山ですね」

と、家老は殿に言い、先に川を渡り始めました。

川には橋が架かっていません。

家老の腰の辺りまで水はやってきます。

殿も家老の後に続き川に入ると、家来たちが周りを取り囲んで、
水の流れから守ってくれました。

川を渡ると、一面、草原が広がっています。

先頭を歩いていた家老は立ち止まると、
ふり返り、殿に言いました。

「このまま行けば、日暮前には山頂までいけますね」

すると、殿は家老と目を合わさず、正面を向いたままの姿勢で、
軽く首を振り、呟くように声を出しました。

「どうやら、登らなくてもいいようだぞ」

「え?」

家老は一瞬、殿は不思議なことを言う、と思いましたが、

(もしや!)

と気付き、慌てて山の方に向き直りました。

すると、山から馬の大群がやって来るのが見えました。

馬の上には隣の国の殿さまが乗っていました。

「しまった! 馬に乗ってくる手があったか!」

家老は悔しそうに言いました。

隣の国の殿さまは、馬に乗りながら悠々と近づいてきます。

そして、殿を見つけると、馬から降りました。

「これはこれはお殿様、お会いできて光栄です」

隣の国の殿さまが頭を下げたので、コチラの殿も頭を下げ、

「こんなところでお会いできるとは、
 想像もしておりませんでした」

と、言いました。

隣の国の殿さまは、頭を上げると
満面な笑みを浮かべて言いました。

「ここでお会いしたということは、
 ここが国の境ということでよろしいですか?」

コチラの殿が、答えようとするのを家老が制して、
声を上げました。

「恐れながら申し上げます」

隣の国の殿さまは、軽く眉を上げ、
鋭い視線を家老におくりました。

家老は続けます。

「馬に乗って来られたとお見受けられるが、
 それはズルイのではないかと」

隣の国の殿さまは、ニヤリと口の端を上げ、

「馬に乗ってはイケヌと、決めはおらんかったろ、
 それとも、お主はわしが汚い手を使ったと、
 言いがかりをつけたいのか!」

と、不機嫌極まりない表情を浮かべました。

「なっ!」と慌てる家老に、

「まぁ、まぁ、」

と、コチラの殿が手を上げて割って入りました。

そして、深々と頭を下げてから言いました。

「国の境はそこで結構でございます」

その言葉を聞いて、隣の国の殿さまは笑顔で大きく頷き、

「では、これが国の境のしるしだ!」

と、言ったあと、家来たちに目配せをしました。

隣の国の家来たちは、道の真ん中に穴を掘り、
大きな杭(くい)を立てました。

「それでは、ご機嫌よう」

と、隣の国の殿さまは、馬に乗って帰っていきました。

その後ろ姿を見ながら、
家老は悔しそうに握ったこぶしを震わしていました。

殿は、そんな家老の肩に手を乗せて言いました。

「そんなに悔しがるな、国の境は決まった。
 それだけだ。
 今日は、とりあえず帰ろうじゃないか」

殿はそのまま振り返り、渡って来た川に向かいました。

家老は、ゆうゆうとした足取りで帰る
隣の国の殿さまの後ろ姿を、悔しい思いで見ていましたが、
やがて振り返り、殿について歩き出しました。


それから、しばらくたったある日のことです。

隣の国が攻めてくるとの情報が、
家老のもとに入りました。

すぐさま殿に報告すると、殿は“サッ”と立ち上がり、

「やはり来たか!」

と、叫ぶと、すぐに戦の準備に取り掛かりました。

今回の殿の動きは素早いものでした。

すぐに山のふもとに流れる川の手前で陣取り、
あっという間に陣形も整えました。

戦には詳しくない家老は、殿の素早い行動に驚きました。

しばらくして、隣の国の騎馬隊が山から降りてきました。

それを見るやいなや、殿は叫びました。

「矢を放て!!!」

こちらの国の軍隊から次々と矢が放たれ、
山から降りてくる隣の国の兵隊たちが次々と倒れていきました。

あまりにも矢の攻撃が激しかったからでしょう、
隣の国の兵隊たちは、山に引き返し、降りて来なくなりました。

殿はすぐに次の命令を出しました。

「火矢を放て!!!」

矢の先に火をつけて、山に向かって放ちました。

火の矢は、山の手前の草原に次々と刺さり、
山の麓は一面の火に包まれました。

隣の国の家来たちが打ち込んだ、
国の境界のしるしも燃えています。

この火では、山から降りてくるのは不可能でしょう。

いくら火が燃えても、川のこちらまで火の手がくることはありません。

山の中から隣の国の兵が放った矢が飛んできているようでしたが、
全て、川にすら届かず、草原の火の中に落ちていきました。

ここでの戦いは、一週間くらい続きましたが、
殿が作った陣形は中々強固で、とうとう、
隣の国から和議(戦いをやめよう)が提案され、
殿はすぐにそれをのみました。

戦が終わり、殿は家老に言いました。

「あの山は、くれてやったのさ」

殿は得意げな顔で続けます。

「あの地形なら、鉄壁な守りができる。
 なんなら、川だって、戦に使える。
 それにだ、相手は山を越えて来なくてはならない。
 それは、疲れるとは思わんか?」

「はぁ……」

と、気のない返事をする家老に、殿は続けて言いました。

「わしはなぁ、国を広くしたいなんて思わない。
 この国を守れれば、それでいいんだ」
 
家老は殿の考えを始めて知りました。
そして不満そうに言いました。

「それならそうと、仰ってくれればよろしかったのに」

すると殿は、

「だって、家老は戦に詳しくないから、
 話しても理解できんだろ
 それに……」

「それに?」

「家老をからかうと、楽しいからのぉ」

「な、な……」

言葉を失う家老を見て、殿は大笑いをしました。

楽しそうに笑う殿の姿を見て家老は、
殿につかえることができたことをとても嬉しく思いました。


おしまい。



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福娘童話集『 馬坂(まさか)の行逢坂(ゆきあいざか) 』
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━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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