※しばらくの間、童話の更新は週1回(土曜日の夜)のみになりますm(_ _)m

≫≫≫ ☆ もくじ ☆ ≪≪≪

2017年7月19日水曜日

ライオンと羊飼い

とある国に心優しい羊飼いがいました。

良く働き、親も大切にし、近所の人とも気さくに話す
とても気立てのいい青年でした。

そんな羊飼いを良く思わない嫉妬深い者により、全く身に覚えのない
罪を被せられ、罪人として捕まってしまいました。

そして裁判の結果、死刑の判決を受けました。

この国の死刑は、密室で、身動きがとれない状態でいるところに、
空腹のライオンを放つという野蛮なものでした。

羊飼いは無罪を訴えますが、裁判官は聞き入れてはくれません。

羊飼いの両親や友だち、何人もの知人も、

「彼はイイやつだからどうか助けてやってくれ!」 

と訴えますが、受け入れられず、刑は執行されることになりました。

処刑場で体を縛られた状態で羊飼いは、なおも無罪を訴えました。

しかし壁の向う側にいる裁判官は、全く聞き耳を持たず、
近くの役人に目配りをして、ライオンの入れてある檻の扉を
開けさせました。

両親や友人たちが見守る前で、

“ガッタン”

罪人の血で染まったような薄黒い色の扉が
不気味な音をたてて開きました。

少しの静寂の後で、檻の中からライオンが、
のっそ、のっそと出てきました。

ライオンはこの刑の為に、三日間、水だけしか与えられず、
狭い檻の中に閉じ込められていました。

機嫌が悪く、生気を失った目は、ただ獲物を逃さないとばかりに
鈍く光り、赤くて細い血管が白目を被っていました。

“ガルルルルル~”

羊飼いは、殺される! と思いギュッと目を閉じました。

“ガルルルルル~”

うなり声と共に、荒い息遣いも聞えてきます。

羊飼いは、死の恐怖におののきました。

鼓動も呼吸も早くなり、頭が恐怖で爆発しそうになりました。

そんな時、羊飼いの頭にふと、遠い記憶が現れました。

それは、とても懐かしい、何年も前の記憶です───。



羊飼いはその日、不思議な体験をしました。

「さぁ~て、今日の放牧も終わったし、一休みするか!」

一面が緑に覆われた牧場で、仕事の疲れを癒すように背伸びをすると、
良く晴れた青空に、ところどころに浮かぶ白い雲が、
のんびりと流れていくのが見えました。

“ワンワンワン”

羊飼いが飼っている牧羊犬が激しく吠えました。

羊を追い込むとき以外、大人しい犬が必死に吠えているので、
羊飼いは驚きました。

「どうした?」

羊飼いは犬に近づき、地面に膝をつき、頭を撫でてやりました。

「ん?」

犬が小刻みに震えているのが分かりました。

「どうした? 怖いのかい?」

犬は必死に羊飼いの後ろの方を見ていて、時折、羊飼いの顔を見ては
すぐに後ろを見るという落ち着きない動きをしていました。

それは何かを訴えているようでした。

羊飼いは不思議に思い、ふり返りました。

少し行ったところに白い柵があり、その向う側には緑の草原が
広がっています。

草原の奥の方に、何やら、動くものが目に入りました。

「なんだ、あれは?」

羊飼いは「大丈夫だ」と犬の頭を撫でてから柵の方へ
歩いて行きました。

遠くに見えた動くものは、大型の茶色い動物のようです。

「ライオンか?」

羊飼いの鼓動は少し早くなり、咄嗟に腰に差している
ナイフに手を当てました。

近くにライオンがいることは知っていましたが、
滅多なことが無い限り人間には近寄って来ません。

羊の放牧の時は安全と言われている方向に進み、
念のためにライフル銃も持って出かけていました。

しかし、一度もライオンに会ったことはありませんでした。

羊飼いにとってもライオンを見るのは初めての経験だったのです。

ライオンは草原を歩きながら羊飼いの方へやって来ます。

それは猛獣の雰囲気が全く感じられない、
ヨロヨロとした足取りでした。

何か変だなぁ、と、羊飼いは胸のざわめきを感じながら
見つめていました。

ライオンはヨロヨロと歩きながら柵の側まで来ました。

飼いは柵ごしにライオンの顔を見ました。

ライオンの目はとても澄んでいて、ときどき頭を下げ、
何か困っているような仕草をしていました。

“ワンワンワン”

ライオンを見た犬が吠えました。

羊飼いは犬の方を向き“シーッ”と、人差し指を立てて
大人しくさせてから柵を飛び越え、ライオンの近くに行きました。

少し、ドキドキしましたが、近づいて行っても
ライオンはとても大人しくしていました。

羊飼いは、そっと手を伸ばし、羊の体を調べるときのように
ライオンに触れました。

体をさわられてもライオンは大人しくしています。

羊飼いは足を調べてみました。

すると、前足に大きなトゲが刺さっているのを見つけました。

「これじゃ、痛くてヨロヨロとしか歩けないな」

と、羊飼いはライオンの足を自分の膝に乗せ、
腰に差していたナイフを手に取り、大きなトゲを取ってあげました。

「痛かったろう……、さっ、これでもう大丈夫だ」

羊飼いは優しくライオンの足を戻してやりました。

ライオンは前足を何度か足踏みしました。

そして羊飼いを見つめました。

その目はとても澄んでいて、感謝しているように
羊飼いは感じました。

ライオンはサッ、と向きを変えると、草原の方へ軽快に走り、
あっという間に姿が見えなくなりました───。



───羊飼いは、固く閉じていた目をゆっくりと開け、
目の前にいるライオンを見つめました。

“ガルルルルル~”

お腹を空かせて、目は血走り荒々しくうなり声を上げています。

(このライオンに食べられるのだな)羊飼いはと思いながらも、
なぜか落ち着いた気分でライオンを見つめていました。

遠い昔の不思議な経験を思い出したことで、
恐怖が極限まで小さくなっていました。

羊飼いは、静かな口調で、うなり声を上げているライオンに
語り掛けました。

「お腹が空いているのだろう……、さぁ、お食べ……」

語りかけたその声は、とても優しく透きとおった声でした。

ライオンの表情に少しの変化がありました。

うなり声は納まり、血走っていた目も段々穏やかに
なっていきます。

やがて、ライオンは落ち着いた足取りで、
ゆっくりと羊飼いに近づいてきました。

すぐ側まで来ると、澄んだ目で羊飼いを見つめました。

そしてライオンは、そっと、羊飼いの膝の上に前足を乗せました。

その時、羊飼いにも分かりました。

羊飼いは軽く両方の眉を上げ、

「やぁ、元気だったかい」

と、微笑みました。

“グルグル、グルグル”

ライオンは喉を鳴らしながら、羊飼いの足に
頭をスリスリとなすりつけました。

「おい、おい、くすぐったいよ」

身動きが取れない羊飼いは、苦しそうに笑いました。

ライオンは何度も何度も足に頭をスリスリとなすりつけたあと、
羊飼いに寄り添い、大人しく座り込んでしまいました。

予想外の展開に裁判官はあっけに取られました。

羊飼いの両親や友人が口々に、裁判官に言いました。

「ほら、猛獣だって、彼がイイやつなことは分かっている!」

「お願い、許してあげて!」

裁判官はその声を聴いて、静かに目を瞑りました。

そして少し間を置いてから、言いました。

「刑は執行された」

裁判官は役人に目配りをし、その場を去っていきました。

二人の役人が、寝そべっているライオンにビクビクしながら、
羊飼いに近づき、縛っている紐を解いてやりました。

羊飼いは自由になった両手で、ライオンを抱きしめて、

「元気で生きててくれてよかった」

と泣きながら言いました。

ライオンも、羊飼いの頬に、何度も何度も頭を
スリスリなすりつけました。

“グルグル~、グルグル~”

密室を出た羊飼いは、両親や友人に歓喜で迎えられました。

ライオンは名残惜しそうに羊飼いのそばにいましたが、
やがてきびすを返すと、草原の方へ軽快に走り出しました。

「ありがとう! 元気でな!」

と、羊飼いが声をかけると、ライオンは一度だけ振り向きましたが、、
すぐに走り出し、あっという間に姿が見えなくなりました。


おしまい



今回のもとのお話はコチラ

福娘童話集(ライオンとヒツジ飼い)
http://hukumusume.com/douwa/betu/aesop/02/16.htm



━━━ お話はここまで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



☆ちょこっとHappy♪☆


お互い、心の扉が開いたときに、
初めて信じあえる関係になれるんだと思います。

心を閉ざしていては、信じあえる風も通りません。

この物語の羊飼いとライオンはどちらが先に
心の扉を開いたのでしょう。

すがる思いのライオン。

襲われる危険を感じる羊飼い。

羊飼いはライオンが心を開いていることを感じ、
自らも警戒心を解くことができました。

そしてお互いの心の扉が開き、信じあえる風が流れ込みました。


あなたのことを信じてくれる人はいますか?

その人に対しては、あなたの心の扉は
開いているのではないですか?

逆に、信じられない相手には、
あなたの心の扉は閉ざされていませんか?

関わらなくても済む相手なら、閉ざしていても
問題ないかもしれません。

でも、信じられない相手(もしくは環境)が、
どうしても関わらなくてはならない相手なら、
ちょっとだけ、あなたの方から心の扉を開けてみるのは、
いかがでしょう?

最初は、試しに、ちょっとだけ隙間を開けてみる。

その隙間から、少しでも信じあえる風が吹き込んで来れば、
信じあえる関係まではならなくても、少しくらいは、
『マシ』な関係になれるかも知れませんよ。


今日のHappyポイント♪

『 恥ずかしいケド、自分から心を開いてみる 』



あなたの意見をお聞かせくださ~い(^-^)




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