※しばらくの間、童話の更新は週1回(土曜日の夜)のみになりますm(_ _)m

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2018年4月1日日曜日

白い馬の琴の音色[前編]

青年は夕方になると、全身を夕焼け色に染めながら、
うす赤色をした琴を静かに弾いていました。

琴の音は空気に溶け込むように優しく広がり、
それを合図に、仕事を終えた村人たちがやって来て、
琴の音色に耳を傾け、一日の疲れを癒していました。

青年は琴を弾きながら、
いつも、大切な友のことを思い出していました。


むかしむかし、ある草原に
羊飼いの少年と母親が住んでいました。

ある日、少年が羊を散歩させていると、
草原にポツンと、うずくまっている白い馬を見つけました。

キレイで真っ白な毛でおおわれているその体はとても小さく、
生まれて間もないように少年には見えました。

少年は遠くまで見える草原を目をこらして見渡しましたが、
親らしき馬の姿は見えませんでした。

少年は白い馬に近づきました。

馬は四本の足を胴体の下に隠し、
伏せをしたような状態でいました。

少年が近づくと、馬は首を少年とは反対の方向へ向けました。

「心配しないで、イジメたりしないから」

少年は優しい口調で言葉をかけて、
そっと馬のたてがみの辺りを手で触りました。

馬が小刻みに震えているのが少年の手に伝わって来ました。

「大丈夫、大丈夫」

少年は優しくたてがみをなでました。

少年とは反対側を見ていた馬でしたが、
クリッとした丸い目だけを少年の方に向けて、
ちょっとおびえながら見ていました。

少年は、優しい笑みを浮かべながら、
たてがみを優しくなで続けました。

やがて馬は反対側を向いていた頭を、
少年の方へ向けました。

そして、優しく少年の頬へ顔をこすりつけてきました。

「いい子だ、いい子だ、淋しかったろう」

少年は、馬の顔や首を両手で包み込むように撫でまわしました。

馬は嫌がる素振りを見せず、少年に顔をこすり続けました。

やがて少年は、馬を家へ連れて帰ることにしました。

家で少年の帰りを待っていた母親は、少年を見たとたん、

「遅かったねぇ、心配したよ」

と言ったあと、少年の隣にいる馬に気付き、

「おや、なんてキレイな白い馬なんでしょう」

と驚きの声をあげました。

「一里くらい向こうにいたんだ。親の姿が見つからなかったから、
 連れて帰って来たよ」

「そうかい、そのまま放っておいたら、
 オオカミにでも襲われちゃうから、仕方がないね」

と、母親は言ったあと、

「馬ならいろいろと役に立つから、せっかくだからおまえ、
 自分で世話してみるかい」

「いいの! 大事に育てるよ」

少年は目を輝かせてそう言うと、
馬の首の辺りを撫でまわしました。

馬も嬉しそうに、少年の頬に顔をこすりつけてきました。

それから少年は白い馬にモリンという名前をつけて、
大事に育てました。

少年とモリンは、遊ぶときも、羊の世話をするときも、
それこそ兄弟のようにいつも一緒に暮らしました。


やがて数年の時が流れ、モリンは立派な馬に成長し、
少年は青年となりました。

ある日、青年はモリンにまたがり、
いつものように草原を走っていました。

青年はこうして体中に風を浴びている時間が好きでした。

モリンも気持ちよさそうに走っています。

しばらく走っていると、声をかけてくる者がいました。

「相変わらずいい馬だなぁ」

青年が住んでいる村の村長さんでした。

「どうだい、今度の国王主催の競馬大会に、
 村の代表として出てみないか?」

競馬大会に出るなんて思ってもいなかったので
青年は少し驚きました。

同時に、村の代表として出場できるというのは
名誉なことだとも思いました。

「母と相談してもいいですか?」

と、青年は言いましたが、出場する気は満々でした。

家に帰り母に話すと、
母も大喜びで大会に出ることに賛成しました。


そして競馬大会の当日です。

青年とモリンは、たくさんの観客に囲まれた競馬場で、
村の代表としてスタートゲートの中にいました。

観客席の一番目立つ位置には、
国の王様が座って悠々と観戦しています。

コースの横に簡単にロープで区切られただけの観客スペースでは
大勢の観客に交じって、青年の母親と村長、そして村の人々が
手を振って応援してくれているのが見えました。

やがて会場に盛大なファンファーレが鳴り響きました。

青年は、モリンの首の辺りを優しくなでました。

そして、一瞬の静寂のあと、スタートゲートが開き、
大歓声に包まれレースが始まりました。

青年とモリンは見事にスタートを決め、
他の馬を寄せ付けない走りを見せ、
何馬身もの差をつけて、見事、1着でゴールしました。

「やったー!」

観客スペースから大歓声が上がり、
青年とモリンは祝福の渦に包み込まれました。

興奮した観客たちがロープを越えて近づいてきました。

青年は近づいて来た観客たちに引っ張られ、
無理やりモリンから降ろされ、
見ず知らずの群衆に取り囲まれてしまいました。

青年は、歓喜に覆われながらも、モリンの姿を探しました。

あっちを見ても、こっちを見ても、群衆に遮られ、
モリンの姿が見えません。

「おめでとー!」

母親が抱き付いてきました。

後ろには村長や村の人々も満面な笑顔で
祝福してくれていました。

「ありがとう」

と、青年は言ったあと、

「母さん、モリンはどこ?」

「え? 見なかったけど、それよりスゴイじゃないか!」

と、嬉しそうな笑顔のまま答える母親の顔を見て、
青年は、喜んでもらえて嬉しい、と思うのと同時に、
ちょっとした不安がよぎりました。

そして時間が過ぎ、歓喜に沸いた観客たちの姿も減って行き、
競馬場には、青年と村人たちだけになっていました。

青年と母親と村長は、大会関係者に詰め寄っていました。

「モリンを…、私の馬を返してください!」

青年は強い口調で言いましたが、関係者は横柄な態度で、

「お前たちもしつこいな、何度も言っているように、
 王様が気に入ったからと言って持ち帰ったよ」

「気に入ったって、モリンは私の馬です。
 いくら王様と言っても、勝手に持っていけるはずがありません」

「だから、金貨を渡したろ」

関係者は面倒くさそうに言いました。

「金貨はお返ししますから、馬を返してください!」

青年は金貨を関係者の手に渡しました。

「あー、うっとうしい 汚い手で触るな!」

と、関係者は青年を蹴り飛ばしました。

激しく倒れ込む青年に、母親と村長は寄り添いました。

関係者たちは、青年が離れたのをいいことに、
逃げるように自分たちの馬に乗り、
そのまま走り去っていきました。

去り際に、関係者たちが投げ捨てた金貨が、
青年の前に、落ちてきました。

「待て!」

と、後を追おうとする青年を、
母親と村長が必死に止めました。

青年は、目の前にある金貨を握りしめ、
思いっきり地面に叩きつけました。

「なんでだ! なんでだ!」

と、青年は叫び、やがて、
力なく肩を落としてうなだれました。

母親と村長は寄り添うように青年を抱えて、
静かに村へ帰っていきました。



[後編]へつづく……

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