※しばらくの間、童話の更新は週1回(土曜日の夜)のみになりますm(_ _)m

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2018年4月14日土曜日

冗談和尚と伝説の竜

昔々、皆を楽しませようと、
冗談ばかり言うひょうきんな和尚さんがいました。

少し前にこんなことがありました。

和尚さんは「明日は大嵐が来る」と大声で叫びながら血相変えて、
これ見よがしに寺の戸締りを厳重にしました。

それを見た村人たちは、慌てて家に戻り、戸や窓を釘で打ち付けて、
戸締りをきっちりし、家の中に閉じこもって、
嵐の過ぎ去るのを待ちました。

誰もいなくなって静かになった村の中を、
和尚さんは大きな声で笑いながら歩きました。

笑い声を聞いた村人たちは

「また和尚さんに騙された」

と、言いながら、外に出てきて近所の人たちと顔を合わせると、

「またいっぱい食わされましたね」

と、なぜか笑顔で挨拶を交わしました。

この村に住む人は、皆、和尚さんのことが好きで、
和尚さんの言う冗談に付き合って楽しんでいたのでした。

そんなどこかのんびりした村に、
ある日、大きな出来事がありました。

それは、些細なことから始まりました。

村の中にある小さな池に、不思議な立札が掲げられたのです。

その立札には、

『 明日正午、天に登ります。池の竜王より 』

と書かれていました。

村では、この池には竜が住んでいると言い伝えがありました。

池は高い木もない草原に囲まれています。

竜が暴れて、池の周りの木々を投げ倒したからそうなったと、
村では言われていました。

村の人間なら誰でも知っている池の竜が、
天に登るというのですから、村人は興味深々です。

しかし、ほとんどの村人たちは顔を合わせて、
「フフフ、」とうっすら笑みを浮かべました。

立札に書かれてある字が、明らかに和尚さんの字だったので、
皆、和尚さんの冗談だとすぐに分かったからです。

村人たちが気づいた通り、これは和尚さんの冗談でした。

実は、和尚さん、冗談を言うことで村人に防災の意識を
持ってもらおうとしていました。

今回は地震が来た時の集合場所として、
池の周辺の草原に、皆に集ってもらおうとしていたのです。

和尚さんは立札を眺めている村人たちの姿を、

(明日のお昼になったら、村人たちの前でまた大笑いをしよう)

と楽しんで見ていました。

かくして翌日です。

雲一つない青い空に浮かぶお日様が、
それそろお昼が近いことを告げていました。

午前中の早い段階から、池の周りの草原には
たくさんの村人たちが集まって来ていました。

和尚さんはその光景を眺めて大喜びです。

村人たちの数はお昼に近づくにつれ、
どんどん増えていき、和尚さんが確認したところ、
殆どの村人が集まっているように見えました。

(これは、一番の冗談になるわい!)

和尚さんは大喜びで、
ワクワクしながらお昼になるのを待ちました。

“ゴーン”

やがて、お寺にのこったお坊さんが突いた、
お昼のカネの音が、静かに響きました。

村人たちの池に向ける目に力が入りました。

和尚さんは(そろそろ、冗談だと言おう)と笑顔を浮かべ、
村人たちの方へ歩み寄ろうとしました。

しかし和尚さんは足を止め、不意に空を眺めました。

朝から、雲一つなくお日様が輝いていた天気が、
一転、雲に覆われ、辺りが暗くなり始めたからです。

村人も暗くなったことに気づき、
おや? と思いかけたとき、それは起きました。

目の前の池から白い光線が放たれたのです。

眩い光の中からは、銀色のウロコをキラキラと光らせながら、
竜が出てきました。

竜は池の中から顔を出したかと思うと、
後から銀色に光る長い胴体が次々に出て来て、
ものすごい勢いで上に上がっていきます。
そして尻尾が出たと思ったら、銀色に光る長い胴体は、
あっという間に上に上がっていき、
雲の中へと吸い込まれるように消えていきました。

その一瞬の光景を目にした大人たちは無言で空を眺め、
子どもは口を開け、池に向かって手を合わせて拝んでいる
おばあさんもいました。

和尚はといえば、目を見開き、口をアングリと開けて、

(あんれまぁー、ほんもんの竜だぁ~)

と、竜が消えて行った雲を見つめて固まってました。

………。

村の中の音を竜が吸い込んで天まで持って行ったかのように、
辺りは静寂に包まれました。

「フーッ」

やがて、溜めこんだ息を徐々に吐くかのように、
村人たちは我に返って行きました。

「見た? 本物の竜だったね」

「あぁ、竜だった」

「私はてっきり和尚さんの冗談かと思ったのに」

「本当だったなぁ」

村人たちが各々話している声で、和尚さんは我に返りました。

村人たちは、まだ現実感が戻って来ず、池の周りで
ざわざわと立ち話をしています。

(さて、どうしたものか)

と、我に返った和尚さんは、冗談が本当になってしまったことを
どう説明しようかと悩んでいました。

そんな時です。

“ドン!”

何かの破裂音のような激しい音とともに、
地面が持ち上がるような衝撃があり、続いて、
激しく体を持っていかれるような揺れが襲って来ました。

「地震だ!」

誰かが叫ぶと同時に、アチコチから声や悲鳴が上がりました。

揺れは水平方向に体を大きく揺さぶり、立っていることができず、
隣同士支え合ったり、しゃがみ込んだり頭を抱えたりし、
子どもをつれた親は、子どもの上に覆いかぶさり、
激しい揺れから子どもを守りました。

和尚さんは急な揺れに慌てましたが、
体を激しく揺らされながらも、足は独りでに
村人たちがいる方に向かって動いていました。

「皆、頭を低くして、今はとにかく耐えろ!」

そう叫ぶと、近くにいた揺れる村人を支えながら、
自分も低い体勢になってひたすら揺れに耐え続けました。

“ガラガラガラ”

どこからか、なにかが崩れる音がします。

「今は、耐えるのじゃ」

和尚さんは近くにいる村人に声をかけ続けました。

やがて大きな揺れは徐々に収まっていき、
揺れじたいが弱まっていきました。

「フーッ」

揺れが完全に止まってしばらくしてから、
本日2度目の息を吐く音が村人の中から漏れ出しました。

和尚さんはすぐに立ち上がり、

「ケガしてる人はいないか!」

と叫びました。

村人たちは、各々の顔を見て確認してから、
和尚さんの方へ向きました。

和尚さんは村人の間を歩き、顔を1人1人確認しながら、
目が合うたびに頷きました。

一通り確認して、少し目を上げ、改めて村を見渡すと、
アチコチで家が倒壊していたり木が倒れていたりして、
めちゃくちゃになっていました。

村人たちも変わり果てた村の姿を眺めました。

ただただ呆然と見渡すもの。
目を向けた瞬間に泣き出すもの。
さまざな感情が、村人の中を行き交いました。

「あれ?」

ふと、1人の村人が呟きました。

「もしかして、全員、ここにいないか?」

村人たちが、それぞれの顔を見合いました。

「確かに、いるいる、皆いる」

村人たちは、それぞれの顔を確認すると、
頷き、手を取り合いお互いの存在を確かめました。

村人たちは、全員、崩れてくるものも倒れてくるものもない、
池の周りの草原に集まっていました。

「奇跡だ……」

村人たちは、こんな大きな地震に見舞われても、
皆が無事だったことを喜びました。

そして、徐々に、この奇跡の切っ掛けを思い出しました。

村人たちはそれぞれに、和尚さんへ視線を向けました。

その中の1人が和尚さんに言いました。

「和尚さん、私たちを池の周りに集めてくださり、
 ありがとうございます」

「ありがとうございます」

村人たちは、和尚さんに手を合わせました。

和尚さんは困った顔しながら、

「いやいやあの立て札は、只の冗談だよ、冗談」

「冗談なんかじゃなかった、本当に竜が出た」

「そうです。竜が出なかったら、私たち、
 もう家に帰っていたかもしれません。
 そうしていたら、あの下敷きになって……」

村人たちは、頷きながら和尚さんにお礼を言い続けました。

「いやはや、困ったのぉ」

和尚さんは困り果てた顔で頭をなでながら、

「まぁ、とにかく、まだ余震がくるかもしれんから、
 皆、しばらくここで待機がよろしかろう。
 村の修復は、その後じゃ」

村人たちが頷くと、余震と思われる揺れが起こり、
村人たちは体を寄せ合って、揺れを忍びました。

その後も、しばらくは身を潜めて生活しましたが、
やがて和尚さんのもと、村人たちは助け合いながら、
村を復興していきました。

そこにはいつも、和尚さんの冗談と、
それを楽しむ村人たちの姿がありました。

そして、池とその周辺の草原を奇跡の場所として、
大切に後世へと伝えていきましたとさ。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 ホラふき和尚 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/05/11a.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2018年4月7日土曜日

あまのじゃくな戦い

「どうだい? 俺と勝負しないかい」

「おもしろい、やろうじゃないか」

昔々、ある村に住んでいる金蔵と富吉という名の
二人の男が勝負をすることになりました。

二人とも村で1、2位を争う「あまのじゃく」と言われていました。

「あまのじゃく」とは、晴れている日に「いい天気ですねぇ」などと
話しかけられると「乾燥しているから、雨の日の方がいい天気だ」
と、わざと反対のことを答えるような人のことを言います。

そんな「あまのじゃく」な二人が、1位を争うべく、
勝負をするというのです。

「やり方はこうだ」

金蔵が富吉に言いました。

「明日からお互い、なにを言われても、
 『うん』と返事をしないで「あまのじゃく」のことを言うんだ」

「なるほど、それはいい、ま、勝つのは俺だな」

と富吉はニヤリと笑いながら言うので、

「フン、吠え面かくなよ」

と金蔵も言い返しました。

二人は、しばらくにらみ合ってから、くるり背を向けて離れ、
あまのじゃく1位の座をかけた、
『あまのじゃくな戦い』の幕が開きました。

───翌日。

富吉は朝から、川で魚釣りをしていました。

(今日の晩御飯は豪勢な魚が食べられるな)

カゴの中身を見て富吉はご機嫌な笑顔を浮かべました。

日も傾いて来たので、そろそろ帰ろうと仕度をしていると、

「コレはコレは富吉さん」

不意に、声をかけられました。

富吉はイヤな気分になりましたが、平静を装った顔で返事をしました。

「ヤーヤー、金蔵さん、こんばんは」

金蔵の目は、魚がたくさん入っているカゴに
向けられていました。

「富吉さん、今日は大量の魚が釣れて良かったですねぇ」

『うん、良かった』などと答えてしまっては勝負に負けてしまいます。
富吉はすぐに言いました。

「ふん、今日は魚を食べる気分じゃないから、
 この魚は全部捨てるさ」

そして持っていた魚がたくさん入ったカゴを
“ポイッ”と投げ捨ててしまいました。

「おやおやそうですか」

金蔵は笑いながら、

「捨てるなんてもったいない、どーれ私がもらっていきましょう」

と、富吉が捨てたカゴを拾うと、素早い足取りで、
あっという間に走り去っていきました。

「金蔵め! してやられた!」

富吉は走り去る金蔵を背中を見ながら、

「キー!!!!!」

と悔しがり、釣竿を地面に叩きつけました。

悔しくて、たまらない富吉はなんとか仕返してやろうと、
考えを巡らせました。

そして何日かたった後。

富吉は馬を連れて金蔵の田んぼへ向かいました。

金蔵は田植えをしている途中で、その付近には、
まだ植えられていない苗が山積みなっていました。

(しめしめ)

と思った富吉は、金蔵に声をかけました。

「コレはコレは金蔵さん、田植えですか」

富吉の顔を見た金蔵は、明らかに
“しまった!”という表情をしました。

「ヤーヤー、富吉さん、私は田植えなんてしてませんよ。
 今日は、苗を捨ててるんだよ」

金蔵がそう言うので、富吉は(しめた!)とばかりに
得意げな表情で言いました。

「おやおやそうですか、捨てるなんてもったいない、
 この苗は私がもらいましょう」

と、すばやく大量の苗を連れて来た馬に乗せ、
一目散に走り去りました。

そして、自分の田んぼに行くと、サッサ、サッサ、と
ものすごい速さで、苗を植えてしまいました。

これで金蔵が苗を返せと言っても返せません。
苗が植えてある田んぼを眺め、悔しがる金蔵の顔を
思い浮かべながら満足そうに笑いました。

その後、金蔵は苗を返せと言って来ることもなく、
それどころか、なぜか二人は顔を合わすことすらなく、
季節は変わり、夏が過ぎ、秋になってしまいました。

夏の間中、一生懸命に育てた苗は、こうべを垂れ、
黄金色の立派な稲に成長しました。

富吉は満足そうに眺めると、せっせと稲刈りを始めました。

大半の稲を刈り終わったころです。

「コレはコレは、富吉さん」

と、それは久しぶりに聞くイヤな声でした。

声のする方を向くと荷車をひいた馬の横に、
満面な笑顔を浮かべた金蔵が立っています。

富吉は季節が過ぎるのと一緒に忘れていましたが、
金蔵の声を聞いて『勝負』のことを思い出しました。

(金蔵、忘れてるといいがなぁ)

などと淡い思いを込めながら、

「ヤーヤー、金蔵さん、なにか御用ですか?」

と、返事をしました。

「富吉さん、今日は稲刈りですか?」

(やっぱりそう来たか!)

金蔵が勝負を仕掛けているのは分かっているので、
富吉は仕方なく答えました。

「いいや、稲を捨ててるんだよ」

金蔵は笑みを浮かべながら、

「おやおや、それはもったいない、
 捨てるなら、その稲は私がもらっていきましょう」

と、富吉が刈った稲を荷車に積み込みました。

せっかく育てた稲でしたが、元をたどれば金蔵の苗です。

富吉は悔しい気持もありましたが、
(悔しいが仕方ないか)と諦めの思いも持っていました。

稲を積み終えて、馬車に乗って「では」と言う金蔵が
“ニタ~”とした笑顔を浮かべました。

それを目にした途端、富吉の頭に、ある思いが浮かびました。

(金蔵は“わざと”苗を盗ませて、
 俺に稲を育てさせたのではないのか?)

それなら、苗を返せと言ってこなかったことにも頷けます。

金蔵のあの笑顔の裏には、そんなたくらみが隠されているようで、
富吉は、悔しくて悔しくてたまらなくなりました。

そして思わず、金蔵の馬車の後を追うように歩き出しました。

(なんとか金蔵に、一泡ふかすことはできないか)

歩きながら頭を巡らしました。

そうこうしているうちに、馬車は進み、
やがて金蔵の家の蔵の前でとまりました。

金蔵は馬車から降りると、すぐに稲を降ろし始めました。

「コレはコレは、金蔵さん」

と富吉が声をかけると、富吉がついてきていることに
気づいていなかった金蔵はビックリしました。

「ヤーヤー、富吉さん」

稲を両手に抱えながら金蔵が答えると、

すぐに富吉が、

「金蔵さん、稲を自分の蔵に入れるのですか?」

「えっ、いや、これはー」

少しうろたえた金蔵でしたが、

「そんな訳はない、こ、この稲は、そのー、
 お前の蔵に入れてやろうとしてるのだ」

と、金蔵は厳しい表情で言いました。

そのまま金蔵が悔しそうに俯いてしまったのを見て、
富吉は笑いながら言いました。

「終わりに、しないか」

「え?」

不思議そうな顔をしている金蔵に富吉は、

「こんな不毛な勝負は終わりにしようではないか。
 ついでに、あまのじゃくでいることも面倒くさい。
 俺はそれも終わりにしようと思ってる」

聞いていた金蔵の顔が少し明るくなりました。

富吉は続けます。

「俺は苗をお前から取り上げたが、こうして立派な稲に育てた。
 どうだ、勝負は引き分けということで、半分ずつ分けないか?」

「あー、まぁ、そう言うことなら……」

と、金蔵は微笑み、少し油断して、

「うん、そうしよう」

と言ったとたん富吉は、

「やった! 『うん』って言った! 俺の勝ちだ!」

と大喜びしました。

「かーぁっ!!!!!」

金蔵の顔は一気に赤くなりました。

富吉は笑いながら、

「冗談だ、冗談、終わり、終わり」

と言いながら、金蔵の肩をバンバンと叩きました。

金蔵は半信半疑ながらも、赤かった顔が徐々に引いていきました。

そして二人は大笑いし、稲を半分ずつそれぞれの蔵に入れました。

こうして、しょうもない、あまのじゃくな戦いは、
引き分けで幕を閉じました。

そして、二人は「あまのじゃく」であることも
捨てたのでした。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 あまのじゃく比べ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/05/10.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


今回のお話の二人まで行かないまでも、
どうしても「あまのじゃく」なことを言ってしまうこと、って、
ありますよね。

特に反抗期の年頃だったころなんて、なぜか言われたことに
素直に「そうだよ」って言えませんでした。

「プライド」だとか「見栄」だとかが、
素直になることを邪魔しているんでしょね。

「どうにかならないものでしょうか?」

と思うところですが、逆に考えてみるとどうでしょう。

素直になれないことは、自分が持っている
「プライド」や「見栄」だということです。

余計な「プライド」や「見栄」なんて捨ててしまえ!

なんていう人もいますが、それはあくまでも“余計な”もののことで、
本来、人間にとって「プライド」や「見栄」は大切なもの
だと思うのです。

それが無くなったら、生きていけないと思います。

ですから「なんか素直になれないなぁ」
「あまのじゃくになっちゃったなぁ」と思うことがあったら、
その時の言われたことや、言ったことの中に隠れている
自分の「プライド」や「見栄」に注目してみましょう。

それが“余計な”ものなら捨てちゃいましょう。
大切なものなら、しっかりと持って生きて行きましょう。



今日のHappy♪ポイント

『 「プライド」や「見栄」は大事! 』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2018年4月1日日曜日

白い馬の琴の音色[前編]

青年は夕方になると、全身を夕焼け色に染めながら、
うす赤色をした琴を静かに弾いていました。

琴の音は空気に溶け込むように優しく広がり、
それを合図に、仕事を終えた村人たちがやって来て、
琴の音色に耳を傾け、一日の疲れを癒していました。

青年は琴を弾きながら、
いつも、大切な友のことを思い出していました。


むかしむかし、ある草原に
羊飼いの少年と母親が住んでいました。

ある日、少年が羊を散歩させていると、
草原にポツンと、うずくまっている白い馬を見つけました。

キレイで真っ白な毛でおおわれているその体はとても小さく、
生まれて間もないように少年には見えました。

少年は遠くまで見える草原を目をこらして見渡しましたが、
親らしき馬の姿は見えませんでした。

少年は白い馬に近づきました。

馬は四本の足を胴体の下に隠し、
伏せをしたような状態でいました。

少年が近づくと、馬は首を少年とは反対の方向へ向けました。

「心配しないで、イジメたりしないから」

少年は優しい口調で言葉をかけて、
そっと馬のたてがみの辺りを手で触りました。

馬が小刻みに震えているのが少年の手に伝わって来ました。

「大丈夫、大丈夫」

少年は優しくたてがみをなでました。

少年とは反対側を見ていた馬でしたが、
クリッとした丸い目だけを少年の方に向けて、
ちょっとおびえながら見ていました。

少年は、優しい笑みを浮かべながら、
たてがみを優しくなで続けました。

やがて馬は反対側を向いていた頭を、
少年の方へ向けました。

そして、優しく少年の頬へ顔をこすりつけてきました。

「いい子だ、いい子だ、淋しかったろう」

少年は、馬の顔や首を両手で包み込むように撫でまわしました。

馬は嫌がる素振りを見せず、少年に顔をこすり続けました。

やがて少年は、馬を家へ連れて帰ることにしました。

家で少年の帰りを待っていた母親は、少年を見たとたん、

「遅かったねぇ、心配したよ」

と言ったあと、少年の隣にいる馬に気付き、

「おや、なんてキレイな白い馬なんでしょう」

と驚きの声をあげました。

「一里くらい向こうにいたんだ。親の姿が見つからなかったから、
 連れて帰って来たよ」

「そうかい、そのまま放っておいたら、
 オオカミにでも襲われちゃうから、仕方がないね」

と、母親は言ったあと、

「馬ならいろいろと役に立つから、せっかくだからおまえ、
 自分で世話してみるかい」

「いいの! 大事に育てるよ」

少年は目を輝かせてそう言うと、
馬の首の辺りを撫でまわしました。

馬も嬉しそうに、少年の頬に顔をこすりつけてきました。

それから少年は白い馬にモリンという名前をつけて、
大事に育てました。

少年とモリンは、遊ぶときも、羊の世話をするときも、
それこそ兄弟のようにいつも一緒に暮らしました。


やがて数年の時が流れ、モリンは立派な馬に成長し、
少年は青年となりました。

ある日、青年はモリンにまたがり、
いつものように草原を走っていました。

青年はこうして体中に風を浴びている時間が好きでした。

モリンも気持ちよさそうに走っています。

しばらく走っていると、声をかけてくる者がいました。

「相変わらずいい馬だなぁ」

青年が住んでいる村の村長さんでした。

「どうだい、今度の国王主催の競馬大会に、
 村の代表として出てみないか?」

競馬大会に出るなんて思ってもいなかったので
青年は少し驚きました。

同時に、村の代表として出場できるというのは
名誉なことだとも思いました。

「母と相談してもいいですか?」

と、青年は言いましたが、出場する気は満々でした。

家に帰り母に話すと、
母も大喜びで大会に出ることに賛成しました。


そして競馬大会の当日です。

青年とモリンは、たくさんの観客に囲まれた競馬場で、
村の代表としてスタートゲートの中にいました。

観客席の一番目立つ位置には、
国の王様が座って悠々と観戦しています。

コースの横に簡単にロープで区切られただけの観客スペースでは
大勢の観客に交じって、青年の母親と村長、そして村の人々が
手を振って応援してくれているのが見えました。

やがて会場に盛大なファンファーレが鳴り響きました。

青年は、モリンの首の辺りを優しくなでました。

そして、一瞬の静寂のあと、スタートゲートが開き、
大歓声に包まれレースが始まりました。

青年とモリンは見事にスタートを決め、
他の馬を寄せ付けない走りを見せ、
何馬身もの差をつけて、見事、1着でゴールしました。

「やったー!」

観客スペースから大歓声が上がり、
青年とモリンは祝福の渦に包み込まれました。

興奮した観客たちがロープを越えて近づいてきました。

青年は近づいて来た観客たちに引っ張られ、
無理やりモリンから降ろされ、
見ず知らずの群衆に取り囲まれてしまいました。

青年は、歓喜に覆われながらも、モリンの姿を探しました。

あっちを見ても、こっちを見ても、群衆に遮られ、
モリンの姿が見えません。

「おめでとー!」

母親が抱き付いてきました。

後ろには村長や村の人々も満面な笑顔で
祝福してくれていました。

「ありがとう」

と、青年は言ったあと、

「母さん、モリンはどこ?」

「え? 見なかったけど、それよりスゴイじゃないか!」

と、嬉しそうな笑顔のまま答える母親の顔を見て、
青年は、喜んでもらえて嬉しい、と思うのと同時に、
ちょっとした不安がよぎりました。

そして時間が過ぎ、歓喜に沸いた観客たちの姿も減って行き、
競馬場には、青年と村人たちだけになっていました。

青年と母親と村長は、大会関係者に詰め寄っていました。

「モリンを…、私の馬を返してください!」

青年は強い口調で言いましたが、関係者は横柄な態度で、

「お前たちもしつこいな、何度も言っているように、
 王様が気に入ったからと言って持ち帰ったよ」

「気に入ったって、モリンは私の馬です。
 いくら王様と言っても、勝手に持っていけるはずがありません」

「だから、金貨を渡したろ」

関係者は面倒くさそうに言いました。

「金貨はお返ししますから、馬を返してください!」

青年は金貨を関係者の手に渡しました。

「あー、うっとうしい 汚い手で触るな!」

と、関係者は青年を蹴り飛ばしました。

激しく倒れ込む青年に、母親と村長は寄り添いました。

関係者たちは、青年が離れたのをいいことに、
逃げるように自分たちの馬に乗り、
そのまま走り去っていきました。

去り際に、関係者たちが投げ捨てた金貨が、
青年の前に、落ちてきました。

「待て!」

と、後を追おうとする青年を、
母親と村長が必死に止めました。

青年は、目の前にある金貨を握りしめ、
思いっきり地面に叩きつけました。

「なんでだ! なんでだ!」

と、青年は叫び、やがて、
力なく肩を落としてうなだれました。

母親と村長は寄り添うように青年を抱えて、
静かに村へ帰っていきました。



[後編]へつづく……

白い馬の琴の音色[後編]

[前編]はコチラから


村に戻った青年は、すっかり落ち込んでしまいました。

顔を洗っても、食事中でも、羊を散歩に連れて行っても、
モリンとの思い出が頭をよぎります。

落ち込む青年の姿を見て、母親も村長も、
そして村の多く人たちが心を痛めました。

なにをやっていても、まったく集中できず、
青年は、家に閉じこもることが多くなっていきました。

意気消沈していた青年は、ある夜、夢を見ました。

草原の向う側から、モリンが走って近づいて来る夢です。

青年はモリンの首の辺りに抱き付きました。

再開を喜んで泣いている青年の耳に、
声が聞こえてきました。

「私はもうすぐ、あなたのそばに現れます」

「え? もう、会っているじゃないか」

「いいえ、本当に会えるのです。私と出会ったら、
 私の体で、琴を作ってください」

「おまえの体で、琴?」

「はい、そして、ずっとそばに置いて弾いてください。
 それが私の願いです」

「えっ、願い……、モリン、どうしたんだい?」

モリンは急に踵を返しました。

そして、振り向きもせずに青年から遠ざかって行きます。

「モリン、どこへ行くんだい、モリン、モリン……」

青年は夢の中でモリンを追いかけながら、
ゆっくりと目を覚ましました。

目覚めるとき、モリンの名前を呼んでいた感覚がありました。

「あれは、夢?」

と、ぼんやり思っている時でした。

“コン、コン……、コンコン……”

なにかが家の戸を叩いているような音がしました。

青年は布団から出て、薄暗い部屋を歩き、
家の戸を開けました。

「───モリン?」

そこにはモリンが立っていました。

青年は信じられない、と、目を丸くしてモリンの顔を見ました。

しかし、その顔は真っ赤に染まっていました。

目を凝らすまでもなく、モリンの体には、
無数の切り傷と、無情にも何本もの矢が突き刺さっていました。

モリンのキレイだった白い体は、血に染まり、
真っ赤に変わっていました。

「なんてヒドイ!」

青年は泣きながら、モリンの体に刺さっている矢を抜きました。

抜かれた矢からは、血が噴き出してきます。

青年はモリンの血を浴びながら、
慌てて血の噴き出るのを両手で押えました。

「大丈夫だ、大丈夫だ」

必死に傷口を押えている青年の頬に、
モリンは優しく顔をすり寄せてきました。

「こんな思いをさせて、ごめんよモリン」

青年は、片手で傷口を押え、
片手でモリンの頬の辺りを擦りました。

モリンは膝から折れるように、崩れました。

横たわったモリンの顔を、青年は抱えました。

「どうしたモリン」

青年は分かっていました。しかし、話しかけ続けました。

「元気になって、もう一度、草原を一緒に走ろう……」

モリンは、力なく青年の頬に顔をこすりつけました。

「自由に、誰にも束縛されずに、気持ちよく風になろう、
 なぁ、モリン……」

青年の頬にこすりつけるモリンの顔から、
力が徐々に抜けていきました。

そして、静かに目を閉じました。

「───、モリン……」

青年は静かな動作で、力強くしっかりと、
モリンを抱きしめました。

「ごめんな、ごめんな」

青年は、モリンを抱きしめながら、何度も何度も謝りました。

「モリン……」

青年はモリンを抱え、しばらくその場にいました。

どのくらいの時が経ったのでしょう、
青年の近くに、一頭の馬が駆け寄って、
立ち止まる音が聞えました。

青年は構いもせず、モリンを抱きしめていました。

すると頭の上の方から勇ましい声が聞こえてきました。

「青年、その馬はおまえの馬か」

青年は答えませんでした。

勇ましい声は構わず続けます。

「その馬は、実に立派な馬だ。
 おまえのところに帰りたかったのだろう、
 何度も、城を抜け出そうとした。
 その度に、王はその馬を捉え鞭で打った」

青年はハッと、目を見開きました。

勇ましい声は話を続けました。

「そして今夜も抜け出そうとして、走り出した馬に向けて、
 王は『逃げられるくらいなら殺してしまえ!』と、
 矢を放ったのだ」

青年はたまらず声の主の方へ、
悲しみと怒りで充血した目を向けました。

声の主の顔を見て、馬に乗っているのは女の兵士だと、
青年は気づきました。

女の兵士は馬から降り、青年の前に膝まづいて、

「申し訳ないことをした」

と頭を下げました。

青年がなにも言えずにいると、兵士は顔を上げ、

「さぞ、無念であろう」

と、青年をしっかり見据えてから、

「さすがに、私も、あの王には愛想が尽きた。
 王が派遣したその馬の追手を倒し、私はここへ来た」

と言ってから、鋭いまなざしで低い声で言いました。

「おまえの無念、そしてその馬の敵(カタキ)は、
 私が取ってやる!」

兵士は踵を返すと、乗って来た馬に飛び乗り、

「さらばだ」

と、言葉を残し、颯爽と走り去っていきました。

青年は、遠ざかる馬の後ろ姿を、
黙ってしばらく見つめていました。



青年は、今日も琴を弾いています。

大親友の馬の体で作った、うすい赤色をした琴です。

青年は優しい音を奏でながら、心の中でささやきました。

(あの後、革命が起こり、王様はこの世から追放されたよ。
 おまえのおかげで、前よりも平和な世になった)

琴の音色を聞くために集まった村人たちの後ろに、
馬に乗った女性が、長い髪の毛を風に揺らしながら
静かに琴の音色に耳を傾けていました。

「国王そろそろ」

近くにいた者に耳打ちされ「ウム」と頷いた女性は、

「いつ聞いても良い音だ」

と、呟いて、音を立てないように
静かに馬の足を進め去って行きました。

夕日に包まれながら青年は琴を弾きました。

馬のたてがみを優しくなでるように、
静かに流れる琴の音は、
今日も村人たちの疲れを優しく癒してくれました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 スーホーの白いウマ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/world/05/05.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


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