※童話の更新は週1回(だいたい土曜日の夜)です(^0^)/

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2017年9月30日土曜日

氷の食べ方

昔々の話です。

段々、明るい時間が短くなり、
薄着だと肌寒く感じる冬の始まりの頃。

寝ていた男の子は、まだ薄暗い時間に
寒さで目を覚ましてしまいました。

全然眠くなかった男の子は、寒いなぁ、
と思いながらも布団から起き上り、
厚着をしてから家の戸をあけました。

吐く息は白く、肌には冷たくて固い空気が当たりました。

「寒っ」

男の子は身を縮めながら、辺りを見渡しました。

いつも見慣れた景色が、なんだか寒さで縮こまっているような
感じがしました。

ふと、近くの池が一面真っ白におおわれているのが
目に入りました。

なんだろう?

この池がこんな色に見えたことがなかったので、
男の子は疑問に思い、家を出て池に近づいていきました。

そばまで行くと、池は一面、真っ白に覆われていました。

男の子はそっとしゃがんで、白くなった池を触ってみました。

「うぁーっ、冷たい!」

そう言ってすぐに手を引っ込めましたが、
もう一度触ってみると、池が冷たくて
固くなっているのが分かりました。

男の子は、なん回か池を叩いてみました。

“コンコン”

すると、池は割れて、下から水が出てきました。

男の子はおそるおそる割れたカケラをとり、
急いで家に持って帰りました。

家に帰ると、父が寒そうに身を縮めながら、
ヤカンの下がった囲炉裏に、薪をくめ火をつけていました。

「父ちゃん! 池が、こんなになってたよ」

男の子は、自分の顔よりも大きなカケラを両手で持ち上げて
父に報告しました。

「おぉ、それは氷だなぁ、どおりで寒いはずだ」

「氷、これが氷かぁ、父ちゃん、オレ、氷、初めて見たよ」

「おう、そうだったな、前に住んでいたところは、
 一年中暖かくて、氷はらなかったもんなぁ」

この家族は、今年の夏に、母親の地元であるこの地に、
訳あって移り住んで来たのでした。

冷蔵庫の無い時代、氷を見ないでいることは、
珍しいことではありませんでした。

「そうだ息子よ、初氷は薬になるというから一口食べてみろ」

「うん」

息子は元気よく返事をすると、氷にかみつきました。

“ガリッ”

「父ちゃ~ん、固くて噛みきれないよ」

息子は何度かかじりましたが、厚い氷はびくともしません。

「どれ、貸してみろ」

父は手を伸ばし、息子から氷をもらいました。

「いいかよく見てろよ、こうやって」

“ガリッ”

と、父は息子にカッコイイところを見せようと
勢いよくかじりました。

しかし、何度かじっても、氷はビクともしません。

父は、氷をかじりながら、

(こんなに固いのか、しかも冷たい)

と思っていました。

実は、父も氷を触るのが初めてだったのです。

「父ちゃんでもダメかぁ~」

と、息子はガッカリしました。

「どれ、こういうときはだな」

父は、またカッコイイところを見せようと、

「火であぶれば柔らかくなるもんだ」

と、薪の火に氷を近づけました。

息子は、どうなるんだろう、と目を輝かせて氷を見ていました。

“ジュッ”

火に当てられた氷は激しい音を立てると、
勢いよく湯気を上げ、水がダラダラと流れてきました。

「父ちゃん、大丈夫?」

息子が心配そうに言うと、父は何食わぬ顔で、

「よし、だいぶ柔らかくなったかな」

と、湯気が立ち上っている氷にかみつきました。

“ガリッ”

「アヂッ」

氷はちょっと熱くなっただけで、かじってもビクともしませんでした。

「父ちゃん大丈夫」

「大丈夫だ」

「やっぱり、かじれないね」

息子が言うと、父は、

「そんな時はなぁ、煮込めばいいんだ」

と、お湯が湧きだしたヤカンの蓋を外して、中に入れました。

「見てろー」

“ジューッ”

という音とともに、ヤカンから勢いよく湯気があがりました。

息子は恐る恐るヤカンの中を覗いてみました。

「父ちゃん、氷、どこ?」

「ん、見えんか? 確かに入れたぞ」

「うん、どこにも見えない」

父もヤカンの中を覗きましたが、なにも見えませんでした。

「あれ?」

「あれ~」

父は、サジを持ってヤカンの中をかき混ぜましたが、
なんの手ごたえもありませんでした。

父と息子は、不思議そうにヤカンの中を眺めました。

そこへ、母が起きて来ました。

「こんなに朝早くに、二人してヤカンを眺めてなにやってるんだい?」

母は不思議そうにたずねました。

息子はことの成り行きを話しました。

息子が話している間、父は面目無さそうな顔をしていました。

母は話を聞いて少し笑ってから、

「そうかい、それならもう一度、氷を取っておいで」

息子は勢いよく外に出ていきました。

息子がいなくなると、母は父に耳打ちしました。


しばらくして、息子は氷を持って帰って来ました。

「どれどれ」

と、父は息子から氷を取ると、

「いいか、見てろよ」

と、母から耳打ちされた通り、包丁を手に取って、
氷を薄く削り、用意していた茶碗の中に入れました。

“ザッ、ザッ、ザッ”

「うわぁ、氷が細かくなったぁ」

息子は目を丸くして、細かい氷が
茶碗の中にたまっていくのを見つめました。

やがて、茶碗に細かい氷がいっぱいになると、

「ほら、食べてみろ」

と、父は茶碗とサジを息子に渡しました。

息子は、なれない手つきで細かい氷をすくい、
口の中に入れました。

すると、息子は目をとじ、口を尖らし、
みるみるうちに顔のものが全部まん中に集まったような
表情になりました。

「つめたーい!!!」

そう叫んだあと、息子は、

「でも、シャキシャキしてておいしい!」

と、ニコニコ笑顔で言いました。

母は別の器を持って来て、

「ほら、この “あんこ”をかけると、さらにおいしいよ」

と、息子の氷の上にかけてあげました。

息子は、すぐにあんこと氷をすくうと口の中に入れました。

「うわぁ~、甘くておいしい」

息子は今にも崩れそうな表情でそう言いました。

「どれ、どれ、わしらも食べよう」

と、父は自分も食べたくてしょうがなくなり、母に言いました。

「はいはい」

と母は言って茶碗を用意し、家族三人、
囲炉裏の火を囲んで、仲良く初氷を食べました。

「おいしーい」

目をとじ、口を尖らし、家族三人顔のものが
全部まん中に集まった同じ表情になっていました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 焼き氷 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kobanashi/01/12.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


知ったかぶり、って、しちゃうときありますよね。
うまくいくこともありますが、バレることも多い。

今回のお話のお父さんも、知ったかぶりして、
失敗を繰り返しちゃっています。

「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」

なんてことわざもある通り、見栄をはらないで、
知らないことは、知らない、って言った方が
本当は楽なんですよね。

でも、ついつい知ったかぶりをしてしまう。

言わなきゃよかった、と後悔しないように、
あ、今、自分、知ったかぶりした!
なんて思ったら、すぐに訂正できる便利が言葉があります。

「知らんけど!」

コレ、大阪のおばちゃんがよく使う言葉らしいんです。

「あの夫婦、最近、うまくいってないらしいよ」

「え、ウソ、ホンマ!」

「知らんけど~」

「知らんのか~い」

と、会話が進むそうです。

実際はお笑い芸人さんのネタなのかもしれませんが、
魔法のような言葉だと思います。

意地をはって知ったかぶりをするよりも、
「知らんけど」と言って、笑いに変えられるといいですね。


今日のHappy♪ポイント

『 知ったかぶりしちゃったときは「知らんけど」って言ってみよう 』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2017年9月25日月曜日

わたしの苦手なあの子

『 わたしの苦手なあの子 』 朝比奈蓉子 作


心地いい世界観の小説でした。

タイトルからも想像できる通り、
苦手なあの子と、仲よくなっていくお話です。

ネタバレになってしまいますが、
目次を見ただけでバレますので書いちゃいます。

物語は装丁の女の子二人の視点で展開していきます。

同じ場面を体験した二人が、
その時、どのように感じたのか。

どんな思いでその行動をとったのか。
それぞれが一人称で、かわるがわるにひもといでいきます。

そこへ、お互いがそれぞれ違う場所で体験したお話が絡み合い、
物語が展開していきます。

このようなタイトルの物語だと、一方に問題があり、
もう一方の助けを借りて改善していく、という内容が定番です。

この物語も、大きく見ればそんな感じな内容ですが、
読み進めると、助けられているのは一方だけではないことが分かります。

お互いが、相手を必要としていて、
そこから、徐々に友情が芽生えていきます。

この物語は、友だちを作る、本当の意味を教えてくれている、
そんな感じがします。

友情というのは、どちらか一方では無く、
お互いが必要な存在であると感じたときに芽生えるのだと思います。

どちらか一方が依存しているような状態では、
友だちとして成り立たず、関係も長続きしないでしょう。

お互いが必要としていて、同じ時間を過ごすのが楽しくて、
いっぱい過ごして友情を育んでいく。

すると、やがて友だちから、かけがえのない、
親友と呼べる存在へと変化していくのだと思います。

この物語の二人がその後、親友になれたかは分かりません。

ただ、この物語を体験したことで、お互いの存在は、
一生特別なものとして心にのこるはずです。

読み終わったあと、自分も素敵な友だちを得たような
ぬくぬく、とした感覚を味わえる、そんな小説です。

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2017年9月23日土曜日

欲張りな犬

小春日和の午後。

一匹の犬がエサを加えて歩いていました。

自分の顔から、はみ出るくらいの大きな肉です。

犬は自分の家に戻ってゆっくり食べようと思い、
早足で歩いていました。

犬の目の前に川が見えました。

この川を越えれば、自分の家はすぐこです。

川を渡ろうとした時です。

フト見ると、目の前に犬がいるのが見えました。

しかも、自分と同じように肉を加えています。

自分がくわえている肉より、目の前の犬がくわえている肉の方が、
少し大きいように見えました。

犬は、その肉も欲しくなり、横取りしちゃおうと考えました。

そして、吠えて相手を威嚇しようとしました。

“おっと”

犬は吠えるのをやめました。

ここで吠えてしまっては、自分の肉が口から離れ、
川に落ちてしまいます。

犬は、川から少し離れたところに、肉をやさしく置きました。

そして、向きを直し、川に向かいました。

するとどうでしょう、目の前の犬も
肉を置いてこっちを向いているではないですか。

これは自分と戦う気なんだな、と犬は思いました。

それならば、先手必勝、とばかりに、
犬は自分から目の前の犬に飛びかかりました。

すると、目の前の犬も、自分に向かって飛びかかってきました。

“このままではぶつかる!”

犬はおもいっきり目をつぶりました。

“バシャーン!!!!”

どうしたことでしょう、目の前の犬とぶつかると思っていたら、
なぜか川に落ちてしまいました。

犬は慌てて川から上がり、びしょびしょになった体を、
ブルブルと振って水を飛ばしました。

そして川を遠くから眺めて、首をかしげました。

おかしなこともあるもんだ、と思いながら、犬は早く家にかえろう、
と思い、自分の肉をくわえて川を渡ろうとしました。

川に近づくと、また、目の前に、肉を持った犬が現れました。

とっさに、今度こそ逃がさないぞ!

と思った犬は、思わず、

「バウッ」

と吠えてしまいました。

すると、目の前に大きな肉が現れました。

肉だ!

と、犬は一瞬喜びましたが、
すぐに自分の口に肉がないことに気づきました。

“あっ、あれはボクの肉!”

肉は川の流れに流されて行きます。

“待て、待て”

犬は、川に浮かぶ肉を追いかけました。

“待って、待って”

犬は必死に肉を追いかけました。

“待って~ぇ”

しばらく追いかけたところで、運よく木の枝に肉は引っかかりました。

“そのまま、そのまま”

犬は肉に追いつき、無事にくわえることができました。

ふーっ、と犬は安堵しました。

“それにしても、おかしなことが起こる川だなぁ”

と、小首をかしげながら、今度はわき目も一切ふらず、

家に向かって一目散に歩き出しました。

そしてもう、この不思議な川には近づかないでおこうと
犬は思いましたとさ。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 欲張りなイヌ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/aesop/01/01.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


今回は、犬目線に拘って書いてみました。
なので『 川にうつった自分に向かって吠えていた 』
というオチが、伝わりにくかったかもしれません(^^;;

この犬のように、敵もいないのに戦おうとしたり、
怒ったり、はたまた落ち込んだりすることって、ありませんか?

思い込み、とか、独りよがり、なんて言葉が浮かんできます。

この物語を読んで、この犬は、なんてバカなことしてるんだ、
とあなたは思ったかもしれません。

でも、いざ犬のような立場になると、おかしい状況になっていることに、
意外と気づかないんですよね。

不思議なものです。

なんとか気づく方法って、ないものでしょうか?

ひとつの提案として、今回のお話を読むように、
第三者の立場から自分を見てみるというのもアリだと思います。

例えば、人に自分のことを話してみて、
相手から率直な感想を聞いてみる。

話す相手がいないのなら、状況を紙に書いて、
それを自分で読み返してみるだけでも、
第三者から見ることに近づきます。

そのような状態になれば、この物語を読んでいるのと同じようになり、
『この犬は、なんてバカなことしてるんだ』とあなたが思ったように、
自分のおかしなところも気付くことができるかもしれません。

客観的な立場、或は、他人の目で見るとでも言うのでしょうか?

「今の状況を第三者から見ると、どう見えるだろう」

と、日ごろから考える癖をつけると、敵もいないのに戦ってしまったり、
意味もないことで怒ったり、落ち込んだりすることが減るでしょうし、
この犬のように

「もう、二度と川になんて行かない!」

なんて間違った考え方をして自分の行動範囲を狭めるようなことも
無くなっていくと思います。


今日のHappy♪ポイント
『 自分の行動を他人の目で見てみよう 』

ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2017年9月21日木曜日

寒い夜を乗り切る方法

昔々の話です。

その日はとても寒い日でした。

空は一面、白い雲に覆われて、北風もピープゥーとふいています。

街には人影もなく閑散としている中、商売人が物売りをしていました。

「とうがらしはいらんけ~、とうがらしはいらんけ~」

唐辛子売りはかごいっぱいに、
燃えるように真っ赤な唐辛子を入れて歩いていました。

「かき~、かきだよ~、とれたてのかきはいらんかい~」

柿売りは、枝に付いたままの柿を何本も荷車につけて引いていました。

唐辛子売りと柿売りは道のまん中で出合い、挨拶を交わしました。

「どうですか、調子は?」

と唐辛子売りが言うと、柿売りが、

「この天気ですからね。お客さんは見つかりそうにないですね」

と、答えました。

やれやれ、といった表情で、お互い笑っていると、
二人の間に、空から白いものが落ちてきました。

「とうとう、降り出したか」

「そうですねぇ」

二人は悩ましそうに空を見上げてから、
やがて、道沿いにあった小屋に入りました。

小屋といっても扉もなく、
申し訳なさそうについている壁と屋根のおかげで、
雪と風は多少は防げる程度、といったところでした。

「よっこらしょ」

二人は腰を下しました。

「こりゃぁ、積もりそうですね」

と、唐辛子売りは空を眺めて言いました。

「そうですねぇ」

と言いながら柿売りも同じように空を眺めて、

「今晩は、ここに泊まるしかなさそうですねぇ」

雲に覆われて姿は見えないが、日はだいぶ傾いて、
うす暗くなってきています。

二人とも、遠くの村から物を売りに来ているので、
すぐに家に帰ることができませんでした。

「仕方ないですね」

仕方ないとはいっても、雪の降る寒い夜を、
こんな小さな小屋で越すのは、命がけのことです。

空を見ていた唐辛子売りは、不安な気持ちに包まれながら
「フーッ」と大きく息を吐きました。

柿売りも、どんどん強くなる雪に覆われていく街を、
心細くぼんやりと眺めました。


───少しの時間が過ぎました。

辺りは真っ暗です。

雪は降り続け、予想通りだいぶ積もってしまいました。

唐辛子売りが寒さで震えていると、柿売りが、
荷車から柿の実がついたままの枝を何本か外し、
柿の実をとって纏め、火打ち石を使って火をともしました。

「お、助かります」

唐辛子はそう言いながら、火に手をかざしました。

「暖はなんとかなりそうですが、困ったのは食べものですね」

と、柿売りが言うと、

「おや、柿売りさんには、柿があるじゃないですか。
 私なんぞ、唐辛子ですよ、辛いだけで腹の足しにもなりゃしない」

唐辛子売りが苦笑いをしました。

すると、柿売りは首を振りました。

「そうでもないんです。実は、柿は食べると
 体温を下げてしまうんですよ。今の状態では食べない方がいい」

「え、そうなんですかぁ、それは知らなかった……」

唐辛子売りは、お腹がすいたら柿をもらおうと思っていたので、
あてが外れてガッカリしました。

たき火はあるとはいえ、扉もなく時折風と雪が吹き込んでくる小屋で、
どうしたものかと、二人は寒さで身を縮ませながら悩みました。

「あ、」

唐辛子売りは何かをひらめいたのか、声を上げました。

「どうしました?」

柿売りが訪ねると、唐辛子売りは渋い表情で言いました。

「いや、どうか分かりませんがね、私の持っている唐辛子は、
 体を温かくすることが出来るんですよ」

「あぁ、確かに、唐辛子を食べると、体がカッカしてきますよね」

「でしょう! でも、あまり食べ過ぎると汗が出て来て逆に
 寒くなってくるから気をつけなきゃいけないんですが、
 私が言いたいのは、それじゃなくてですねぇ」

「はぁ、」

「いや、どんな味になるか分からねぇんだが、
 甘くて体を冷やす柿と、辛くて体を温める唐辛子を
 一緒に食べたら、ちょうどいいかなぁ、なんて……」

「おぉー」

柿売りは感心した声を上げましたが、同時に、不安も覚え、
柿と唐辛子を見比べて少し考えましたが、

「やってみましょうか」

と、明るい声で言いました。

「どんな味か分かりませんよ」

唐辛子売りが慌てて言うと、

「どうせ、お腹を空かせてもイイことありませんし」

そう言うと、柿売りは柿を掴み唐辛子売りに渡しました。

唐辛子売りは柿を手に取ると、変わりに唐辛子を一本、
柿売りに渡しました。

二人は、柿と唐辛子を両手に持ちました。

「それでは、いただきましょう」

「はい」

二人は同時に食べ始めました。

まずは柿の方から。

“カリッ”

「うん、甘くてうまい!」

唐辛子売りが一口食べて言うと、

「でしょう~」

と、柿売りが笑顔で答えました。

そして次に、二人とも唐辛子をかじりました。

“ポリッ”

「うわっ、辛い!」

柿売りが渋い顔で言うと、

「でしょう~」

と、唐辛子売りが笑顔で言いました。

それから二人とも唐辛子を食べたあと、すぐに柿を食べました。

“カリッ”

そして、すぐに唐辛子というふうに交互に食べました。

“ポリッ”

“カリッ”

“ポリッ”

“カリッ”

“ポリッ”

何度か食べていくうちに気付きました。

「あれ、これ、けっこういけませんか?」

と、唐辛子売りが言うと、

「はい、嫌いじゃない味です」

と、柿売りが言いました。

「まぁ、美味しいとまではいきませんが」

「はい、美味しいとまではいきませんが、でも、いけますよね」

「体も寒くなりませんしね」

「はい、ちょうどいいです」

と、二人は柿と唐辛子を交互に食べながら楽しそうに話しました。

やがて、食べ過ぎるのは良くないだろうからと、
どちらからともなく言い出し、お互い二個ずつ食べ、
お腹をみたしてから、たき火の番を決め、
交互に寝ることにしました。


──次の日の朝。

唐辛子売りは、太陽の照らす眩しい光で目覚めました。

雪はすっかりやみ街は一面の銀世界。

空は雲が見当たらないほど、一面、真っ青に広がっていました。

「なんとか、一晩、越せましたね」

たき火を消しながら柿売りが言いました。

「命拾いできましたね」

と、二人は安堵した表情で笑いました。

街には、ちらほらと人が出てきました。

二人は売り物を整えました。

一晩、命を繋いでくれた食べ物を持って、
二人は元気よく雪に覆われた街へと歩いて行きました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 唐辛子(とうがらし)売りと柿(かき)売り 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/minwa/12/30a.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2017年9月18日月曜日

夏空に、かんたーた

『 夏空に、かんたーた 』 和泉 智 作


ご近所に、こんな場所があったら楽しいだろうなぁ~、
と、思います。

学校でもない、家庭でもない、会社でもない、
もうひとつの場所。

舞台は近所のボイススクールにある児童合唱団。
団員は小学校1年生から6年生の9名。
目指すは、市民会館で行われる合唱コンクールで金賞を取ること。

とても、小さな世界の物語です。

ところが、そんな小さな世界でも、
とても豊かに物語が綴られて行きます。

朝早く、酔っぱらって帰宅する謎の叔父さん。
急病で倒れる児童合唱団の先生。

とっても先が不安になりそうな出来事から、この物語は始まります。
しかし、読み進めると不安はすぐに解消されます。

それはなぜか?

とにかく登場人物が、みんな、魅力的だから。
みんな根っこでは同じ方向を見て行動しているから。
だから、不安なことが起こっても安心して読み進めることができます。

大きな葛藤や、悲惨な事件、事故などを期待していると
肩透かしを喰らいます。

よく、悪役が出てこない物語はおもしろくない、と言われます。
この物語には、まったく悪役が出てきません。
その上、大きな事件、事故もない。

そんな物語なのに、この作品の世界観に浸ると、とても気分がよく、
なんだかワクワクしてきます。

読み終えた感想は

「あー、楽しかった」

です。

とくに大きく心を動かされることもありません。
大笑いするわけでもありません。

でも、魅力的な登場人物が奏でる物語と戯れるひと時は、
とても心地いいです。

あなたも、肩の力を抜いて、この心地いい世界観に、
どっぷりとつかってみてください。

きっと、和みますよ。

夏空に、かんたーた (ノベルズ・エクスプレス)

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2017年9月16日土曜日

字を教えて

お母さんと女の子が道を歩きながら、会話をしていました。

「ママ、このまえね、読書感想文書こうとして、
 分からない漢字があったの」

と、女の子が言うと、お母さんは、

「なんて字?」

「“はしら” って漢字なんだけど」

「“はしら” かぁ」

お母さんは立ち止まり人差し指を突き出して、

「左側に “木” って字を書いて、右側に “主” って書くんだよ」

と、空中に書きました。

すると女の子が空中に書かれた “柱” の辺りを、
両手を大きく振って払いました。

お母さんは不思議がり、

「何してるの?」

女の子は真顔で、

「こんなところに柱があったら、
 誰かがぶつかって危ないから消したの」

と言いました。

「そっか、たしかにそんなところに柱があったら危ないね」

お母さんは楽しそうに笑いました。

「それからね “おかし”って字も分からなくて」

「え、“おかし”」

お母さんは笑いながら

「“お” は、ひらがなの “お” でしょ、
 “かし” は、こう書いてこう」

と、空中に書きました。

女の子は、今度は “お菓子”と書いた当たりの空中を両手で掴み、
自分のポケットの中へ入れました。

「あ、今、お菓子とったわね」

と、お母さんが言うと、女の子は、

「エヘヘヘ」

と、いたずらっぽく笑いました。

「それからね」

と、女の子が言うので、お母さんはニコニコ笑顔で

「今度はなぁに?」

「“しあわせ”って字が分からなかったの」

「“しあわせ”かぁ」

お母さんは、また人差し指で空中に書きました。

「こうやってこう、で“幸せ”」

そして隣に、

「でもね、気を付けないと、一本たらないだけで
 “辛い(つらい)”になっちゃうのよ」

と、空中に書きました。

それを見て、女の子は慌てて “辛い” の方を消し去りました。

「あら、幸せの方は消さないの?」

と、お母さんが言うと、

「うん、幸せはこのままにしておく」

「どうして?」

「このままにしたら、ここを通る人、
 みんな幸せになるかもしれないから」

「ふふふ、そうだね、じゃぁ、みんながいっぱい幸せになれるように、
 もっと大きく書いちゃおうかぁ」

「うん!」

二人は一緒に、大きく幸せと書きました。

そして楽しそうに笑い、歩いて行きました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 柱という字 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kobanashi/12/20.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


他人のことを思えるって、イイことだと思うんです。
自分も自分以外の人も Happy♪ だったら、
そんな良い世の中はありません。

毎年、夏になると「24時間テレビ」が放送されます。
いろいろな意見がある番組ですが、
私は、これからも毎年やって欲しいと思っています。

他人のことを思いやることの大切さを思い出させてくれる、
とても貴重な番組だと思うからです。

24時間テレビが放送される前には、時期的に、
ご先祖様を思い出したり、戦争の悲惨さを思い出したり、
悲しい事故を思い出したりします。

そうやって思い出す機会があることは大切なこと。

思い出すことによって、少しでも優しい気持ちが芽生えれば、
それでいいと思います。

不幸なこと、辛いことは、みんなで少しずつ分かち合い、
幸せは、みんなで、いっぱい分かち合う。

そんな世の中になればと思います。


今日のHappy♪ポイント

『 みんな、幸せに、な~ぁれ!』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2017年9月14日木曜日

あわれな悪魔

「全知全能の神さま、お願いがあります」

「なんなりと、聞きましょう」

「わたしは悪魔です」

そう言った悪魔は背中についた、まっ黒で不気味に光る羽を
キレイにたたみ、片膝をついて神さまに頭を下げました。

「わたしは、悪魔でいることが、いやでいやでたまりません」

「ほう」

真っ白なまばゆい光を背にした神さまは、
優しい声で「続けて」と悪魔にうながしました。

悪魔は、立ち上がり、両手を広げて話し始めました。

「人間たちは、良いことが起きると神さま、あなたに感謝します。
 そして、悪いことが起きると、わたしたち悪魔のせいにします」

「ふむ」

「確かに、悪い悪魔は大勢います。
 だから仕方のないことなのかもしれません。
 しかし、わたしは違います。
 わたしはいつも人間の役立つことをします」

「ほーぅ、役立つことじゃと、例えば」

「この間も、飼っている牛の足が沼にハマってしまい、
 困っている人間がいました。
 『また悪魔のしわざか!』と人間が言うものですから、
 わたしは牛を、陸に一瞬にして移動させ、助けてあげました。
 するとどうでしょう、その人間は、
 『神様、キセキをありがとうございます』
 と、あなたに感謝したのです。助けたのはわたしなのにです」

「なるほど、なるほど」

「別に、牛が沼にハマったのは悪魔のせいでもなく
 たまたまそうなっただけです。
 なのに他の行いの悪い悪魔のせいで、悪いことは
 なんでもかんでも悪魔のせいにされてしまう。
 良いことをしても感謝されない。
 わたしは、もうたくさんです。今すぐ悪魔を辞めたいのです」

「なほど、良く分かった」

話を全て聞いた神さまは、何を話そうか、
言葉を選んでいるかのように少し間をおいてから、
静かに話し始めました。

「おまえは、生まれつき悪魔だったな」

「はい」

「すると、おまえは本来、他の悪魔と同じように、
 悪いことをすることが役割のはずじゃが、
 なぜ悪いことをしないのだ?」

「はい、わたしは人間が、なげき、悲しむ姿を見たくはないのです」

「ほう、なんだか優しい心を持っているのだなぁ」

と、神さまは少し微笑みました。
そして、微笑んだままこう言いました。

「おまえは、なにか勘違いをしておるな」

「勘違い? ですと」

悪魔は意外なことを言われて、キョトンとしました。


「そうじゃ、勘違いだ。
 いいか、おまえは先ほど、牛を助けてやったと話したな」

「はい、それがなにか?」

「牛が沼にハマって困るのは、
 沼にハマった牛とそれを所有している人間だ」

「はい、ですからわたしは助けてあげたのです」

「そうじゃな。しかし、果たしてそれは助けになっているのかな?」

「助けに、って、おかしなことをお聞きなさる、
 げんに人間はあなたに感謝している。
 それが助けになった証拠です」

「果たしてそうかな?」

悪魔は何も言わず、ただ小首をかしげました。

神さまは話を続けます。

「人間が、たいがい神に感謝するときは、願いが叶ったときじゃ。
 しかし、殆どの場合、人間の願いが叶ったときというのは、
 わしの力などまったく及ばないことがきっかけで叶うのじゃ」

悪魔は小首をかしげながら、

「どういう意味ですか?」

「願いが叶うときに働くのは、人間の力じゃ」

「人間の力、ですか」

「そうじゃ、人間は自分たちの力、知恵や努力で、
 願いごとを叶えているのじゃ、わしの出る幕などありゃせんよ」

「人間は自分たちの力で、願いを叶えていると……」

「ふむ」

「だとすると、なぜ人間はあなたに感謝するのですか?」

「はてのう、きっと、なにもしないからじゃないのかのぉ」

「なにもしない?」

「そうじゃ、おまえが助けた牛じゃが、
 あのままにしていたらどうなっていたと思う」

「そうですね、人間は困って、
 どうしようと泣き叫ぶのではないでしょうか?」

「そうじゃな、泣き叫んだあと人間はどうすると思う?」

「あなたに、助けを求めるのでは?」

「そこじゃ、おまえが勘違いしているのは」

「───どこでございますか?」

「人間は、わしに助けを求めるよりも早く、或は同時に、
 どうやったら牛を助けられるか考えるのじゃ」

「考える?」

「そうじゃ、引っ張り上げられるか、とか、人を呼ぼうとかじゃ」

「はぁ……」

「そして、すぐに、なんらかの行動する。
 牛を助けられれば、それは良い経験としての成長になる。
 もし、牛を助けられなかったとしても、
 “牛なだけに”失った悲しみは、
 次は沼に牛を近づけるときは気をつけよう、
 といった知恵としての成長になるのじゃ」

「牛なだけに?」

「ダジャレじゃ、おもしろいか?」

悪魔は無言で、神さまを見つめました。

神さまは咳払いしてから続けました。

「つまり、おまえがキセキを起こして助けたことは、
 そんな人間の成長を邪魔してしまったことなのじゃ。
 それは人間にとっては、むしろ悪いことじゃ」

「え、悪いこと」

「そうじゃ、つまり、おまえたち悪魔がやっていることは
 悪いことなのじゃ」

「悪いこと……、するとわたしは、他の悪魔と同じと……」

「残念なことだが、そういうことじゃ」

「なんと……」

良いことをしていると思っていた悪魔はがっくりと肩を落としました。

神さま優しい口調で言いました。

「そう肩を落とすな、本当にいいことをしていれば、
 その内ひとりでにわしらと同じ神になれる」

「本当ですか?」

「あぁ、本当じゃ、それには本当に人間に役立つことはなにか、
 本当の助けとはなにかを、しっかりと学び経験することじゃ」

その言葉を聞いて悪魔の顔は笑いに包まれました。

「分かりました神さま、よく考えてみます。
 ありがとうございました」

「ふむ」

悪魔は黒い羽を羽ばたかせ、飛んでいきました。

悪魔が過ぎ去った後で、羽が一本、空中をゆらゆらしながら、
神さまの足元に落ちました。

その黒い羽には、ところどころ白い色がまじっていました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 あわれな悪魔 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/world/12/17.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


人の役に立つと思ってやったことで、
むしろ相手には迷惑だった、ってこと、よくありますよね。

そういう時、って、「自分の中にあるイイこと」
をしてしまっていているんですよね。

「相手にとってイイこと」をしなければ、
迷惑になることもそりゃあります。

自分の中にあるイイことは、相手にとってイイこととは限りません。

ところで、あなたは「相手にとってイイこと」
について考えたことありますか?

こんなことをしたら、喜んでくれる!
と勝手に判断していませんか?

それでは、自分の中にあるイイことを、
他人に押し付けているだけです。

かってに良かれと思って行動しちゃうと、
かえって迷惑をかけてしまうことになってしまいます。

それじゃぁ、何もしてあげられないよ。
と、なってしまいそうです。

この物語の神さまくらい遠い存在なら、
なにもしないで知らんぷりもできるかもしれませんが、
近くにいるのに相手のために何もしてあげないというのは、
関係を壊してしまいかねません。

では、どうすればいいのか。

「相手とってイイこと」を相手に聞いてみましょう。

何して欲しい?

聞かないで、自分の判断で動くから、迷惑になってしまうのです。

些細なことでも、ちゃんと聞く。

聞いただけで「迷惑だ」と答える相手もいるかもしれません。
その時は「あ、失礼しました」と言って、何もしないで、
ただ眺めていましょう。

一度声をかけておけば、何かして欲しいと思ったとき、
必ず相手から声をかけて来るはずですから。


今日のHappy♪ポイント

『 相手の“イイ”を聞いてみる 』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2017年9月12日火曜日

青いスタートライン

『 青いスタートライン 』 高田由紀子 作


泳ぎたくなる。
海で、いや、佐渡島の海で、
1キロ、平泳ぎで。

そんな思いにさせてくれる本です。

とても楽しく読めました。

わたしが初めて25m泳ぐことができたとき、
泳法は平泳ぎでした。

泳ぎきったあと、誰にも知れず、ひとりで、
静かに感動しました。

それだけに主人公が平泳ぎの練習をしているシーンは、
とても懐かしい思いがしました。

この物語は、1人の小学生男子の視点で描かれています。

ひと夏の成長記録なのですが、
それがとても豊かに描かれています。

少年が1人、ひたむきに、がっばっています。
始まりは、軽い気持ちでの挑戦でした。

何度も、やらなければよかったと思います。
そして何度も、やめようと思います。

しかし、主人公はやめません。

気軽に始めたと思っていたけど、

「自信を付けたい」

という思いが込められていたことに気づいたからです。

一所懸命、打ち込みます。

最初、それは少年1人の思いでした。

しかし、少年のひたむきな姿や成長に触れることで、
周りの人たちも、自分の未来に対して、
素直な気持ちが芽生えていきます。

それらの過程が、丁寧に丁寧に、描かれています。

装丁で描かれている佐渡の海岸のまばゆい景色が、
少年たちの成長を、しっかりと受け止め、優しく、導きます。

こんなステキな経験ができて、うらやましいなぁ、
自分もこんな経験したかったなぁ、なんて思っちゃいます。

でも、本当は誰でも子供の頃に経験していると思うんです。
きっと、特別な物語じゃないんです。

ただ、それはあまりにも日常的すぎて気づいていないだけ。
思い出せないだけ。

この小説は、誰にもきっとあったハズの経験を、
物語にして綴ってくれます。

この物語を読んで、清々しい気持ちになれたひとは、
同じような経験をした人だと、わたしは思います。

読後はステキな爽快感に包まれます。

全ての年齢のかたにオススメできる作品です。

青いスタートライン (ノベルズ・エクスプレス)

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2017年9月9日土曜日

借金取りがやって来た

むかし、むかしの話です。

ある長屋に、青年が住んでいました。

青年は気立てが良く、めったに怒らない性格で
人を疑うことも知りません。

それだけに、だまされて、自分が借りたわけでもない借金を、
かたがわりしてしまうことが多くありました。

そして今日も、借金取りがやって来ました。

「今日こそは、ちゃんとはらってもらうよ」

借金取りは青年に強い口調で言いました。

青年は、何度も言葉をはぐらかして、お金を返さずにいたので、
借金取りはとても怒っていました。

強い口調の借金取りに、ゆかに腰をおろした青年は、
ビクともせずに冷静に対応しました。

「もうちょっと待ってもらえますか、実は、近々、
 お金が手に入るあてが、三つもあるものですから」

「なに、お金が入るあてだと? しかも三つも?」

「はい!」

すずしい表情で返事をする青年を見て、借金取りはおどろきました。

いつもお金がない青年に、お金が入るあてがあるハズがない
と思ったからです。

しかも、三つなんてあるハズがない。

借金取りは、少し興味が湧きました。

「その三つの“あて”とやらを聞かせてもらいましょう」

借金取りは、半身でゆかに腰かけ、聞く体制になりました。

青年は背筋を伸ばしたまま、

「イイですよ、まず一つ目は」

と、人差し指をピンとのばして言いました。

「私が、どこかで大金をひろうかもしれません」

「なんだと!」

借金取りは声を上げました。

「バカ野郎、そんなのは“あて”とは言わん!
 まったくいい加減な奴だ。で、二つ目はなんだ!」

「はい、二つ目は、お金持ちが私に大金をわたしてくれるかも
 しれません」

「なっ、このご時世、そんなやつが都合よくいるわけないだろう、
 どこまでのーてんきなやろうだい、まったく」

借金とりはあきれた口調で、

「で、三つめはなんだ、またどうせ起こりそうもない、
 もうそうの話なんだろうがな」

「いいえ、三つめが、一番可能性が高いと思っているのです」

青年は、自信ありげにそう言いました。

「お、そりゃぁいいことじゃねぇか、その自信あるっていう、
 三つめを聞かせてもうらおうじゃないか」

「はい」

と言ってから青年は借金取りに顔を近づけて、

「それはですね」

「それは、」

「あなたが」

「オレが?」

「ポックリと死んでしまうかもしれません」

「─────。」

借金取りは、いっしゅん、だまってしましました。

「───オレが、死ぬ? ポックリと?」

「はい!」

笑顔で返事をする青年に、借金取りは勢いよく立ち上がり、
大声で言いました。

「まったく、なんてやろうだ! このオレが、ポックリと死ぬだと!
 聞いて損した。残念ながらオレはこのとおりピンピンしてりゃ!
 お前のあてはぜんぶ大外れだ、さぁ、すぐに借金かえしやがれ!」

ゆかに土足の足をかけ、感情が高ぶって、
今にも暴れそうな借金取りに「まぁ、まぁ」と
青年は落ち着いた口調でたしなめてから、言いました。

「そう怒らずに、冗談です、ほんの冗談」

と、青年は自分の後ろから、ふろしき包みを取り出しました。

「お金なら、このとおりあります。
 ちゃんと利子もつけています。確かめてください」

借金取りは、目を丸くしてキョトンとした表情でふろしき包みを
受け取り、あわてて開いてなかを確認しました。

そこには貸したお金よりも、かなり多くの現金がありました。

借金取りはキョトンとした表情のままで、

「こりゃあ一体、どうしたんだい」

とたずねました。

青年は、すずしい表情で言いました。

「はい、実は、だいぶ前、道を歩いている時に、お金を拾い、
 奉行所(ぶぎょうしょ)に届けていたのですが、
 持ち主が現れないと、おとつい返って来ました。
 それがそのお金の半分です」

青年はふろしき包みのお金を指さしました。

借金取りは、だまって青年の話を聞きました。

「それと、ちょうど昨晩、居酒屋でとなりに座った人と
 話をしていたら、たいそう私のことを気にいってくださって、
 好きなことでもしろ、と大金をくれたのです。
 それを合わせたのがそのお金です」

驚いた借金取りの口は、あんぐりをと開きっぱなしに
なってしまいました。

「そんなことって……、あるもんなんだなぁ……」

借金取りは、ひとり言のようにつぶやきました。

「はい、あったんです」

と、青年は穏やかな口調で言いました。

少し時が経ち、やっと我に返った借金取りは、
ふろしきを大事そうに包み直し、持っていた袋に入れました。

「確かに、金は返してもらった。もう、会うこともないだろうよ、
 じゃなぁ、達者でな」

と、借金取りは帰ろう背をむけました。

青年は借金取りの背中に向けて、大きな声で言いました。

「あなたも、くれぐれも気を付けて、
 なんたって“あて”の二つ当たりましたから!」

帰ろうとしていた借金取りは、ビックと、かたを上げました。

「あてが二つ、当たった?」

借金取りは、ふり返り、青年の顔を見ました。

「三つめは確か……」

青年は、さわやかな笑顔で借金取りを見つめました。

借金取りは青い顔になって、周りをキョロキョロしながら、
なにも言わず落ち着かない足取りで帰って行きました。

青年は長屋の外に出て、手をふりながら言いました。

「お気を付けて~」


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 三つのあて 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/kobanashi/12/10.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


人に、嫌なことされたり、誤解されたり、
人生辛いことも多いです。

でも、この物語の主人公のように、
ユーモアを持って生きていると、とても楽しそうな気がします。

笑いは、気持ちを軽くしてくれます。
リラックスもできますし気分転換にもなります。

お笑い番組などを見て笑い飛ばすのもありですが、
自分から、笑いを作った方が、より効果的かもしれません。

辛いとき、悲しいとき、そんなときこそ、

「この状況、どうやったら笑いに変えられるだろう」

と、無理やりにでも考えてみるとイイかもしれませんね。


今日のHappy♪ポイント

『 辛いことを、笑い話に変えてみる 』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2017年9月6日水曜日

富士山を守れ!

昔々、なやみを相談すると、なんでも解決してしまう
和尚(おしょう)さんがいました。

「どうなされた」

今日は、役人が和尚さんを訪ねて来ました。

「はい、実は和尚様、困ったことを言う者がおりまして」

「困ったこととはなんじゃ?」

「はい、海の向こうの国のつかいが来まして、
 富士山の美しさにほれこみ、どうしても富士山が欲しい、
 と言うのです」

「富士山が欲しいじゃと!」

さすがの和尚さんもビックリして長いくて白いまゆを上げました。

「そうなんです。富士山をくれなければ、
 戦争をしかけるぞ、と申すもので困っています」

役人は頭をかきながら、

「富士山は我が国の象徴(しょうちょう)でもありますし、
 そもそも、あげるもなにも富士山は動かせませんからねぇ……」

「フム」

と、和尚さんは声を出して、目を閉じました。

しばらくちんもくしたあとで、和尚さんは目を見開いて言いました。

「欲しいと言うなら、くれてやればよい」

和尚さんの言葉におどろいた表情をする役人に構わず
和尚さんは続けました。

「そのかわり、富士山を持ち帰る箱を持って来い、
 そしたらくれてやる、と言えばよろしい」

「おおぉ、そんな手が!
 富士山を入れる箱は、ちょっと作れませんね」

役人は手をたたいて納得し、
和尚さんに礼を言って帰って行きました。

ところが数日後、同じ役人がまた相談に来ました。

「なんじゃ、うまくいかなかったのか?」

「はい、おはずかしい話で」

役人は頭をかきながら話しました。

「先方に、和尚様に言われた通り申したところ、
 始めは『そんな箱など作れない』と困っていました」

「フムフム」

和尚さんは目を閉じてうなずきながら聞いていました。

「しかし、話し合いがもたれたのでしょう、しばらくしたあと

 『ならば、富士山をそこに置いたままで、
  自分たちのものということにしろ』

 と言い出したのです。嫌なら戦争だと」

「フムフム」

和尚さんをうなずきました。

そして、しばらく静かに考えてから、目を見開きこう言いました。

「では、置いたままそいつらのものにしてやろう」

おどろく役人に構わず、

「ただし富士山という名前は変えられないから、
 そいつらの国の名前を富士山と変えたなら、
 富士山をそいつらのものと認めてやろう、と申せ」

「おおぉ、その手がありましたか!
 自国の名前を富士山とすることは容易にできますまい」

役人は、手をたたいて納得して、礼を言って帰って行きました。

ところが数日後、

「なんじゃ、またダメだったのか」

「はい~、めんもくありません……」

「しつこい相手じゃのぉ」

「はい、和尚様から言われた通り申したところ
 『国の名前を変えろと、それは困った』
 となりました」

「フムフム」

「その後、例のごとく話し合いがもたれたのでしょう

 『箱もできぬ、国名を変えることもできぬ、
  もはや戦争で力ずくでいただくことにする!』

 と言われました」

「フムフム」

「よっぽど、富士山が欲しいのでしょう……、とは言え、
 まさか、戦争をするわけにはいきませんので、
 なんとか収めたいところです」

和尚さんはうでくみをして「困ったもんじゃのぉ」と呟きました。

今回は和尚さんも頭をなやませました。

和尚さんは目を閉じて、しばらく考えました。

役人を何もしゃべらず、じっと待ちました。

しばらくの時が流れました。

お寺の庭に、スズメがやって来て、チュンチュン、とはねて、
エサはないかと地面をつついていました。

やがて、和尚さんの目が“パッ”と見開きました。

スズメは、いきおいよく飛びたちました。

和尚さんは言いました。

「よし、では戦争をしようではないか」

役人はビックリして、少しよろめきました。

和尚さんは続けて言いました。

「受けて立つと言え、その変わり、我がじん営は富士山に陣(じん)を
 構える、おまえらが欲しい富士山が戦場になって、
 美しい景観が荒れ果ててもいいのならせめてこい、と申せ」

「おおぉ、それはイイ手ですね」

「しかし、これがダメなら、もうお手上げじゃな」

と、和尚さんがめずらしく弱音をはきました。

役人は胸を張って、

「それでダメなら、わがじん営は力の限り戦って、
 富士山にキズひとつ負わせず、守り切ってみせます!」

「それは、たのもしいのぉ」

和尚さんは笑顔で言いました。

「ハイ、そのくらいの意気ごみで交渉してきます!」

役人は力こぶしを和尚さんに見せ、帰って行きました。

その後、役人は現れませんでした。

そして、富士山で戦争が起こった、という報せもこず、
和尚さんは寺の庭で、スズメが、チュンチュン、
とエサを探しているのをぼんやりながめて、
平和に過ごしました。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 富士山のいれもの 』
http://www.hukumusume.com/douwa/koe/kobanashi/12/02.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


~今日のHappy♪ポイント~

『 あの手この手を考えてみよう! 』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/


2017年9月2日土曜日

ロバとイヌのエサ探し

ロバとイヌが仲良くエサを探していました。

道のとちゅうで向う側からネズミが歩いて来たので、
イヌがたずねました。

「いやぁ、ネズミくん、この先にはエサがあったかい?」

ネズミは道の先を指さしながら答えました。

「うん、この先に看板(カンバン)があってね、
 そこにエサのある場所が書いてあったよ」

エサがあると聞いてロバとイヌは大喜び。

ネズミに礼を言って、

「エサがあるって!」

「ウン、おいしいのがあるとイイね!」

と、ウキウキした気分で歩きました。

しばらく歩くと、看板がありました。
ネズミが言っていたものでしょう。

ロバとイヌは看板に近づき、字が読めるロバが、
イヌにもきこえるように読みました。

「この先、三本の木が立っています。一番左側の木の下に、
 たくさんの麦があります、だって!」

看板を読んで、麦が大好物のロバはうれしそうな声をあげました。

イヌは麦が食べられないのでガッカリしましたが、
ロバがうれしそうにしていたので、

「麦だって、よかったねロバくん」

「ヒヒヒーン、ありがとうイヌくん」

「ところで、看板には他になにか書いてない、肉とかホネとか」

ロバは看板を読み返しましたが、

「他には、何も書いてないねぇ」

「そっかぁ……」

イヌはガッカリしました。

ロバはキョロキョロと辺りを見わたしました。

イヌがあまりにもガッカリしていたので、
他にイヌのエサの情報は無いかと思ったからです。

「あ、」

ロバは何か見つけました。

「ねぇ、ねぇ、イヌくん、あっちにも看板がありそうだよ」

と、ロバは走りました。

イヌはもロバを追いかけました。

看板の前に来ると、ロバは書いてあることを読みました。

イヌはシッポをふって、ロバの読む声をききました。

「三本あるうちの、まん中の木の下には、
 人間が置いて行った干し草があります、だって」

「干し草か~」

イヌはガッカリしました。
また食べられるものでは無かったからです。

「ロバくん、そっちもキミが食べるといいよ」

と、イヌは力なくいいました。

ロバはイヌがかわいそうでしかたありませんし、
自分一人でエサを食べる気にもなりません。

もう一度、キョロキョロと辺りを見わたしました。

しかし、もう看板は見当たりませんでした。

とりあえず、ロバとイヌは三本の木のところまで
行ってみることにしました。

さっきまでは楽しい旅だったのに、今は二人とも、
ガッカリして歩いていました。

そして、三本の木に着きました。

左側は一面の麦畑、その横には干し草がさくさん積んでありました。

その光景に、ロバは今にもよだれがこぼれてきそうでした。

しかし、となりでガッカリしているイヌの姿をみると、
素直に喜べませんでした。

ロバは、なにか無いかとキョロキョロ探していると、
遠くに緑色の何かを見つけました。

「イヌくん、あの緑色のものはなんだろう」

イヌも見ました。それは右側の木のずっと先にありました。

「なんだか、赤いのものも見えるね」

「行ってみようか」

二人は右の木の向う側へ走っていきました。

「あ、カンバンがあった」

ロバはすぐに、書いてあることを読みました。

「おいしいトマトです、だって」

「トマト!」

イヌはさけびました。

「食べれる?」

と、ロバは、おそるおそる聞きました。

「うん、まえに食べたことある、
 あまずっぱくて、みずみずしくておいしいよ」

「やったね!」

ロバは喜びました。

そして、

「みずみずしいのなら、ちょうど、のどがかわいたから、
 ボクも食べよう!」

と、ロバが言いい、二人は仲良くトマトを食べました。

「おいしいね」

「うん、のどがうるおうよ」

ロバとイヌはおたがいの顔を見ながら喜びました。

そして、しばらく二人はトマトを食べて、
大満足してかえりましたとさ。


おしまい。



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集『 一緒に旅をするロバとイヌ 』
http://hukumusume.com/douwa/pc/aesop/11/28.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


この物語は、アドラー心理学でいう所の「共同体感覚」の
一部分なのかもしれません。


※ちょっと話が長くなるので、飛ばしたい人は、下の方にある
ぴょ~ん、まで、飛んでください。


ロバはイヌのためにエサを探そうと行動します。

ロバは自分のエサが見つけられたのだから大喜びして、
一人で走り出して、エサを食べようとしてもいいはずです。

でもロバはそうしませんでした。
イヌのエサがまだ見つかっていないからです。

アドラー心理学では共同体感覚の他に
「課題の分離」というものがあります。

簡単にいうと、今、目の前にある課題は誰の課題かを考える。

イヌのエサが無い、と言うのは、本来、イヌの課題であって、
ロバの課題ではない。

エサを探すか、このまま空腹でいるか、考えるのはイヌであって、
ロバは悩む必要は無い、と言うことです。

でも、ロバはイヌのエサ探しを必死にしました。

それこそイヌ以上に。

ロバはイヌと一緒にエサを食べたい、と思っていたからです。

イヌと一緒にエサを食べるためには、
イヌのエサが無いと実行できません。

つまり、ロバにとってイヌのエサ探しは自分の課題となったのです。

ところで、ロバがイヌとエサを一緒に食べたい、
と思ったのなぜでしょう?

ロバだけがエサを食べると、イヌとの関係が
気まずくなる可能性があると感じたからでしょう。

つまり、イヌとの関係を壊したくない、とロバが思っていたから、
イヌと一緒にエサを食べたいと思ったのでしょう。

ロバとイヌという共同体にとって、一番いい行動は何か、
と考えたロバはイヌのエサを探す、という行動を選んだ、
という訳です。




ぴょ~ん

たまに、自分の欲求だけ満たされると、
すぐに裏切るひとがいますよね。

ホント、ガッカリします。

でも、ロバみたいに友だちのために行動できる人がいると、
心が穏やかになります。

尊敬もします。

そんな友だちがいたら、ずっと付き合っていたいと思います。
そして、自分もこいつのためになんかしよう、と思います。

そんなやり取りが、人間関係を長持ちさせるコツなのでしょうね。

この物語のロバとイヌが一緒にトマトを食べているときの顔を
想像してみてください。

とっても幸せそうだろうなぁ~、と独りでに微笑んじゃいます。

えっ、微笑んじゃうの、私だけ(^^?


~今日のHappy♪ポイント~

『 この関係を続けていくために何ができるのか? 』


ご意見ご感想、お待ちしています(^0^)/